1999年10月29日

「ネットオークションのインパクト」

インターネットの検索エンジンの代名詞とまでされるYahoo! Japanが、インターネット上で総合オークションサイトの運用を開始した。この「Yahoo!オークション」が今、人気を集めている。

一言でこのサイトを紹介すると、「ネット内のフリーマーケット」である。出品者は提供する物の紹介文や写真を掲載し、入札者は購入希望金額を入札する。一定期間内に最高額を入札した人が落札者となり、出品者への交渉権を獲得する。落札後はYahoo! Japanは取引に介入せず、当事者同士の自己責任によるやり取りに移行する。

米国では業界最大と言われ、常時三百万を超える商品が出品されているeBayを筆頭に、いくつかの総合オークションサイトが急成長を遂げている。日本でもいくつかのサイトが存在しているが、これまで目立った成功を収めるには至らなかった。それらが先駆者でありながら勝者になり得なかった理由は、知名度を上げることに失敗したからに他ならない。オークションサイトの命はアクセス数である。出品者は入札者が多い方が価格が上がるし、入札者も出品者が多い方が色々な掘り出し物を見つけることができる。そして一度好循環に入ると、その規模は拡大の一途となる。「Yahoo! オークション」は日本で初めて、この好循環に入ったサイトとなった。既に検索サイトとして多数の利用者を得ていたことを背景に知名度を上げることに成功したことが大きな要因である。ところで、この成功は、日本の商環境にどのようなインパクトを与えるのであろうか。

まず、これまで中古品としての価値が認められなかったものに価値が与えられることで、リサイクル促進の効果が生じるだろう。同時に生活に身近なオークションの普及に伴って、現在のフリーマーケットの主要客層である女性や若者へのインターネットの普及がより一層進むに違いない。ネットオークションは、店舗を持てない人や、障害を持ち外出が困難な人の自活の機会にもなりうる。ネットを利用してSOHOを展開している小規模経営者の広告の場としても利用されるだろう。NTTが独占していたネット通信事業にケーブルテレビ、電力会社などの異業種が進出してきた今、ネットオークション利用者の拡大は、この分野の競争を激化させ、発展・活性化させる可能性がある。さらに、運送・流通業界への影響も無視できない。商品のやり取りは宅配便や郵便を介して行うことになるため、オークションとリンクして新サービスを提供できれば、大きな新規需要を開拓できるだろう。また、視点を変えると、メンタルな面での影響も考えられる。取引が当事者の自己責任で行われることから、自己責任・自己防衛を基調とした、新たなモラル、社会規範が醸成されていくかもしれない。

当然、抱える問題も少なくない。中古品販売業では、生活者が不要品を業者に販売するのではなく、個人売買でより高価に売却してしまうことにより、中古品の仕入れが困難になることが予想される。そもそもこうした新たな商形態に対して、法整備が追いついていない。著作権で保護されている物品、特に書籍・CD・ソフトウェア等複製が容易な製品流通にとって、個人売買の急速な進展は致命傷になりかねない。家庭用ゲームソフトの中古販売の是非をめぐり現在裁判が行われているが、その結論が出る前に、ゲームソフトは人気取引品目の一つとなりつつある。成人向け商品の販売についても検討が行われていない。ネットにおける匿名性を悪用し、盗品や違法薬物等が流通する可能性もある。見知らぬ個人間の金銭のやり取りの増加によって、詐欺などの犯罪も発生するだろう。そうした事態に対するサイト側のセキュリティ体制はまだ甘いと言わざるを得ない。

大量生産大量消費の時代から価値観の多様化の時代に移り、ネットオークションの隆盛は必然であるとも言える。年内には米国からeBayの本格的な進出も予定され、業界はますます活気づくに違いない。こうした状況や、今後発生が予想される数々のインパクトを考慮すると、ネットオークションは日本が本当の意味でのネット社会へと加速するための起爆剤になることを予感させる。それを適切な方向に誘導するための幅広い検討が急務であろう。

#本文章は、朝日新聞読者投稿欄「論壇」に投稿し、没にされた文章です。勿体無いので、ここで一般公開します(^^; なお、執筆は1999/10/29です。

初出:Are you ready for eBay life?
http://www.geocities.co.jp/EpicureanTable/7795/impact.htm

この記事へのトラックバックURL