2016年08月18日

宗教と民族に対する感受性

「凄いゴスペルが聴けるらしい」と言われて行ってみたのがタイムズスクエア教会である。全く事前情報なしに椅子に座ったのだけれど、定刻になって始まったものを見てびっくりした。司会者が「今日は16人の方が新たに洗礼を受けられます」と発言して、宗教儀式が始まってしまったのだ。これはショウではない。参加している人たちは真摯に宗教を信じ、キリストを崇拝し、新しい信者を祝福しているのである。少なくとも、無宗教で、キリスト教に何の興味もない人間がいて良い場所ではない。

事前にきちんと調査して行かなかった自分が一番悪いのだが、僕の人生の中でも最悪の経験の一つになってしまった。

おそらくはこんな記事を読んだ日本人が軽い気持ちで足を運ぶのだろう。

震えるほどの感動を!ニューヨークでゴスペルに行ってみよう!
https://mikissh.com/diary/gospel-nyc/

何が「是非訪れてみたいスポット」だ。アホか。観光の対象じゃないんだよ。

#新しい信者を獲得するために非信者にも公開する、という教会側の意図はあるだろうが。

本当に日本人は宗教と民族に対して無頓着である。そりゃぁ、極東の島国に引きこもっているのならそれでも良いのかもしれないが、一歩、外国に出たら、その田舎者の常識は全く通用しない。

その数日前にも、ニューヨークのコリアンレストランで会話中に「私は韓国が嫌い」と大声で発言されて肩身の狭い思いをしたばかりだった。彼女が韓国が嫌いなのは勝手なので全然構わないのだが、別にNYのど真ん中の韓国料理店で大声で力説する必要はない。僕は、米国で最初にできた友人がDC在住韓国人だったこともあって、単に不愉快にさせられるだけのことだった。彼女は「韓国が嫌い」と大声で言えてすっきりしたのかも知れないが、こちらにとっては食事もまずくなるし、迷惑以外の何物でもなかった。これは、民族に対する考え方以前に、デリカシーの問題でもある。

また別の場所で、大勢でトランプ大統領候補について話していた時、ニューヨーク在住の日本人女性が「米国の田舎に行くと、無教養な白人の多くが本当にトランプ氏を支持していて驚かされる」という話をしたのだが、件の嫌韓女性が大きく頷いていて驚愕した。「あんたもその田舎白人と全く一緒だよ。あなたの嫌韓思想とトランプ氏の思想は全く同じ」と言いたくて仕方がなかったのだが、とりあえず黙っておいた。ここでじっと我慢するところがデリカシーである。彼女は、自分と田舎者の白人の相同性に気がつかないのだろう。ついでに書けば、彼女はセントラルパークのストロベリー・フィールズにも行ったようだった。彼女の嫌韓思想はジョン・レノンの思想の全く対極に位置するのだが、一体何をしに行ったのかは皆目不明である。

Imagine there's no countries
It isn't hard to do
Nothing to kill or die for
And no religion too
Imagine all the people
Living life in peace

(イマジンより抜粋)

評判だから、ガイドに載っているから、みんなが集まっているから、だから行ってみる、というのは、海外旅行では不適切になる場合がある。日本とは異なる文化的、民族的、宗教的背景が存在している場合、そこに集まっている人たちに対して失礼になる場合もあるのだ。そういう、他者に対する敬意は、とても大切である。京都のお寺で葬式をやっているときに、外人観光客がぞろぞろやってきて、故人と全く関係ないのに見よう見まねで焼香を始めて、記念写真を撮り始めたら、誰でも嫌な思いをするだろう。それと同じである。

島国に引きこもっていれば、そこでの常識が全てになっても仕方がない。だからこそ、海外に出て、新しい価値観に触れ、それを受け入れ、消化し、その中で自分の立ち位置を再確認するのが海外旅行の大きな目的の一つだと思うのだが、宗教や民族に対する感受性がないと、ただ見てきて終わりになってしまう。一つのものを見て、表層的に情報を取り入れてそれで終わりでは人間のレベルは上がってこない。

「馬鹿は死ななきゃ治らない」というが、「死ぬまで馬鹿だから、馬鹿は馬鹿なのだ」とも言い換えることができる。別の価値観に触れて、しかし何も変わらないのであれば、それは馬鹿である。

日本は裕福なので、多くの人が宗教がなくても全く問題ない。しかし、宗教がなければ生きていけない人もいる。民族意識を大事にしている人たちも、世界中にたくさんいる。宗教や民族は、これまでの戦争の主因だったし、これからもそうであり続けるくらいに大きなテーマである。そうした「世界的に重要なこと」について鈍感であることは、日本人の決定的な弱点だろう。それらに対する知識は文字情報や画像情報で入手できるだろうが、百聞は一見に如かず。やはり井戸の中から出てみたほうが良い。普通の感受性を持っていれば、何かしら変わるところがあるはずだ。

別に、コスモポリタニズムを推奨するわけではない。日本においてはあまり実感できない宗教や民族について、もうちょっと理解を深め、感度を高めて欲しいのである。少なくとも、ニューヨークやワシントンといった多民族都市においてなぜトランプ氏が支持されていないのかぐらいはわかって欲しいと思う。島国に引きこもり、村社会の中だけで旧態依然として、精神的鎖国状態で暮らしていきたいのなら話は別なのだが。

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