2018年12月14日

「お祝い」についてのお願い

多分、日本に限らないと思うのだが、何かお祝いをもらったとき、お返しをするという文化がある。「お祝い返し」する本当の理由は良くわからない。もらいっぱなしだと居心地が悪いという事情からかもしれないが、面倒くさいことこの上ない。個人的には、こんな文化は早く廃れたら良いと思っている。

僕は別に借りを作ってもなんとも思わないし、借りを作りっぱなしでも一向に気にしない人間なので、「返礼品が欲しければ、最初からお祝い品をくれたりなんてしないでくれ。言葉だけで十分だ」と思う。とはいえ、僕という人間のパーソナリティを僕の周囲の全ての人が知っているわけではないので、何かお祝いの品をいただいたときは、返礼品を渡すことにしている。ただし、僕の返礼品は、多くの場合で普通に売っているものではない。ここ3年ぐらいは、何かをいただいたり、あるいはお世話になった人とのお別れの際には、自分で製作した焼き物を渡すことにしている。

ここ半年ぐらいは生まれた子供に関するお祝いをもらうことが多いので、子供に関連した器を焼くようにしている。子供が生まれれば色々なお祝いをもらうことは想像できたので、あちこち出かけて古今の名作をチェックし、自分ならではのデザインを検討し、何度か試作品を焼いて準備してきた。ようやく人にあげても恥ずかしくないレベルになったと思うのだが、今のクオリティになるまでには約1年を必要とした。

先日、僕の親族の一人が返礼品について「一朗の焼いた焼き物なんて」と鼻で笑うという事態が発生した。その人物は、妻が数回「でも、ちゃんとした焼き物なので」と説明したにも関わらず、執拗に既製品による返礼を主張した。僕の作品を見ることもなしに、である。これは失礼極まりない話だ。

ちょっと話が変わるのだが、以前、東工大スキー部のOB会で、現役部員の支援の目的でお金を集めるという話があった時、僕はこの案に猛烈に反対した。僕の主張は、「現役部員の支援方法は、各自で考えれば良いこと。何も手段がない人間はお金を払えば良い。僕は自分でスキー関連の会社を持っているので、安価にマテリアルを調達することもできるし、合宿に帯同してポールセットやビデオ撮影を手伝うこともできる。だから、お金は払わない」というものだった。スキー部のOB会は僕の案を否定した。全員、一律にお金を払え、と。そういう人たちと同類と思われるのは迷惑なので、僕はOB会を脱会した。以後、一度も東工大スキー部の集まりには顔を出していない。

返礼品の件は、これと同じ種類の話である。

人が、誰かに感謝の気持ちや、支援の気持ちを表す方法はそれぞれである。何も手段のない人間は、金で片付ければ良い。あるいは、金額がわかりやすいブランド品などを買って、お返しすれば良い。あるいは、お祝いと返礼を金銭のやり取り、すなわち貸し借りの問題と捉えているのなら、これが一番簡単だろう。しかし、僕は、僕なりの方法で自分の気持ちの表したい種類の人間である。

幸いにして、僕は持っていても迷惑しない程度の器を焼くことができる。それなりに陶芸経験のある人に見せても、悪く言われることはまずない。だから、僕は返礼を自分で焼いた器にしているのだ。出産のお祝いをかなりの人数からいただいたので、この半年ほど、僕は返礼用の器しか焼いていない。ただ、これは迷惑でもなければ、面倒でもない。お祝いをいただいたことに対する、僕なりの感謝の表明である。自分の手間と時間をかけて感謝の意を表するのが僕のやり方だ。

もちろん、焼き物は好き好きで、僕の作品を良いと思う人もいれば、良くないと思う人もいるだろう。だから、件の鼻で笑った人間のように、僕の焼いた作品を返礼品としてもらうのが迷惑だという人は、最初から僕にお祝いの品を渡さなければ良い。僕は、お祝いをくれなかったからといって付き合い方を変えるような人間ではないから、安心して欲しい。

気持ちを表す方法は、お金だけではない。こんな簡単なことを理解できない人間にはなりたくないし、自分の子供もそうならないようにしたい。繰り返しだが、お祝いやその返礼にお金や、性質的にそれに近い物品を渡すことが悪いのではない。色々なやり方がある中で、お金や、金額がわかりやすい物品を渡す「以外」の手法を否定するのが大嫌いなのだ。こういうところでムラ社会的同調圧力を加えられることには最大限の反発をしたい。

先日、日本へ行った時、知り合いのギャラリストにこの話をして、お祝いをいただいた人たちには「ここに、僕が感謝の気持ちを込めて作った焼き物と、デパートで買ったバーバリーのハンカチがあります。どちらかをお祝い返しに差し上げますが、どちらが良いですか?」と質問して、希望した方を渡そうと思う、と言ったら、「そんなことは聞くまでもない」ということだったので、この案を実行に移すのはやめておくことにした。

そういうわけで、焼き物がいらない人はお祝いは不要です。バーバリーのハンカチの方が良いという人は、もう僕の前に現れなくて良いです。