2019年08月15日

現代作家茶碗特集 日本橋三越

お盆の定番イベント、三越の現代作家茶碗特集を見てきた。この時期の日本は暑くて嫌いなので、この3年ぐらい、いつも米国にいたせいで、数年ぶりである。

前回見に行った時は「どうして茶碗だけ、他の作品(酒器とか、花器とか)と違って高価なんだろう?」と疑問に思っていたのだけれど、最近はなんとなく「こういうことかな」と思うようになったことがある。それは、茶碗は、その作家の技術のその時点での集大成だったり、これからやっていきたいと思っている方向性の表現だったりするということだ。

自分でも器を作っていると、酒器だったり、皿だったり、ご飯茶碗だったり、いろいろなものを作る。酒器は大抵の場合粘土の残りを使うし、皿を作るのは大抵板作りという技法で、その中では複雑な部類の四方皿であっても、機械的にできてしまう(機械的なだけで、手間はかかる)。

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ところが、これが茶碗になると、最初の造形から意図が含まれるし、高台を作ったり、厚さや重さを考えたり、釉薬を決めたり、色々な作意が含まれてくる(板作りでも土選びや釉薬選びはするけれど)。絵付けをするなら、なおさらである。そういった様々な意図を投入できるのが、茶碗作りである。

秀吉や利休の影響はもちろん大きいだろうが、3〜400年の間に、作り手と使い手の間で、「茶碗は別格」という雰囲気を作ってきていて、現代作家にもそれがいつの間にか引き継がれているような気がする。

自分で作っていても、それを感じるのだ。
#もちろん、そう感じてなくて、なんとなく高い価格を付けている作家さんもいるはず。

そういうわけで、茶碗の展示を見るのは、酒器の展示を見るのとは違った楽しみがある。

さて、今年の茶碗特集だが、参加している作家さんは数年前から半分以上が変わっている気がする。それぞれに卒業の理由はあるのだろうが、一部に以前期待していたのに今は作家活動がほとんど見当たらない作家さんもいて、ちょっと寂しく感じるところもある。しかし、同時に新しい才能がいくつも現れてきていて、楽しみも多かった。

出品作品は、今のところこちらで見ることができる。

デジタルカタログ
https://my.ebook5.net/mitsukoshi/artchawan190807/

以下、ざーーーっと簡単な感想。

阿波夏紀
相変わらず見事。技術とデザインが高いレベルで融合している。2つ売約済み。AかBが残っていたら欲しかった。お金なかったけど。

池田省吾
粉引の龍が織部で見たかった。3点とも売約済み。

井上雅子
今は動物をデフォルメした絵になっている。漫画チックになっていて、作者の定番にはまだなっていない印象。通過点といった感じで、様子見。龍、蛙ともに店頭で見つからなかったので、完売。

井上真利
はじめて見る。好きな方向だが、田畑奈央人さん、大石さくらさんなどとの差別化が課題になりそう。

小林佐和子
陶芸ファンの中ではイマイチ地味な存在の、「練り込み」を主戦力にしている作家。しかし、実際にやってみるとその難しさはすぐにわかる。技術的にはめちゃくちゃ高度なものを持っているし、その価値をわかっている人も少なくない様子。個人的には古典的な絵柄が好きなので、今回の恐竜はパス。

佐藤美佳
小林さんと同じく練り込みの作家。今後が楽しみだが、今回はスルー。理由は、自分が彼女について勉強不足だから。

高橋奈己
洗練された白磁を作る作家さん。造形的に上手だなと感じるのだが、磁器についてはちょっと勉強不足というか、この器を見て、「あ、高橋さんだな」と感じる自信がまだないので、スルー。

高柳むつみ
カタログ掲載の黒釉が展示されておらず、かわりに平茶碗が展示されていた。黒釉を見たかった。彼女のこれまでの作風と個性が一番表現されていると感じた作品を購入。

林美佳里
若手の赤絵では一番安定している作家さん。かなりの作品を持っているので、買うとすれば梅紋の一風変わった赤絵作品だったが、今回は資金不足で見合わせた。お金があれば、買っていたと思う。

森岡希世子
綺麗な磁器をつくる作家さん。ただ、個性を感じるのが難しい。もちろん個性はあるのだろうが、高橋さんと同じで、そこにポンとおかれていて、それが森岡さんの作品と感じる自信がない。

吉田純鼓
技術研修所卒、能美市在住とのことなので武山さんの筋だろう。河端理恵子さんと架谷庸子さんの流れが感じられる。「鉱石的赤絵小紋茶碗」が面白かった。初見なので今回は様子見。