2019年11月13日

NODA MAP 「Q」

野田地図の「Q」を観てきた。クイーンの「オペラ座の夜」を下敷きにして書いた新作。




二度観る予定でチケットを確保してあるのだが、一度目の印象は、第一部と第二部の橋渡しが不十分ということと、志尊淳の実力不足が激しくて気になって仕方なく、厳しく言うなら芝居がぶち壊しだったということである。

橋渡しについては、たった一つの台詞で全く違う場面へ誘導された印象を持った。野田秀樹はこの10年ぐらい、戦争や天皇制をテーマにした戯曲を書いているので、それ自体はなんの違和感もないのだが、第一部と第二部の独立具合が激しい。これが、例えば「小指の思い出」のように、複数の場面を行ったり来たりするなら、それらが混合して相関に理由付けができるのだが、本作は第一部がそれだけで完結している印象を受けた。そして、後半で表現される内容はすこぶる重い。そのため、後半で言いたかったことへ無理やりこじつけているような印象を持ってしまった。また、前半、後半ともストーリー展開そのものは平板で、奥に隠された主題が後になって主張してくるような重奏感は希薄だった。

志尊淳については全く知識がなかったのだが、第一声で「これはダメだ」となって、その後も良いところのないままに終わってしまった。松、上川、そして広瀬がそれぞれの持ち味を発揮していたことで、惨敗っぷりが際立ってしまった。今、演劇界には若手の良い男優がいないのかもしれない。いない役者は、いくら野田秀樹でも演出できない。

と、どうしても野田秀樹の芝居はマイナス評価から入ってしまうのだが、プラス部分はもちろんあった。最大のものは松たか子の安定っぷり。早口のセリフも全くよどみがなく、聴き取りやすさも抜群だった。松に支えられた広瀬の芝居は、年齢なりの今しか表現できないみずみずしさだった。広瀬については映画「海街Diary」で他の3女優が霞むくらいの演技を見せていたので大きく驚くことはなかったのだが、場所を舞台に移しても、何の問題もないことを示していた。宮沢りえ、松たか子、蒼井優、黒木華と、どういうわけか野田地図に出演する女優たちは喫煙者が多いのだが、広瀬にはそうなって欲しくない。

上川の演技も、抑えすぎず、出しゃばらず、絶妙なバランスだった。中心の四人の背後で芝居に味付けした脇役たちも、立派にその役を果たしていたと思う。

#だからこそ、志尊の一人負けになってしまったのだが。

他にも、簡易ベッドやシーツを使った演出と、歌舞伎を連想する小道具はとても効果的だったと思う。

ところで、この芝居は「Q」というタイトルにしている以上、クイーンのアルバムとの関連がとても大切になってくる。初見で思ったのは、オペラ座の夜の各曲について、観る側が英語で歌詞を理解しておくことが望ましいということだ。英語の歌詞を聴き取って、頭の中で和訳して、内容を理解しているのでは舞台のスピードについていけない。英語が苦手なら、「この曲はこういうことを歌っている」と、おおまかな内容を把握しておくのでも良いかもしれない。その場面でなぜその曲が使われているのか、これを理解するだけで楽しみは増えると思う。

ところで本作、チケットの転売対策でかなりの不便を強要されることになった。チケットが取りやすくなったのは良いことなのだが、もう少し柔軟性のあるやり方はないのだろうか。突き詰めると、チケットが安すぎるということなのだが。最前列中央なら5万でも完売するはず。お金のない人にはサイドシートや二階席を用意すれば良いだけのことだ。米国のチケッティングはこういうやり方で、大きな問題は生じていない。