2020年12月06日

尾身茂がやらなければならないことは国民に対する謝罪である

ここ数日、テレビを含め、尾身茂はGoToに対して否定的な見解を述べている。たとえば産経ではこんな感じで発言をまとめている。

政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長は6日のNHK番組で「『Go To トラベル』も含め、人々の動きと接触を短期間に集中的に減らすことが感染を沈静化するために必須だ」と述べた。

出典:新型コロナ対策 尾身・分科会長「Go Toも含め、人々の動きを減らすことが必須」
https://www.sankei.com/politics/news/201206/plt2012060003-n1.html

これは、掌返し以外の何ものでもない。なぜなら、尾身茂は、7月にこう発言しているのだ。

新型コロナ対策分科会・尾身茂会長「旅行自体が感染を起こすことはないですから、もしそれが起きていれば日本中は感染者だらけ」

出典:尾身会長「旅行自体に問題はない」との見解
https://news.yahoo.co.jp/articles/86369c82ad9d9b306852507467390ab4607199b1

この発言は経団連のフォーラムでのものだが、尾身茂のこうしたスタンスがGoToトラベルの方向性を決めたことには間違いがない。

ここで政府や役所の内情を書いておくのだが、政府の参考人として国会に出席したり、役所の委員会に委員長格で出席する場合、政府や役所との打ち合わせは必ず実施される。「ちょっと来て、好き勝手に喋ってください」ということは絶対にない。その上で、野党や他の委員からの質問に対して、「こういう質問には、こういう返事をしてください」という打ち込みがある。そういう対応をしてくれないような人には、最初から参考人や委員長を頼まない。

つまり、尾身茂は政府側の人間として、本人の見解とは別に「旅行は問題ない」と発言し、日本全体のGoToトラベルの方向性を決定づけたのである。政治家は与党も野党も素人の集まりなので、与党が「専門家がこう言っている」と言えば、野党は返す言葉がない。しかも、尾身茂は、実績だけは十分な専門家である。

5ヶ月経って、尾身茂がなぜ政府の意向と異なるスタンスに立つようになったのか、その理由はわからない。ともかく僕は、国会での質疑において、尾身茂が政府の顔色をうかがって答弁している様をみて、「どんなに立派な実績があろうとも、こいつは信用できない」と感じた。そして今、尾身茂が援護したGoToのせいもあって全国に感染が拡大し、各地の医療を逼迫させ、北海道や大阪などの医療関係者を危機的な状態に追い込んでいるのである。

経済を回すのは確かに大切だ。ただ、医療を犠牲にするのでは話にならない。今の感染拡大に、尾身茂が果たした役割は決して小さくない。

しかし、現役の医者たちはほとんどこういうスタンスを取れない。医者の世界は旧態依然とした権威主義で、悪いことを悪いと言えず、高名な医者の悪口を実名で言おうものなら、どこから弾が飛んできてもおかしくない。そんな事態になるくらいなら、最初から何も言わないという世界である。特に尾身茂はポリオ対策や鳥インフルエンザ対策で広く知られており、自治医大を中心に幅広い人脈を持ち、WHOとの関係も深い。その辺の医者が呼び捨てできる存在ではない。

だからこそ、である。晩節を汚したくないのであれば、国会において政府寄りの答弁に終始したり、GoToの推進を支援するようなコメントを続けていたことを、「間違いであった」と謝罪すべきなのだ。それは、権威のある専門家としての矜恃だろう。それがないうちは、僕の中ではいつまで経っても「尾身茂」である。