2014年12月08日

パブコメを書く際の注意事項(フェイスブックのノートより転載)

現在、農林水産省は下記の案件についてパブコメの募集をしています。

遺伝子組換えセイヨウナタネ及びトウモロコシの第一種使用等に関する審査結果についての意見・情報の募集について
http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=550001448&Mode=0

このパブコメに対して、「反対の意見を投書しよう」という呼びかけがツイッターの中でなされています。

この呼びかけ自体は別に構わないのですが、多くの人が「パブコメ」に対して誤解をしているようです。パブコメとは、アンケート調査や意識調査とは全く異なるものなので、同じような意見や、科学的に結論が出ていることに対していくら「科学的に見えるようなアプローチ」で意見を書いても全く無駄作業になります。私は実際に経済産業省の課長補佐としてパブコメの処理をした経験があります(ただし、テーマは遺伝子組み換えではありません)から、それをもとに、パブコメのコツを書きます。

(1)まず、「科学的に見えるような(すなわち科学的でない)アプローチ」はダメです。

(2)また「問題ない」と、科学的に結論が出てしまっていることも無駄です。こうした意見をいくら寄せても、「また不勉強な人が投書してきた」と思われ、次のような定型文によって却下されてしまいます。

すでに科学的な検討が実施され、問題ないと結論が出ております。今後は、そういった検討結果が周知されるように努力いたします。


つまり、「せっかく頂いたご意見ですが、その内容についてはすでに学識経験者による十分な検討の後に「問題ない」との結果が出ていることです。そのことにつきましてはパブコメの基本資料にきちんと提示してあったはずですが、こちらの提示の仕方が悪かったかも知れません(もちろん、本音は「書いてあるんだからちゃんと読んでください」です)。今後は、もうちょっとわかりやすく提示するように改善します(実際には変えようがない。きちんと提示されているので)」ということです。

(3)「運用面での不安」についても、ほとんどは「農作物とは交雑しないように配慮します。仮に交雑しても、すぐに排除できます」「耐性はどんな農薬に対しても持つ可能性があるので、そうならないように対処します。仮に耐性を持ったとしても、すぐに対処する体制を整えてあります」として却下されてしまいます。

(1)から(3)までをまとめると、「すでに科学的な結論が出ている話については、非科学的なアプローチの意見は参考にしません」ということです。そして、いくら組織的に投書を繰り返しても、無駄です。これらの投書は役所の係員(大抵は下っ端の一年生、二年生)が全てをとりまとめ、それを課長補佐レベルがチェックします。この時点で、ダブっている意見は全て1つにされてしまいます。百万通あっても、同じ内容なら課長補佐は1つしか読みません。その上で、課長補佐がその裁量で処理できないものだけを、課長や有識者に回します。しかし、ほとんどの場合、課長補佐レベルで終了します。なぜなら、ほとんど全ての意見が「すでに結論がでていること」だからです。

以上から、遺伝子組み換えについては、カルタヘナ法、食品安全基本法、食品衛生法、飼料安全法による遺伝子組み換え食品の審査の仕組みを理解していると同時に、遺伝子組み換え食品の現状(認可の状況を含む)を把握しているのはもちろんのこと、パブコメの前にどういう検討が為されているのか(当該案件については議事録が公開されているはずです。また類似案件については過去のパブコメへの対応が公開されています)をチェックしておく必要があるということになります。その上で、もし合理的な意見があれば、それを投書するのは素晴らしいことですから、ぜひやるべきだと思います。

#組織的な投書は、ほとんどのケースで逆効果になります。

(本エントリーはFacebookのnote機能が喪失したため、アーカイブより2021年3月4日に引き上げてきたものです。なお、アーカイブにおいて一部の文章が閲覧不能になっていたことから、一部加筆・修正しました)