2021年05月10日

澤谷由子さんの玉盃

澤谷さんは初期の個展からずっと注目している作家さんだが、良い作品を出してくる打率が滅茶苦茶高いのが特長である。まさに信頼のブランド。「今回はちょっと冒険してみたのかな」という感じを受けることがない。かといって、新しい挑戦をしない保守的な作家ということでもない。この数年でも玉盃に挑戦し、無釉に挑戦し、カラーバリエーションに挑戦してきた。そして、どれも成功してきた。おそらく品質オタクなのだろう。

今回購入したのは赤い玉盃。いっちんによるグラデーションが見事で、その滑らかさは三代目徳田八十吉さんの器を見るようである。













そして、見ただけではわからない長所がその軽さである。手にするとその軽さに驚く。澤谷さんは下地も自作する作家さんで、軽さへのこだわりも感じられる。僕は玉盃コレクターなので色々な作家さんの玉盃を持っているのだが、一番軽いと思う。コレクションだけでなく、ここまで薄く軽い玉盃は九谷では記憶にない。そもそも、玉盃の下地を自作している作家さんも多くないのではないか。見た目より遥かに軽いというのは、手に取ることができる美術品だからこそアピールできる魅力である。

色を付けるには磁気土に絵の具を混ぜる必要がある。僕は陶土でしか経験がないのだが、絵の具を混ぜると土が硬くなり、ひび割れしやすくなる。恐らく磁器土でも似たようなことが起きるだろう。焼いてみたら割れてしまった、という事態は陶芸家としては一番がっかりすることなので、可能な限り避けたい。そこへあえて突っ込んでいくところに澤谷さんのオタク根性を感じる。

澤谷さんの技術はいくらでも応用がきく。以前写真で見せてもらったバルタン星人も、大皿も、出来栄えは見事だった。新しい色を手に入れて、次に何を作るのか楽しみである。