2021年07月07日

NODA・MAP 第24回公演 - 野田地図 「フェイクスピア」

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最近は1980年代からずっと観てきている野田ファンでもチケットが取れなかったりするのだが、今回は何とか2回分のチケットが確保できた。ところが、6月上旬は僕がワクチン接種の順番が回ってこなくて、売却せざるを得なくなってしまった。今回もまだ一回目の接種しか済んでいなかったのだが、往復自家用車利用で、芸術劇場の地下駐車場に駐車するといった対策をした上で観てきた。

さて、今回は野田秀樹の新作である。このところ、「現代人が忘れてしまったことを思い出させる作品」を書くことが多い野田秀樹だが、本作もその流れ。ただし、どんなことを題材にしているかは本作の重要な要素で、どこで気付くかは(あるいは気付かないかも?)人それぞれだろうが、ともあれそれを観劇前に知ってしまうとチケット代の70%ぐらいを損してしまう。なので、まだ大阪公演を控えている今はその点にはノータッチ。初めて見るときは絶対白紙で観た方が良い。無粋な人がブログで何か書いているかもしれないから、これから観る人は不用意に他人のレビューを参考にするべきではない。

#とはいえ、予備知識が皆無の人も一定数いそうなのだが。

芝居自体は2時間ちょっとの比較的短いもの。前半はいつも通り、登場人物たちが色々入れ替わって、わかったような、わからないような、やりとり自体は楽しいけれど、ストーリーとしてはぼんやりとした感じで進んでいく。ただ、その面白おかしい会話劇のあちらこちらに伏線が配置されている。そういう一つ一つが、残り20分で一気に回収されていく。意味のわからないセリフが、衝撃とともに蘇ってくる。しかも、それは僕たちの世代、50代以上の日本人なら誰でも一度は聞いたことがある言葉だ。

自分の記憶の奥深くと、この芝居の前半でなんともなしに聞き流したセリフがつながっていく。そして、忘れてはいけないことが頭の中に鮮明に蘇ってくる。見てきたはずはないのに、見ているような気になってくる。

数年前に公開されたタランティーノ監督の「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」という映画があるのだが、この作品と同じような構造である。前半から中盤まではちょっと楽しくて、少し退屈な場面が続いていく。これは何なんだろうな、と思っていると様相が一変する。ラストシーンの演出の衝撃度はさすが野田秀樹と言うよりない。

役者は意外と良かったのが前田敦子。一本調子といえばそうなのだが、野田秀樹としても無理がないように脚本を書いていたと思う。期待値が小さかったこともあるけれど、2階席まできちんと声が届いていたところは評価されて良い。

逆にもう一歩だったのは高橋一生。テレビドラマ「天国と地獄」で綾瀬はるかとともに演技力を見せていたのだが、演技力ではなく筋力が不足だったようだ。遊眠社の頃から体育会系の演技を求められるのが野田芝居で、高橋一生は筋力的に足りないようだった。あるいは、公演が続いて疲労が蓄積していたのかもしれない。スローモーションで足元がグラグラしていて、観ている方が怖くなった。

白石加代子は年齢的に難しいところがあったのか、脚本と演出から配慮が感じられた。声はまったく問題なかった。

舞台美術や衣装もとても良かった。

繰り返しだが、初めて観るときは絶対に白紙で。もう一度観たいけれど、東京公演はもうすぐ終了。あと2ヶ月ぐらい後にスタートしてくれたら良かったのに。