2023年03月01日

中島みゆき『世界が違って見える日』

「最高傑作」と言えるかどうかは現時点ではわからない。「臨月」を永久に最高傑作と思っていた期間が長かったのだが、あとになってそれより前に発売されていた「あ・り・が・と・う」が最高傑作と感じたこともあり、いやいや、「EAST ASIA」も良いぞ、と感じたこともあり、何が最高かはその時の気分次第である。

しかし、一通り聴いてみて、「これはイマイチだな」と感じる曲がひとつもなかったことは重要だ。イマイチと感じる理由が歌詞のこともあれば曲のこともありアレンジのこともあったのだが、過去のアルバムを振り返ってみると、何十年も前の作品からずっと1曲ぐらいは好みでない曲があった。もちろん全曲がお気に入りのアルバムもあったのだが、特に最近はそれは珍しいことだった。今回はそういうイマイチな曲がない。マイナスがないだけでなく、全ての曲にポジティブな印象を持つ。

前作から3年2ヶ月が経っており、たっぷり時間をかけて研ぎ澄ましたのだろう。

いちいち「この曲は・・・・」と感想を書くことはしないけれど、ひとつだけ。吉田拓郎がゲスト参加したことで中島さんにとって重要な一枚になったのだと思う。

科学の領域で言えば、ノーベル賞を獲る学者には必ず師匠となる研究者がいるはずだ。師匠やそのさらに先人がその分野を開拓したおかげで、次の研究者が偉大な発明なり発見なりをしてノーベル賞を受賞するのが一般的だと思う。一番高く評価されるのはノーベル賞の受賞者だが、受賞者は自分ひとりでそこに行き着いたのではないことを知っているので、先人に敬意をはらう。この師匠と弟子の関係が吉田さんと中島さんの関係なのだと思う。

吉田さんは、去年でアーティスト活動を終了した。その最後の時に、中島さんに送別されたのだと思う。吉田さん76歳、中島さん71歳。二人とも決して若くはない。しかし、吉田さんが先輩で、中島さんが後輩なのはずっとかわらない。中島さんは吉田さんをゲストに迎え、吉田さんはギターとコーラスで「あとは頼んだよ」と応えたのだと思う。瀬尾一三氏は、それがわかりやすいように編曲して手伝ってくれたようだ。

「イマイチ」と感じる曲が一曲もないので、ずっと聴いていられる。コロナの世界にはありがたいプレゼントである。