2009年06月19日

SNSを利用したネット会議

ライブログはSNSのビジネス利用を提案する会社なので、管理しているSNSもかなりの数になるし、自分たちで利用しているSNSも当然たくさんある。僕が仕事で利用しているものとしては、社内イントラはもちろん、お客様の問い合わせ窓口、スキー販売における会員管理などがある。また、ビジネスの場面での会議、打ち合わせの場としてテンポラリーに利用するケースもある。

さて、会議や打ち合わせの場としてのSNSの利用は、うまく行くケースとうまく行かないケースがある。では、どういう場面でうまく行かないのか。

結局のところ、「参加者が責任回避・自己保身に走った場合」に、うまくまわらなくなる。

僕はこれまで、さまざまな組織に身をおいてきたことがある。その中で一番勉強になったのは経済産業省で役人をやっていたときだが、経済産業省に入って一番驚いたことは、省内のコンセンサスなしに自分の判断で発言できる、ということだ。もちろん、最低限の意思統一はある。たとえば「日本で為された発明は無償で海外に供給されるべきだ」などという考え方は100%受け入れられないし、そうした思想をベースにした発言は許容されないだろう。ただ、これは極端な例であって、実際はこの手の思想は簡単に「これは○」「これは×」と分類できないから、判断はなかなか難しい。そうした判断は個々に任されるわけだが、それはそれとして、僕がやっていた課長補佐というポストでは、地方自治体の首長が参加するような会議、あるいは政治家へのレクなど、かなり責任の重い場面における発言であっても、何かしらの指示とか、指導というものを受けたことがなかった。つまりは自分の責任において、自分の考えを提示できたのである。僕のような自己顕示欲が強く、また自分の主義主張を正確に相手に理解して欲しいと考えるタイプの人間にとって、こんなに居心地の良い環境はなかった。今は株式会社の社長という身分だが、今の方がよっぽど制約があるくらいである。僕が同僚として見てきた中央の官僚はほとんど僕と同じように自分の考えをどんどん主張していたし、それが許容されていた。ただ、許容されていても、それを活用するかどうかは別の問題で、活用するかどうかはあくまでも個人の性格などによっていたと思う。キャリア、ノンキャリというような簡単に思いつくような分類ではない。ノンキャリの係長などでも言うべきことはどんどん発言するタイプの人間も決して珍しくはなかった。また、キャリアでも自分の意見を表明する場面は必要最小限にしようとするタイプももちろん存在した。場はフリーである、あとは個人の資質と裁量で、という状況だったということだ。僕は理研で3年弱働いた後、文部科学省のバイオ行政を熟知している人間として(いわば、スパイ(笑)?)経済産業省の課長補佐としていきなり中央官庁に入ったので、最初の外部会議のときはさすがに驚いた。何も知らされずに「ちょっと行ってきてくれ」と頼まれ、一人で参加した会議で、いきなり経済産業省の意見を求められたのである。もちろん僕も専門家としての知識があったから、その場では意見表明をしたけれど、当然のごとく「個人的な見解ではありますが」と注釈をつけての発言だった。会議から戻り、課長にその旨報告すると、「あ、そう。じゃぁ、また次もよろしく」で終了である。そのやり取りで、「あぁ、勝手に自分の考えで発言してしまって良いんだ」ということを理解し、同時に自由の大きさと責任の重さを理解した。

さて、SNSである。ライブログが設置する電子会議場は、基本的に外部からは見えない。参加者は議長からの招待状によってのみ、会議に参加できる。参加のハードルは高いが、一方で誰でもいつでも発言できるので、情報の共有性、即時性などに優れるのはもちろんだが、誰でも同じ環境でフラットに発言できるという特色がある。社長だろうが、部長だろうが、平社員だろうが、関係ない。ただし、発言はずっと残るし、後から参加した人間も遡って参照することができる。そうした、未来への責任までも持ちつつ、発言することが求められる。つまりは、経済産業省と同じように、参加者には大きな自由と重い責任が与えられることになる。いや、いつでもパソコンとインターネット環境さえあれば書き込み可能だし、書き込みは自動的に記録されてしまうので、「オフレコですが」という但し書きが不可能な分、より大きな自由度とより重い責任が存在するのかも知れない。

僕などはこうした会議場は快適以外のなにものでもないのだけれど、色々運用していると、そう感じない人もちらほら目に付く。そういう人は中間管理職、それもやや上目の人に多い印象があるのだけれど、そういう場では怖くて発言できない、というのである。SNSによる会議場設置の意図は、「どんどん発言してもらって、アイデアを出してもらって、それをみんなで検討して、少しでもいいものにしていきましょう」というポジティブなものだけれど、「余計な発言をしてあとで責任を取らされたら困る」とか、「上長の意向を確認してからでないと発言できない」というタイプの人間にとっては非常に居心地の悪いシステムに見えるようだ。

ベンチャー業界で打ち合わせをしている限りでは、もちろんほとんどの人間が攻めのタイプで、あまり防御に気を配らない。多少の失点はあったとしても、それ以上の得点があればトータルでプラスと考えるし、何より「今よりも少しでも向上しなくては」と考える。だから、SNSの会議場は円滑にまわっていく。ところが、大企業や中央以外の公務員、あるいはそれに類する組織などでは話が逆になる。つまりは、パスミスを恐れずキラーパスを狙う組織ではなく、バックラインでいつまでもパスを回していたいタイプの組織だ。以前、バイオインダストリー協会とSNSで打ち合わせを試みたことがあるのだが、そのときが典型的な事例である。今はどうなのか知らないし、2年ほど前に僕が大変お世話になった塚本氏が協会の専務理事に就任しているから、体質は随分と変わっているのかも知れないが、とにかく当時は「SNSでは記録が残ってしまうので、書き込みしにくい」などと平気で言ってくる組織だった。まぁ、生物系大企業から出向でお手伝いに来ている人が中心の組織だったから、何しろ失点しないことが重要で、得点のことなどはあまり考えていなかったのだろう。こうなってしまうと、もう全然駄目だ。

では、今の日本社会において、得点することが重要なのか、それとも失点しないことが重要なのか。このあたりは個人的には非常にはっきりしていると思っているのだけれど、実際のところ、そうでもないんだろうか。「いやぁ、SNSの会議って、凄い便利ですね。どんどんやりましょう」という意見がたくさん聞こえてくるような社会になって欲しいものである。  

2008年11月10日

ブログを使ってブログっぽくないウェブサイトを構築

2db87347.gif最近はスキー屋さんとしてのアクティビティばかりが目立つ株式会社ライブログですが、もちろん本業はネット周りです。僕自身もいくつかの会社のウェブサイトの運用のお手伝いをしているのですが、そうした中で時々耳にするのが「ブログっぽくないサイトにしたい」という要望。僕とかからするとなんでそんな要望が出てくるのかさっぱりわからないのですが(笑)、この点においては恐らく僕の方がマイノリティで、特にネットに慣れていない人たちにとってはやはり昔からのウェブサイトのインターフェイスの方が安心するのでしょう。多分10年もすればそういう風潮も変化していると思うのですが、現状、ウェブを運営する人も、そのウェブを閲覧する人も、従来型のデザインの方が使いやすいという状態なので、「ブログっぽくないウェブサイト」にデザインしていくことは重要です。

さて、ではなぜサイトをブログにするのかといえば、それは運用がしやすいからです。何か記事を変更する際に、一々ウェブ屋さんに注文していたらお金も手間も時間もかかってしまいます。思い立ったときにさっと内容を変更できるのがベストなわけで、それを実現できるのがブログです。

「デザイン面ではブログは嫌だが、機能面ではブログを使わざるを得ない」という二つの要望を同時に満たすには、「ブログを使って、ブログっぽく見せないこと」が必要になってきます。そうしたニーズを満たす事例として、「ワイワイネット」のウェブサイトを紹介しておきたいと思います。

ワイワイネット

このウェブサイトは、デザインをウジパブリシティさんが担当、システム構築をライブログが担当という形で制作したサイトです。ライブログの最大の弱点は社内に専門のデザイン要員を抱えていないということなのですが、その点、プロ中のプロであるウジパブリシティさんとの共同作業によってクリアしました。やはりウェブサイトは見た目が重要です。

このサイトは、ほとんど全部をブログの機能を使うことによって制作しています。フォーマット的にはブログ的な部分ももちろん残っていますが、ガイドボタン、最新3記事の見出し情報、そして他のサイトからのRSS情報の取り込み(現在、情報発信もとのウェブサイトが公開されておらず、まだ工事中になっています)といった構成になっていて、サイトの中の一コンテンツとしてブログが存在するように見せています。もちろんここまでカスタマイズしていくにはHTMLやCSSに関する知識が必要なので、普通の人がいきなり作れるわけではありませんが、一度作ってしまえば、あとはブログの運用となんら変わりがありません。

「HTMLとかCSSは全然わからないけれど、自分の手でサイトを運用したい。でも、デザインはブログっぽいのじゃなくて、普通のウェブサイトみたいに見えるのが良い」という方は、お気軽にご相談ください。「技術は良くても、ライブログはデザインが駄目ジャン」という方も、このウェブサイトの出来を見れば納得していただけるかと思います。

ウジパブリシティのアートディレクター、ウジさんとはオールアバウトで記事を書いていた関係で知り合いました。今後もコラボレーションしていきたいと思っていますので、新しい作品が誕生した際にはまたご紹介したいと思います。  

2006年11月21日

■まとめ

以上、ビジネスにおけるブログとSNSの活用法をご紹介してきました。

IT分野の技術革新はまさに日進月歩です。数年前、ブログが登場してきたときにそのビジネス利用についてまとめたのですが、その後、多くの部分はSNSに取って代わられることになりました。今後、ブログは、「情報発信」という本来の用途に特化していき、情報の交換や共有などのその他の機能は、SNSやWikiが引き継いでいくことが予想されます。また、SNSはブログと同様、現在主流のエンターテイメントの用途に加え、ビジネス分野での活用が進んでいくものと思われます。その進化と応用は、まさに私たちのアイデア次第なのです。
  

■閉鎖タイプのSNS

開放タイプのSNSについて書いたので、ついでに閉鎖タイプならではのSNSのアイデアについても記述しておきたいと思います。今、私が考えているのは年少者や高齢者のための、安全なネット空間としてのSNSです。今のネットは詐欺などの犯罪や誹謗中傷などの悪意があちらこちらに存在します。普通にメールアドレスを持っている方であれば、毎日相当量のスパムメールが送られてきているはずです。こうした状況は、ネットの利用になれていない人達にとっては決して好ましくありません。

完全会員制のSNSの中であれば、こうした悪意をほぼ完全に排除することができます。例えば、学校のSNSなどはどうでしょうか。登録は学校の生徒だけ、紹介等は一切不可能、というルールにすれば、その中でやり取りされるメールの中にスパムメールが紛れ込んでくる可能性はほとんどありません。登録されているのは学生だけですから、何か問題が起きてもすぐに対処することができます。

SNSの中は限定された閉鎖空間ですが、その閉鎖性を最大限利用するわけです。ネット初心者のためのSNSは、いわば自動車教習所のようなものです。予備知識なしにいきなり悪意に満ちたネット空間に飛び込むのではなく、きちんとネットの利用方法や危険性などを実地で学び、その後に普通のネット空間に入っていくことができるのです。こうした利用法は、小さいところでは学校単位での利用が考えられますし、大きいところでは社会全体で「中学生限定SNS」などを設置することも可能だと思います。そこに大人がどうやって関わっていくのか、という点については議論が必要でしょうが、有効性は間違いがないと思います。

この教習所タイプのSNSは中学生、高校生といった年少者だけではなく、ネットをほとんど使ったことのない高齢者にも提供が可能です。もしこうしたシステムの設置に興味がある方がいれば、是非ご連絡いただければと思います。
  

■開放タイプのSNS

さて、まとめる前にSNSの定義の項目でも少し触れた、「開放型のSNS」についてちょっと記述してみたいと思います。このタイプのSNSは当然ながら一つの会社の社内イントラとしては利用しにくい部分があります。このタイプの設置に価値が出るのは、一つには例えばオールジャパンで何かの知識を共有したい場合、あるいは特定の業界内などで緩やかな連携を保ちたい場合、さらには会社の製品やサービスなどを中心としてファンサイトを構築したいときなどに有効です。

例えば今構想中のものとして、バイオインダストリー分野の情報共有プラットフォームとしてのSNSがあります。現在、バイオインダストリー協会が設置、運営しているSNSがあるのですが、このSNSは現在完全紹介制で、内部情報は会員にならなくては見ることができません。このSNSは設置されてからすでに1年を経ており、その中で設立された「RNA研究会」は内部のボランタリーな調査によって世界中のRNA技術を調査し、「蛋白質・核酸・酵素」という雑誌にその成果を発表するまでになりました。現在も首都圏バイオ・ゲノムベンチャーネットワークのバイオ人材に関する研究会などを運用しており、ポテンシャルは非常に高いと考えています。しかし、まだその潜在能力を十分に生かせているとは思えません。この最大の要因は共有されている情報の公開先が非常に限定されているということです。折角良い情報がそこでやり取りされていてもそれがきちんと多くの人に発信されなければ役に立ちません。SNSでは、情報の公開先を選択することができますから、誰もがアクセスできる情報、会員だけがアクセスできる情報、会員のうち管理人に許可された人だけがアクセスできる情報、と、情報にいくつかのランクを設定できます。この機能を利用し、大勢で共有する方が好ましい情報については大勢で共有する、といった体制に移行することを検討中です。
  

■SNS利用の問題点

SNSを社内イントラとして利用する際の問題点は、「見てくれない人がいる」ということです。その解決策は、「重要な情報をSNSだけで流す」というルールをつくることです。そうすれば否が応でも、誰しもがSNSを見るようになります。しかし一方で、ネット内に限定したコミュニケーションだけでは、どうしても無味乾燥になりがちです。顔を合わせて生のコミュニケーションをとっていくことも、もちろん大切です。社内SNSに限らず、mixiなどエンターテイメントとしてのSNSでも、「オフ会」と呼ばれるオフライン・ミーティングが非常に重要な役割を果たしています。細々とした情報のやり取りはSNSで行い、重要なやり取りは、実際のコミュニケーションできちんと補うようにすることがSNSの上手な使い方とも言えるのです。

そして、オフラインでのやり取りのうち重要なものは再度オンラインに載せること。この手間を惜しんでしまうと、SNSの利用価値は損なわれてしまいます。会社の中のアクティビティのほとんどがSNSによってデータベース化されていること。これこそが重要なのです。

そして、SNSのビジネス利用についてはもうひとつ、深刻な問題があります。それは、SNSというシステムのリテラシーの問題です。僕はすでに1年近く、このSNSというシステムの有効性を世の中に訴えてきました。その中で感じたことは、だいたい40歳を境にして、それ以上の人達に対してSNSの有効性を説明し、理解してもらうには、ものすごいエネルギーを必要とするということです。「なんでメーリングリストじゃダメなの?」「掲示板って、何を書かれるかわからないから怖いよね」といったところが典型的な意見ですが、まずSNSというものは口で説明するのが難しいシステムです。使ってみて初めてその有効性がわかってくるものですし、また、ちょっと登録して使ってみたぐらいでは、ネットワークも形成されず、自分から情報発信する機会もなく、結局「覗き見」の延長でしかなくなってしまいます。それではSNSの本当の有効性は理解できません。

僕の周りには、40代、50代の人でもSNSの有効性に気づき、その有効活用を進めている人達ももちろん存在します。「絶対に理解してもらえない」というものではないのです。しかし、かなりの割合の人が、新しい技術に触れることを恐れ、面倒くさがり、旧態依然としたネット環境の場所にとどまろうとします。その人達をWEB2.0の世界に引き込むのは本当に大変なことなのです。

ですから、社内イントラネットとしてのSNS導入を僕達の会社で勧める相手は、ほとんどの会社が若い会社です。しかし、この状況は多くの人にとって決して好ましい状態とは言えません。いきなり社内イントラとしてのSNSというのは難しいかもしれませんから、まずはmixiなどの初心者向けのSNSを体験してもらうのが良いのかも知れません。  

■SNSで情報をオープンにして、風通しのよい職場に

社内で活用する際のSNSの最大の特長は、風通しのよい社内環境をつくることができる点です。

僕の会社では、社内の情報は基本的にSNSに載せています。進行中のプロジェクト、計画中の新規案件、耳寄りの連絡事項などのスレッドを立てていて、進捗があれば社員が書き込みます。株主情報などの一部の例外を除いて、正社員もアルバイトも、ほとんどすべての情報にアクセスできます。
 
社内情報をSNSに載せるメリットは、情報をオープンにして、職場の風通しをよくすることにあります。社内の誰が、どんな仕事をしていて、どんな状況にあるのか。今どんな新しい企画が進んでいるのか。どんなアイデアが出されているのか。正社員・非正社員問わず、社内のいろいろな情報にアクセスできることで、一体感やモチベーションを高めることができます。
 
ただし、アクセス不可の情報が多ければ逆効果です。また、都合の悪い情報はSNSに載せないなども、かえって不信感を招くことになります。SNSで情報をオープンにするということは、企業の姿勢そのものをガラス張りにするということでもあるのです。  

■SNSを使って情報をフィルタリングする

次に注目したいのは、SNSによる情報のフィルタリングです。SNSを使ったアイデア出しを例に説明しましょう。SNSでは、更新された順に、スレッド(トピックス)の見出しが並びます。結果的に、更新頻度が高い案件はいつも上位に表示されることになります。従って、アイデアごとにスレッドを立てて、そこに書き込む形で意見交換をしていけば、関係者全員の関心の高いアイデア(=更新の多いスレッド)が上位に表示され続けることになります。反対に、誰も関心を示さないアイデアは、下のほうに表示されます。つまり、関係者全員の総意のもとで、とても明確に、有望なアイデアとそうでないアイデアが選別されるのです。また、「何か埋もれてしまったアイデアの中に面白いものはないかな?」と考えれば、そうやって埋没してしまったアイデアの中からいつでも再検索することが可能です。
 
意思決定権がマネージャーに集中している職場では、優れたアイデアでも、マネージャーが気に入らなければ、ボツになってしまうことがあります。このような職場では、アイデアの芽が摘まれるだけでなく、社員のモチベーションも下がってしまいます。SNSを使ってアイデア出しをすれば、そんな理不尽な意思決定を減らすことができます。同時に、大量の情報がきちんと整理されて保存されますから、一度はダメ出しされたアイデアにも敗者復活の機会が与えられます。

このように、様々な情報をSNS上でカテゴライズしてやりとりしていくことで、価値の高い情報とそうでない情報とをフィルタリングしたり、それらの情報をアーカイブ化して保存することができるのです。  

■SNSによる情報伝達

社内のやりとりをSNSで行えば、すべてのやりとりの履歴がテキストとして蓄積されます。こうした状況は、例えば社内での異動などの際に威力を発揮します。大企業や公務員などでは顕著ですが、一定期間を経た社員には社内での異動がつきものです。この際、「引継ぎ」という作業が非常に面倒になります。私が一時期籍を置いていた中央官庁などは長くても一つの部署に3年程度しかおらず、結果的に異動が日常的に行われています。こうした組織であれば「引継ぎ」のノウハウも非常に洗練されていて、非常に短期間に効率よく引継ぎが行われます。しかし、一般の社会では異動に慣れていない方が普通でしょう。その際に発生する負荷は企業にとっても決して楽なものではないはずです。ところが、SNS上に全てのやり取りが存在すれば、いつ異動になってもその周辺で行われていたやり取りが全てチェックできます。もっと言ってしまえば、異動などがなくても社内のどこで誰がどういうことを考え、何をしているかを知ることができるのです。これこそがweb2.0的なビジネス環境と言えるでしょう。

もう一つ事例を挙げれば、新人教育でも威力を発揮します。進行中のプロジェクトに、新入社員や新メンバーが加わったときに、SNS上のこれまでのやりとりを見せるのです。そうすれば、プロジェクトの経過だけでなく、社内外の各人のキャラクターや人間関係まで分かります。

要するに、SNSの中で蓄積された文書は全ての社員にとっての共有資産となり、あらゆる場面で社員を助けるツールとなるのです。  

■SNSとグループウェアはどう違うのか?

現在では、ほとんどの大企業がグループウェアを導入していると思います。グループウェアとは、企業内LANと呼ばれるネットワークに載せた機能で、スケジュール管理や掲示板でのディスカッションなどが主要な利用方法です。具体的な機能としては、みなさんが普段会社で使っているメールや掲示板、文書共有機能などがあります。SNSは、こうした機能を、より安いコストで導入し、より使いやすくして、さらにコミュニケーション機能を高められるものだと言えます。逆に、ほとんどのSNSになくてグループウェアに存在する機能としては、ファイル投稿機能があります。エクセルやワードなどのファイルを保存し、共有するようなシステムです。なぜこの機能がSNSから欠落しているかというと、SNSに悪意を持った人間が侵入したり、あるいは知らないうちに誰かが投稿するという形でウィルスに汚染したファイルがアップロードされたとき、被害が拡大する可能性があるからです。しかし、ある程度のセキュリティが確保されている集団の中での利用に限定されるのであれば、こうした機能はあってもなんら問題はありません。ライブログがサポートしているSNSではこうした機能もオプションで追加することが可能です。また、ほとんどのSNSにもグループウェアにも存在しない機能(実際にはあまり知られていないだけで、存在している可能性もあります)として、wikiがあります。wikiを利用すれば大勢の人間で一つの文書を作り上げていくことが可能です。この機能は遅かれ早かれ、SNSには標準装備されていくことが予想されます。

さて、グループウェアとSNSの比較に話を戻します。グループウェアが非常に便利なツールであることは間違いないのですが、一般的に利用コストが高く、好きなようにカスタマイズしにくいというデメリットを持ちます。あくまでも与えられたものを与えられた範囲で使うという性質のものです。これに対して、オープンソースのSNSソフトは安価で導入できるという特徴があります。最近のオープンソースのソフトには会議室の予約といった機能が標準装備されているものもあります。最近のSNSソフトの開発の方向性の一つとして、ビジネス向けというものがあり、今後はどんどんビジネスユースにフィットしたものが登場してくるでしょう。オープンソースのソフトであれば、カスタマイズしやすく、自社向けにオーダーメイドすることも可能です。お知らせ機能なども自由自在ですから、必要に応じて情報を社員全員に配布することなども可能です。

もちろん、現在使用しているグループウェアで満足しているなら、それをやめてまでSNSに切り替える必要はないかもしれません。ただし、SNSには、以下でご紹介するような使い方や利点があります。「今のままで十分」と思考停止するのではなく、社内活性化のコミュニケーションツールとして追加導入することも必要なのではないでしょうか。  

■SNSの定義

ここで、もうちょっと厳密にSNSの定義について考えてみます。mixiの成功によってmixiのスタイル=SNSと理解している人が日本ではほとんどですが、僕はmixiのように会員だけがコンテンツにアクセスできる、非会員はアクセスできないというのは必ずしもSNSの絶対要件ではないと考えています。会員だけが記入できるが、閲覧は非会員でも可能、という形態のSNSも実際に存在しています。

僕は講演会などで、「米国は情報発信の文化圏。発信する情報はグーグルにひっかかって何ぼのものであって、かげでこそこそやっていても意味がないと考える。一方で日本は覗き趣味の文化。他人がどうしているかが気になって仕方がない。また村社会のマインドが根強い。心地よい人間だけでつながって、心地よい会話を続けるのが大好きである。そして、そういう日本人のマインドにmixiはぴったりフィットした」という主旨のことを言うことがあります。中にはこういったことを認めたがらない人もいるのですが、明確な反論を受けたことはこれまでになく、おそらく当たらずも遠からずなんだと思います。そして、実は「WEB2.0」というマインドは現状のmixiのようなスタイルとはやや方向を異にすると考えています。WEB2.0という言葉の定義もあいまいですが、ブログの項目で

「情報を囲い込む」時代から「情報を発信する」時代に世の中はシフトしつつあります。そして、これこそがWEB2.0といわれるものの本質だと思います。

と書きました。これをもうちょっと違う書き方をすれば、WEB2.0とは「個人が情報を発信しやすくするための仕組み」であり、それによって「多くの個人が発信した情報によって何らかの価値を生み出す」ことを目的としていると考えています。

mixiの成功にケチをつける気はありませんし、実際に僕もmixiタイプのSNSをいくつも運用しています。ですが、SNSはmixiタイプに限られる必要はないはずです。ネットワークを作り上げていくこともSNSのひとつの目的ですから、個人が識別される形でそこに存在する必要があって、「登録」というフェイズは必ず要求されると思いますが、たとえばそこでやり取りされている情報へのアクセスについては必ずしも登録が必要であるとは思えません。

つい先日、mixiの中の友達があるSNSについてこんな意見を述べました。そのSNSは紹介制ではなく自己登録制だったのですが、「紹介制でないなら誰でも登録できてしまう。それではSNSとは言えない。そんなネットワークはブログで作ればいいじゃないか」と。mixi一人勝ちの日本のSNS環境下ではこういう考え方をしても何の不思議もありません。また、日本人は定義をがちがちに固めてその中にさまざまな事象を押し込め、「こういうものだ」とラベリングするのが大好きですから、こういった意見が出てきても何の不思議もありません。しかし、僕はSNSにはもっと大雑把な定義があると思いますし、またそう考えたほうが可能性も広がると思います。「何かを記述するためには登録が必要。そして、登録者同士がネットワークを構築するのに便利なツールが整備されているシステム」ぐらいならどうでしょうか。

こう考えることをスタート地点とすることによって、SNSの色々な利用方法を開発できると思います。当面はSNSのビジネス利用の多くは閉鎖的な環境であることを活用したものが多くなると思いますが、ビジネスチャンスとしては開放的なSNSにもたくさんの可能性があると感じています。後ほど、開放型のSNSに関する構想を一つ紹介したいと思いますが、まずは、SNSをビジネスで活用した場合のメリットなどについて書いていきたいと思います。  

■SNSの流行

SNSとは、コミュニティ型のウェブサイトで、限定されたメンバーがプロフィールやブログ、トピックスなどの情報を共有できる仕組みです。概念自体はそれほど新しいものではなく、広義に考えれば僕がよく使っている「食べログ」というグルメ評価サイトなどもSNS的であると言えますし(時系列的に言えば食べログの登場はSNSの登場よりも後になりますが、食べログをSNSであると考えている人はあまりいないと思います)、さらに広義に考えればアマゾンの書評などもSNSに近いものがあります。

ちょっと違った視点から言うと、概念的には新しくないものを「SNS」という型にはめたのがSNSの爆発的な普及につながっていると思います。日本では、今年9月に東証マザーズに上場したmixi(ミクシィ)がその代表で、600万人近い会員がいます。日本のみならず、米国、韓国などでも多くの会員を取り込んでいるSNSが存在します。
  

2006年11月17日

■ブログは企業と顧客とのキャッチボール

最後に、ブログをプロモーションに活用する際の注意点に触れたいと思います。

閲覧者がブログを快適に利用している間はよいのですが、何か不平不満があったときは、コメントやトラックバックを通じて運用者に返ってきます。また、閲覧者は運営者からの反応を常に楽しみにしていますから、常にレスポンスを提供していく必要もあります。

たとえて言えば、従来のウェブサイトはピッチングマシーン(ただ球を投げるだけ)でしたが、ブログにすることによってキャッチボールが始まるのです。キャッチボールである以上、相手が無理なく捕れる球を投げる必要がありますし、相手から球が返ってくればきちんと捕球してあげなくてはいけません。いい球が戻ってきたら「ナイスボール」と掛け声をかけてあげることもコミュニケーションの潤滑剤になるでしょう。

ところが、まだ多くの企業が、せっかくブログを始めたにもかかわらず、相変わらず、相手を見ずに自分の投げたい球だけを投げているようです。たとえば日産TIIDAのブログ。このブログでは時々燃費情報が発信されますが、それは高速道路で遠くに出かけたときのものばかりです。では、車を買いたい人は本当にそういう情報を知りたいのでしょうか。少なくとも首都圏に住んでいる人にとってみれば、「環七を一周してみました」とか、「真昼間の首都高を高島平から用賀まで走破してみました」とか、そういった情報の方が価値があると思います。もちろん、日産が高速道路での遠乗りデータだけを掲載したい理由は想像できます。その数字の方が首都圏の渋滞を走った数字よりも距離が伸びますから、消費者に対して良いイメージを与えそうです。しかし、ちょっと車のことを知っている人ならそんなことは百も承知です。「お化粧をばっちり施したデータばかりを見させられてもねぇ」というのが正直なところでしょうし、また、ネットでちょっと調査すれば実際の燃費などはいくらでも情報収集が可能です。実際、僕はTIIDAのオーナーとしてほとんどすべての給油機会で給油量と走行距離、走ったおおよその内容と燃費をブログで情報発信しています。こうした状況では、下手にお化粧した情報だけを発信することは逆に消費者の不信感を招きかねません。自社に都合の良い情報だけを選択的に発信し、都合の悪い情報は囲い込む、というのは先に述べたWEB2.0的な考え方ではなく、旧態依然とした考え方です。TIIDAのサイトもブログ化しなければこうしたことがばれなくて済んだのですが、表面上だけ最新技術を導入し、そのマインドを導入しなかったために、逆に会社が後れていることを露呈させてしまいました。TIIDAのブログはデザイン的にはとても優れていますし、ブログパーツなどを導入したり、色々と面白い試みも行っています。また、トラックバックやコメントをなくすなどということもせず、評価できる部分もあります。しかし、一番肝心なキャッチボールの部分が弱いのです。

もちろん、こうした事例は日産自動車だけに限ったことではありません。逆に、ほとんどすべての大企業がこうした状態だと思います。

#念のため言っておきますが、僕は日産自動車が嫌いなわけではありません。逆に、父親を含め親戚には日産の社員がたくさんいて、元役員などにもお世話になった方々がいます。そして、自分も日産以外の自動車は買ったことがありません。嫌いだから指摘しているのではなく、好きだから指摘しているのです。もっと根本的なマインドから変えていって欲しいのです。

これからは、企業と顧客とがキャッチボールする機会はますます増えていくでしょう。ブログは、その実践練習だと考えることもできます。WEB2.0という言葉自体は最近では多くの人が耳にしたことがあると思います。しかし、その定義は非常にふわふわしたもので、「じゃぁなんなの?」と質問すると返答に困るケースが多いと思います。僕は、WEB2.0というものは実体のあるものではなく、ネットを使うときのマインドだと思います。そして、それは受け取るのではなく、自ら投げる(発信する)文化だと思います。そのときには、常に情報を受け取る側を意識する必要があります。また、「WEB2.0で儲かるのか」「WEB2.0でどういうインパクトがあるのか」ではなく、ただ単にネット社会はそういう社会に変革しつつあるんだということだと理解しています。そして、今その波に乗り遅れてしまうと、数年後に「あれ?俺はどうしてこんなに時代遅れにになってしまったんだ?」と自問することになると思います。

以上、ブログによるプロモーションの可能性について考えてみました。次からは、ビジネスにおけるSNSの活用法について書いていきたいと思います。
  

■学校のサイトもブログ化

「ビジネス利用」というテーマと学校というのはすぐにイメージが結びつかないかも知れません。しかし、少子化が進む現在、学校も一つのビジネスとして様々なサービスを提供していかなくてはならないのが現状です。そんな中で、ブログを利用したサイトを構築して成功しているのが自由学園のサイトです。自由学園は独自の校風と教育方針で有名な学校で、卒業生は各方面で活躍しています。「ここは本当に東京なの?」と思ってしまうような緑豊かなひばりヶ丘(東京都東久留米市)のキャンパスでは、幼児生活団から最高学部までの児童、学生が学んでいます。この学校の特色はいくつかあるのですが、僕が個人的に一番特徴的だと思うのは、「自労自治の生活」というものです。その意味は「読んで字の如し」ではあるのですが、自由学園のサイトを訪問すれば「百聞は一見に如かず」です。サイトのトップに書かれている「自由学園では1日24時間の生活すべてが勉強だと考えています」という文字の意味するところが、自由学園のサイトを訪問するとわずか数分で理解できます。

ブログの特長は再三書いているように「更新が楽」ということです。更新が楽ということは、特定の人が常にサイトを更新しなくてはならないのではなく、不特定多数の情報を発信すべき人がいつでも情報を発信できるということでもあります。学校での生活は多岐にわたりますが、それぞれ必要に応じてもっとも適切な人が情報発信することによって、常に学園の生の情報を届けることに成功しています。

その情報の行き先は、生徒であり、生徒の家族であり、受験を希望している子ども達であり、そしてその家族達であり、さらには学校のOB、OGでもあり、学校周辺の一般の人々までをも含みます。元々特色のある教育を行っている学校ですから、そのアクティビティをきちんと情報発信することができれば、間違いなく学校のアピールになります。そして、この学校はサイトをブログ化してわずか2ヶ月ちょっとしか経っていないのですが、見事にそれを実現しています。「本当かな?」と思う方はこの学園のサイトを是非訪れてみてください。最近、教育関連では気持ちが暗くなってしまうようなニュースが氾濫しています。しかし、そうした中で理想を目指して頑張っている姿を見ることができると思います。

このサイトが成功している理由が何なのかと言えば、「素の姿をそのまま見せることに成功している」ということだと思います。料理ではときどき「素材の良さを生かしている」という表現を耳にしますが、このサイトにも同じような表現が似合うと思います。学校というのは元々コンテンツの宝庫です。それを眠らせているのはもったいない話ですね。自由学園のサイトをお手本にして、これから色々な学校でブログによる情報発信が行われていくかもしれません。  

■RSSによる効率的な情報収集

ここまで情報を発信する立場からブログのビジネス利用について書いてきましたが、ここで息抜きがてら、情報収集サイドからのことに話を変えてみます。

RSSというシステムをご存知でしょうか。RSSは、ブログの閲覧者にとって非常に便利なシステムで、一言で言えば、「サイトのコンテンツの概要を簡潔に発信するシステム」です。日常的に情報をインターネットでチェックし続ける場合、いろんなサイトの記事にいちいち目を通していては時間がかかります。そこで、RSSが活躍します。RSSリーダーと呼ばれるソフトを使えば、様々なサイトの記事の見出しと概要が一覧表示されるので、その中から気になる記事だけを読んで情報収集できるのです。ウェブサービスとして利用できるものもありますし、無料でダウンロードできるソフトもあります。一般的にRSSは、お気に入りのサイトの更新状況とその中身を素早くチェックするために使われています。まずはウェブサービスのRSSリーダーとして最も有名なBloglinesを導入し、このブログを登録してみてください(つまらなければすぐにリストからはずすことができます)。

ちなみに、今、このエントリーをアップした時点でこのブログをBloglinesに登録している人は12人(そのうち1は僕です)います。この記事を書いたことによって登録者は増えますかね?って、その増減のチェックは、このブログを登録しないとできないかもしれないのですが。  

■閲覧者が欲している情報を提供する

ブログは、あくまでも「閲覧者が欲している情報を提供しやすくするためのシステム」です。せっかくブログを導入しても、「閲覧者が欲している情報」を提供できないのであれば意味がありません。このポイントを押さえた例が、清掃業の「パワーヘルパー」という会社のブログです。この会社は、いわゆる“ゴミ屋敷”の清掃にも出向きます。そこで、清掃後の様子だけでなく、清掃前のゴミ屋敷の中の様子を写真に撮って、ブログに掲載したのです。ゴミ屋敷は人間の“怖いもの見たさ”の興味をそそるものです。同社のブログは一躍人気ブログになりました。

パワーヘルパーのブログはたとえばこちらのブログなどで記事として取り上げられています。

お片づけ隊のブログ!

こうした反応こそが、まさにパワーヘルパーのブログの狙いなのです。

自分の家のごみを片付けてもらいたい人にとっては、他人の家の様子やごみ屋敷の清掃状況というのはそれほど興味がないものかもしれません。しかし、中古車を購入するのと違い、一般の家の片付けを業者に頼むということ自体、日本ではまだ一般的ではありません。そうした状況においてはまずパワーヘルパーの業態を多くの人にお知らせする必要があります。そのためには、広く大勢の人が見てみたいと思うような情報を発信することが最短距離です。パワーヘルパーという会社のアクティビティの中で、誰もがちょっとのぞいて見たいような情報を発信することによって、同社は知名度を上げることに成功しました。

何を目的として、どんな情報を発信するか。この2つをきちんと整理することが重要です。  

■WEB2.0とは何なのか?

ここでちょっと話が変わりますが、ライブログでは、「これは誰かの役に立つかもしれない」と思った情報はコンテンツとして公開していくのがひとつの方針です。例えば、今ここでこうやって書いている記事も、その一つです。いきなり書籍化してしまうという手ももちろんありますし、一昔前まではそれが定跡だったはずです。しかし、こうやって先に情報を出してしまう手もあるはずです。もしこうした記事によってブログのアクセスが増えるなら、そこで初めて書籍化しても構わないわけです。「一度ウェブで公開している情報をわざわざ書籍として購入する奴がいるのか」という考え方もあるでしょう。しかし、こうして公開することによってまた違った見方のコメントがあったり、トラックバックがあったりするかも知れません。また、情報を発信していることがそのまま書籍の広報になる可能性もあります。このようにブログという形態で情報を発信した場合、その情報の価値は必ずしも下がるわけではなく、逆にアップする可能性があります。

また、ライブログはいわゆる1円起業制度で会社をつくったのですが、司法書士の手を一切借りず、すべて自分で手続きしました。その手順を「1円起業支援ブログ」としてまとめて、会社のサイトからリンクを貼っています(今は商法が改正されたので手続きは変更されています)。

なぜ公開しているのかと言えば話は簡単で、ライブログは会社設立をサポートする会社ではないので、こうした情報を囲い込んでいてもまったく役に立たないからです。それよりは、多少の手間はかかったとしても、会社設立で利用した様々な情報をブログを通じて公開してしまい、誰かの役に立ててもらったほうが良いのではないかと考えたわけです。そして、仮に僕達が作った「1円企業支援ブログ」を利用して設立された会社が100社でき、その中の一社でも当社の顧客になったとすれば、こんなに嬉しいことはありません。そこまでを期待しているわけではもちろんありませんし、また実際この制度自体が法律改正で変わってしまったので、今となってはあまり利用価値はなくなってしまいました。しかし、これはあくまでも結果論です。

また、こうしたブログを作ることによって、「ブログというフォーマットは日記としてだけではなく、こういう情報発信にも使えるんですよ」というメッセージを発信することにもなるのです。

以前のような「情報を囲い込む」時代から「情報を発信する」時代に世の中はシフトしつつあります。そして、これこそがWEB2.0といわれるものの本質だと思います。  

■顧客は日本中の閲覧者

タックス横浜さんのような事例を紹介すると、「ブログで売上が上がったんですか?」とよく聞かれます。ところが、これこそが旧態依然としたマインドで、これからの時代はそういった短絡的な考え方では乗り切っていけないと思います。売上アップという目に見える変化の裏には、気候、景気の状況、新製品投入などの外的要因から始まって、内部的には会社の活性化や社員の接客意識の向上など、様々な要因があります。ブログで醸成できるものはそれらの要因のうちの一部分です。ブログのプロモーション効果を、数字上の成果に安易に直結させて語ることはできません。逆に、すぐに「こんなに成果があがりました」などいうことであれば、それこそ信頼のおけない返答だと思います。

では、ブログを導入することで期待できるものは何なのでしょうか。ウェブサイトのアクセスが増えることかもしれません。お客様とのコミュニケーションが密になることかもしれません。これは結果的には顧客ニーズの吸い上げにもつながる可能性があります。しかし、これらはどれも「ブログを導入したこと『だけ』による変化とは言いにくい部分があります。もちろん、そういう効果は間違いなく期待できるのですが。

では、ブログ導入の効果は明言できないのかと言うとそんなこともありません。それはgoogleやYahoo!における検索結果が上位になるという客観的なものもありますが、それに加えて、私の経験上、ブログのプロモーションによって社員の意識が変わることが指摘できます。従来の「お客様」とは、来店や訪問で対面する相手のことでしたが、社員がブログを運営するようになると、日本中の閲覧者がお客様になります。当事者意識が強くなり、社員の意識に良い変化が現れると思います。また、日頃からブログで情報を発信することを考えていると、「お客様の知りたいことはどこにあるのだろう」と考えるようになります。これは、お客様のニーズを常に意識することにつながります。また、自分の会社や自分自身をお客様の視点で観ることにもつながります。

情報を囲い込むことによって勝者となっていた時代から、情報を発信することによって勝者となる時代にシフトしてきています。必要なのは、そうしたパラダイムシフトに頭を順応させることです。「すぐに成果があがらないから言い訳しているんだろう」と考える方も当然いると思います。僕が書いていることが単なる言い訳なのか、それともこれからの時代を見据えたものなのか、今の時点では明確な判断はできないと思います。5年ぐらい経ったときには判断可能だと思いますので、そのときにまたこの文章をチェックしてみたいと思います。

#正直なところ、僕自身も僕が書いていることが正しいかどうかはわからないのです。正しいという信念はありますが。

僕の考えは、ウェブによる情報発信の考え方が変わってきており、今からその流れに乗っていれば数年後には間違いなくその成果がでるだろうし、逆にその流れに乗っておかないと、数年後には取り返しが難しいくらいに時代におくれてしまうのではないか、というものです。その時代の流れとは、ブログであり、あとで述べるSNSであり、またこの連載ではあまり深くは触れませんが、wikiであり、オープンソースであると考えています。  

■ブログによるファンサイト構築

ライブログで扱っている事例として、日産RASHEEN(ラシーン)専門のブログを開設している中古車販売会社「タックス横浜」のサイトがあります。ラシーンは既に製造が中止されていますが、今でも多くのファンを持つ人気車です。同社のサイトではラシーンに関する情報を発信すると同時に、メンテナンスやカスタマイズに訪れたお客様をラシーンと一緒に写真に撮って、ブログに掲載しています。そうすることで、お客様の間に同好の士としての仲間意識が芽生え、同時にタックス横浜への愛着も生まれる仕掛けです。これまでも、タックス横浜さんはお客様とのつながりを重視する営業方針でしたが、それを目に見える形にしたのが同社のブログです。このサイトはタックス横浜が提供するラシーンのファンサイトとして成長しつつあります。

これは余談ですが、このブログサイトは、検索サイトのグーグルで「RASHEEN」と入力して検索すると、約122000件のうちで3番目にランクされます(2006年10月現在)。ブログにすれば、検索サイトで上位に表示されるような工夫(この技術を「SEO(サーチエンジン最適化)」といいます)を特にしなくても、高い宣伝効果が期待できるといわれています。こうした効果も決して見逃すことはできないはずです。
 
より多くの人に見に来てもらうには、役に立つ情報や面白い情報を掲載することが必須です。検索エンジンで調べた結果がどんなに上のほうにランクされたとしても、そこで発信されている情報が閲覧者のニーズに合致していなければ意味がありません。ポイントとなるのは、こちらが「何を発信したいか」ではなく、お客様が「何を見たいのか」です。ここをはずしてしまってはいくらブログを設置しても意味がありません。「他の人が乗っているラシーンを見てみたい!」「ラシーンのオーナーと情報交換したい」「ラシーンに関する情報が欲しい!」「ラシーンが欲しい!」というニーズに、同社のブログはきちんと応えています。ラシーン自体はもう生産されていませんが、ラシーンのファンは引き続き生産され続けていて、同社のブログはその一つの基地となりつつあるのです。  

■ブログによるプロモーションの可能性

繰り返しになりますが、ブログをプロモーションに使う最大のメリットは、「更新が簡単」という点です。従来、ウェブコンテンツの更新には、HTMLに関する知識か、Dreamweaver、ホームページビルダーといったソフトが必要でした。しかし、ブログなら、初心者でも簡単にサイトを更新できます。営業や広報といった担当者が自らわずかな時間と労力でプロモーションすることが可能になります。特に最近のブログはほとんどの場合携帯電話からの更新が可能なので、迅速な情報発信に適しています。言うまでもなく、今のビジネスはほとんどすべての局面でスピードが最重視されます。「これはどうかな?」などと考えて検討してから動く人間よりも、「とりあえずまず動かしてしまおう」と考える人間のほうが成功を収めやすい傾向があると思います。そうしたマインドにブログはベストフィットします。これまで、発信したい情報はあるのにそれを発信する手段がなく、「どうしたら良いんだ」と悶々としていた人も多いはずです。そうした人達にとってブログはとてもありがたいシステムです。

ただ、注意が必要なのは、どんな業種においてもブログによるプロモーションがフィットするとは限らないということです。たとえば街中の八百屋さんがブログを設置してお店のプロモーションをしたとしても大きな効果は得られないと思います(もちろん可能性がゼロではありません。業態によっては八百屋さんでも成功すると思います)。

僕は、これまでの経験から、ブログを使ったプロモーションでは、「客単価が高い」「競争が激しい」「リピーター、あるいは長期にわたる継続利用が期待できる」の3つの要素が揃えば、効果が期待できると考えています。こうした業種の代表例は自動車販売業、不動産業、歯医者、エステ、旅館・ペンション、保険、飲み屋、幼稚園などが挙げられます。そして、この3つに加えて、「コンテンツを大量生産しやすい」という特性があれば言うことがありません。ただし、医療関係などの場合は法律上の縛りがあるので、自由にできない側面ももちろんあります。  

■ブログのビジネス利用

ご存知の通り、ブログとは、HTMLのウェブサイトよりも更新が簡単なシステムです。これまでのウェブサイトの最大の問題点は、「作ったのは良いけど、更新していくのが大変」ということでした。更新するたびにウェブ業者に頼まなくてはならないのでは話になりませんし、だからといって一からHTMLについて勉強するのも大変です。結局、世の中のウェブサイトはネット内に存在する「表札」「看板」のようなものになってしまいました。書いてあることと言えば「会社はここにありますよ」「連絡先はここですよ」「うちの会社はこんなことをやっていますよ」といった程度のことで、その内容は数ヶ月前に見たものとなんら変わりがありません。そういうサイトにお客様がたびたび来てくれるはずもなく、「あの会社はどこにあるんだっけ?」と思ったときにちょっとgoogleで調べてアクセスする、程度のものとなってしまったわけです。しかし、特にB to Cの会社の場合、望んでいることはこういったことではないはずです。お客様の生活の一部に食い込んで、お客様のニーズがあったときにはもちろん、ちょっと時間ができたときにもふらっとアクセスしてもらって、会社からのメッセージを読んでもらえるのが一番のはずです。おはようからおやすみまで暮らしを見つめられてしまうのはちょっと怖いですが、ふと顔をあげるとそこにある、というのが多くの会社にとっての理想像なのではないでしょうか。

こうしたニーズにブログはぴったりとフィットします。デザイン上の制約などはありますが、その一方で、一度作ってしまえば誰でも更新が可能で、必要なときにすぐにメッセージを発信できるのです。フラッシュばりばりでデザインに懲りまくったウェブサイトの存在意義を否定するわけではありませんが、見た目よりも中身で勝負しよう、という会社があっても不思議ではありません。私は色々なタイプのブログを実際に運営し、そのポテンシャルを洗い出し、いくつかの提案をしてきました。それをまとめたのが昨年の頭に出版した「ブログ・ビジネス」という本です。その後、SNSを筆頭に様々なシステムが台頭してきて、「何でもかんでもブログでGO!」という状況ではなくなりましたが、今もこれからも、ブログが多くの、特に中小企業にとって強力な武器になるのは間違いないでしょう。

ブログのビジネス利用にあたっては、Movable TypeのようなソフトウェアをWebサーバに組み込んで使用するのが一般的ですが、社長ブログなどではライブドアやココログなどのサービスを利用するケースも少なくありません。実際、ライブログのサイトは「ぶろぐん」というソフトを利用していますし、この社長ブログ(Return of the まにあな日記)の場合はライブドアの無料サービスを利用しています。なぜ会社のサイトはサーバ組み込みが好ましく、社長ブログは一般ブログサービスでも良いのでしょうか?

会社のブログをサーバ組み込みにしたほうが良いのにはもちろん理由があります。これはほとんどどのブログサービスでも言えるのですが、夜間や特定のイベントなどがあったとき、あるいは会員数が突然増加した際などに、サービス提供側でアクセスの急増に追いつけず、アクセスや更新が困難になることがあります。最近はきちんとウォッチしていないのですが、以前はライブドアでも頻繁に更新が不可能になっていましたし、Yahoo!やSo-netなどはもっと更新、アクセス環境が劣悪な状態でした。自社の都合でアクセスが困難になるのであれば納得できますが、他社の都合によってアクセスが困難になってしまうのでは困ってしまいます。たまたまその時期が新しいサービスの投入などにぶつかってしまったら目も当てられません。また、そういうケースはほとんどありませんが、突然サービス提供会社が倒産してしまい、サービスの提供がストップしてしまう可能性もゼロではありません。自社の公式なサイトを他社に下駄を預けるような状況に置いてしまうのは好ましくありません。

一方で、社長ブログの場合は公式ブログとはやや異なる状況があります。それは、社長ブログの役割が会社の公式サイトとは若干異なるからです。僕の場合、この社長ブログは完全な遊びサイトとして運営していますが、以前のほりえもんのブログや、アメブロの藤田さんがライブドアでやっていたブログなどは会社の情報発信の要素もかなり含んでいました。こうしたブログは、もちろん自社の宣伝の要素もあるわけですが、同時に社長自身のプロモーションの色彩もあったわけです。ライブドアの社長としてのほりえもんであると同時に一人のビジネスマンとしてのほりえもんをアピールする場でもあったわけで、この場合、一般の人と同じ土俵で、同じ目線でコミュニケーションできたほうが得策だったりします。上に書いたようなリスクよりも、一般のブロガーとのつながりを重視する場合、一般的なブログサービスを使うことは決してマイナスではないということです。

こうしたブログのビジネス利用に関する詳細については前述の拙著「ブログ・ビジネス」を参考にしていただくとして、以後、事例を交えてその効果を述べてみたいと思います。  

■はじめに

ブログやSNSというと、一般的に個人の日記や趣味の情報交換、仲間との連絡の手段といった、エンターテイメントとしての側面が注目されています。実際、世の中にあるブログのほとんどはこのタイプですし、SNSでビジネスを展開するケースもあまりありません。そもそも、ミクシィなどの大手SNSでは利用規約で一部の商用利用を禁止しています。
・ 次に掲げる内容の情報を、mixi内の書き込み可能な箇所に投稿し、又はメッセージで送信する行為。
(1) 商業用の広告、宣伝を目的とする情報。ただしmixi公認のものを除く。
(2) アフィリエイトのリンクを含む情報。
(ミクシィの利用規約を一部転載)

しかし、ブログとSNSとはあくまでも情報発信、情報交換のフォーマットであり、たまたま先鞭をつけたのがそういった利用方法であったということに過ぎません。フォーマット、イコールツールですから、当然のことながらビジネスにも利用可能です。実際、ライブログでも情報発信のツールとしてブログを使っていますし、情報交換のツールとしてSNSを利用しています。そして、これによって、有用な情報をいち早く発信したり、顧客満足度を高めたり、価値のある情報を蓄積していくといったことに成功しています。
  

新シリーズ「ブログとSNSのビジネス利用」

あんまりブログでこの手の情報発信をしていないので、少し反省しました。これから数回に分けて、「ブログとSNSの仕事での生かし方」について書きます。