今月中にKindle版を出版予定のとんかつ本も最後の詰めの段階である。昔食べたお店を再訪して現在のレベルを確認しているフェイズなのだが、今日は10年近く前に訪問してあまり良い印象を持たなかった「豚組」に行ってみた。
以前の評価:豚組
http://buu.blog.jp/archives/50062491.html
この店、何が気に入らないって、味云々以前に、まずとんかつとしては異例とも言える価格設定が嫌いなのだ。豚は完全に管理された家畜なので、肉の質と価格はほぼ完全に比例する。高い肉は美味しいし、安い肉はそれなりだ。もちろん高いくせにまずい店もありうるのだが、市場が機能していれば、そういう店は自然に淘汰される。だから、2,000円以下のとんかつが美味しい可能性は非常に低いし、逆に3,000円も出せば、それなりのレベルのとんかつを食べることができる。淘汰されない例外は大規模チェーン店で、廉価版で稼いでおいて、味のわからない金持ちからぼったくるような店だ。
この店は、以前訪問したときには5,000円程度もするとんかつを出していた。この価格は、当時も、今も、とんかつの価格としてはハイエンドといえる。加えて、オーナーのネット利用手法が気に入らない。ラーメンで言えば「武蔵」の山田氏のような感じのいけすかなさがある。とはいえ、ずっと昔に食べたきり確認もせずに評価するのはフェアではない。本にこの店を掲載するか否かに関わらず、食べないわけにはいかないので、ちょこっと食べに行ってきた。ちなみにオーナーの中村氏からは「銘柄豚よりもむしろ普通のメニューを試して欲しい」と言われていたのだが、もちろんそんなオーダーは無視して、一番高かった梅山豚のヒレを食べてみた。
まず、ミニトマトのマリネ。
普通なら漬物が出てくるタイミングで、軽く一皿。次にご飯、味噌汁、キャベツ、漬物など。
以前はこのタイミングで店員が頼みもしないのにしたり顔で「食べ方、わかりますか?」などと余計なことを言ってきたので「あんた、馬鹿ぁ?」などと思ったものだが、今回は「下味はしっかりついていますので、そのままでも美味しく召し上がれます。塩は肉の表面に少量振ってください」ぐらいのコメントで、それほど嫌味ではなかった。もちろん、余計なお世話なのは変わりないのだが。このあたりが「俺達のとんかつは普通じゃないんだぜ」という気配を感じさせる。やるなら、相手の顔を見てやれ、と言いたくなる。
#余談だが、先日褒めた神保町の「蘭奢待」は、客が左利きだとわかった時点で、全て左利き用のサービスに変更する。こういう気配りこそが一流どころであって、この店のサービスはそのレベルにない。
そして、ワンテンポ遅れて、網の上にのせられたかつの登場である。
衣はやや粗めで、しっかりしている。針が尖っているように感じられ、食べ終わる頃には口の中が荒れたように感じるほどだ。揚げている温度は標準程度だと思うのだが、火の通りは最低限なので、揚げている時間はやや短めなのではないか。肉の中心部は赤味が残る程度でジューシー。そして、この肉汁が非常に美味しい。これは肉の質の高さゆえであろう。肉本来が持つ旨味と適度な下味で、ソースや塩は一切不要である。辛子だけは風味が広がるので、好みで利用すると良いと思う。今回は半分をそのままで、残りを辛子で食べた。以前は「これだけ出して、このレベルかぁ」と思ったものだが、それも一昔前。今のレベルなら3,800円でも文句はない。
ご飯はやや硬めの炊き上がりで、水気が不足気味。個人的には好みではないが、食べた時間が12:45頃とちょっと遅めだった影響があったかもしれない。
シジミの赤だしは美味しい。キャベツはちょっと繊細すぎる印象。漬物は特にコメントする必要がないレベルだと思う。
以前と比較すると、味の印象は格段に良くなった。一方で、価格は1,000円ぐらい安くなっているのではないか。コストパフォーマンスが良いとまでは言えないが、不当に悪いとも思えず、このレベルなら一年に数回くらいは来ても良いかな、と思う。
同行者が注文した「なっとく豚」(2,600円)のヒレを一切れ食べさせてもらったが、こちらは肉の旨味にやや欠ける印象だった。やはり、肉の質は価格なりである。美味いとんかつを食べたいなら、店で一番高いメニューを注文するに限るという思いを強くした。
店名 豚組 (ぶたぐみ)
TEL 03-5466-6775
住所 東京都港区西麻布2-24-9
営業時間 ランチ 11:30〜15:00(L.O14:00) ディナー 18:00〜23:00(L.O22:00)
定休日 月曜日