今や、最も入手しにくい陶芸家の一人になってしまった澤谷さんの個展が三越であったので、初日の朝イチに見て来た。
販売は抽選なので、朝イチに行っても別にメリットはないのだが、こういうのは気分の問題である。初日の朝イチに見るのが一番楽しい。
今回の見どころは去年あたりから作り始めた「白黒」と、カラーのグラデーション、それと案内状に掲載されている大物(澤谷さんとしては)だろう。
どれも、完成品が素晴らしい出来栄えなのは当然なのだが、これらの価値は製作の難しさにある。見た目よりも格段に製作の難易度が高いというのは、実際に作ってみないとわからないので、コレクターにはなかなか理解してもらえない。
澤谷作品の難易度の高さは、いっちんの工程を含めて、成形段階が全部生土であるということによる。上絵であれば釉薬をかけてから描くことができるので、焼く回数は増えても、リカバリーが効く。下絵だと絵付のリカバリーは困難だが、器自体は素焼きしてあるので、土が乾いてしまって固くなったり、ヒビが入ったりということはない。ところが澤谷さんは素焼きしてない生土にいっちんで模様を描いていくので、その工程の中で器が変形したり壊れてしまうリスクがある。実際、作っていたら途中で壊れてしまったというケースは少なくないと思う。展示されている作品は、運良く完成まで行き着いた作品たちだ。
難易度とは違うのだが、澤谷作品のもう一つの凄さが、蓋物のフィット具合である。土は焼くと必ず収縮するので、水と土が均等に混ざっていないと変形する。また、均等に混ざっていても、釜の火の回り方でも温度にムラが生じて、その結果、器に歪みが生じる。蓋物に歪みが生じると、蓋をしたときにぴったりあわなくなってしまう。澤谷作品は、この歪みがとても少ない。
生まれ持ったセンス、卯辰山工芸工房で身につけたスキル、そして妥協を許さないこだわりの結晶と言える。
今回も抽選に外れたので、狙っていた作品は購入することができなかった。牟田陽日さんと同じで、もう今後は二度と購入できないかもしれない。人気が出る前に色々買っておいて良かった。
ところで今回の三越の抽選方法は非常にいただけないやり方だった。抽選方法がまずいので複数の作品が売れ残り、二次抽選に回ってしまった。これを買いたい人は二回、三越に行く必要があった。抽選での当選者の購入日は土曜日だったので、僕のようにスタート直後に行った人間は三回行く必要が生じかねない。僕は初日に行って、一次抽選でははずれて、二次抽選には用事があって行くことができなかった。コロナもあって、そもそも日本橋まで出かけるのは避けたい状況だったことを考えれば、三越の対応は最低だったと思う。
三越伊勢丹のスキーチームの一員として10年以上大会に参加して来ている僕ですらこう感じるのだから、外部の人ならなおさらだろう。もうちょっと頭を使って欲しい。