今日は佐野方面で用事があったので、帰りにアメノオトに寄ってみた。この北関東自動車道周辺には桐生の芝浜、太田の龍ノ谷など、良い店が多くて選ぶのに困る。
中間閉店間際だったので行列の必要もなく、カウンターに座ると限定メニューの案内が目に入ったので、それを注文した。「熟成醤油そば」らしい。初なので、特にトッピングもせず、チャーシューの交換もせず、普通に注文した。出てきたのがこれ。
極太の麺で作った清湯スープの醤油ラーメンである。そこそこ魚介が効いていて、分類としては無理に当てはめれば支那そばや東京ラーメンになるのだが、それにしてはちょっと麺が太すぎる。無理せず、独自系としておくのが良さそうだ。
さて、このブログでは時々ラーメンの麺とスープの関係について書くのだが、ちょうど過去のアメノオトの「豚ラーメン」という限定メニューの時にこんなことを書いている。
このラーメン、いくつかラーメンの定石を外している。まず、太麺なのに薄味なこと。メニューによれば「豚の出汁を優しく効かせた」ということだが、薄味なら麺は細麺にするのが定石。なぜかといえば、太麺だと麺の体積が太さの三乗分増えるので、二乗分しか増えない表面積の増加分を大幅に上回ってしまい、麺に十分な味が乗ってこないのである。家系にしても、二郎系にしても、あるいはつけ麺であっても、太い麺を提供する店は大抵どこもスープの味を濃くする。
出典:
今日のアメノオト(2021/12/23)
今日の麺も豚ラーメンと同じく極太なので、どういう味で調整したのか興味深かったのだが、一口食べて驚いた。その塩梅が絶妙なのだ。
サッカーでよく、圧倒的に攻めていると点が入らないという状況が生まれる。これはなぜかというと、圧倒的に攻められた相手は自陣に人数を割いて、守備のブロック(壁)を築く。これをされると、プロレベルだと実力差があっても点を取るのに苦労する。ちょうど、前回のW杯で日本がスペイン、ドイツといった明らかに格上のチームから点を取られずに済んだのが典型例だ。ではどうすれば良いか。ボールを支配できても支配せず、相手に攻めさせれば良い。肉を切らせて骨を断つのである。攻めさせて相手が出てきたところのぎりぎりをカウンターで攻めることで勝機を得る。あるいはパスにしても、余裕をもったパス回しではなく、相手のディフェンスが取れそうで取れないところにパスを出すことが一番効果的である。ポイントは「ぎりぎり」であること。
今日の「熟成醤油そば」はそういうぎりぎりのところを攻めたラーメンだった。これ以上出汁が強くても、塩分が強くても、スープ単体ではバランスが悪い。そういう味の濃いスープの典型がつけ麺のつけ汁で、スープを楽しみたい人は食べ終えてから「スープ割り」をしてスープを楽しむ。これは日本そばの食べ方のパクリだが、つけ麺は構造的に「麺を食べながらスープを楽しむ」ということができない。一方でラーメンだと、スープと麺の両方を同時に楽しむことは可能なのだが、そのためには麺が細い必要がある。普通なら。上に引用したように、太い麺でスープと麺の両方を同時に楽しむのはほとんど不可能なはずだった。ところが、今回の「熟成醤油そば」はそのほとんど不可能なバランスを実現していた。僕はこれまで30年以上ラーメンを評価してきたが、太麺としてはその中でも最高のバランスを実現していた。麺を美味しく食べさせるだけの強さがあるのに、スープ単体でも美味しい。
これを画期的と言わずして、世の中に画期的なラーメンは存在しない。
食べていて、かつて小川町にあった立ち食いラーメンの「ピカ一」、朝霞台にあった「一本気」といった名店の味に感動した時のこと(ラーメンは全然違うもので、味ではなく「感動した」こと)を思い出して、懐かしさに涙が出てきた。
期間限定で提供しているのはとても勿体無いのだが、店の方針なら仕方ない。ラーメンについて何か語りたいなら、絶対に食べておいた方が良い。書で言えば王羲之。ひとつの手本となるラーメンである。