
4/19、ヤフオクの落札手数料が値上げされると発表された。名目としては「より安心に、より快適に」利用できることを目指すための費用負担を利用者に求めるということになっているが、実質的には単に事業収入拡大を目指しているだけにも見える。
「
落札システム利用料改定」と「今後のとりくみについて」
オークション事業は今やYahoo!Japanの収入の中で約20%を占めるまでに成長している。全営業利益に占める割合は昨年の同期に比較すると若干の落ち込みが見られる(27.0%→24.6%)が、絶対値としては22.3%増(約47億円→約58億円)と順調な事業拡大を図っている。仮にヤフオクの売り上げが利用料金だけからなり、利用者が全く減少しないとすれば、今回の値上げによって60%以上の増収が見込めることになり、Yahoo!にとってこれほど簡単な増収増益手段はない。

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出典:2006年3月期 第4四半期および通期の財務・業績の概況(連結)のお知らせ(PDFファイル))
落札手数料は落札価格指定の一発落札物件以外は基本的に出品者の負担になるわけで(一発落札物件に関してはシステム利用料金を最初から落札価格に内包させることができるので、費用負担は落札者になる)、費用負担者である出品者はオークションサイトを選ぶことができる立場でもあるから、Yahoo!からのメッセージとしては「嫌なら他のサービスを使いなさい」ということになる。
普通に考えると今回のような値上げはなかなかに踏み切れるものではない。会社の状況が悪いのかといえば決してそんなことはなく、財務情報を見る限りではオークション収入以外の部門も順調で、これだけでは値上げの理由は見当たらない。では、それでもなぜ値上げに踏み切ったのか。それは「値上げしても利用者は減らない」という目算があるからだろう。ライバル他社が存在しない独占状態であればこうした値上げも十分に可能だ。
では、ネットオークション市場というのはどういった状態なのか。

(オークション統計ページ(仮)「
定期調査」より作成)
この調査から見るとヤフオクの利用割合は全オークションの中で約8割。独占とは言えないがほぼ独占であり、またBIDDERSを含めると98%以上。完全な寡占市場となっているのである(なお、この統計には楽天が含まれていない。楽天スーパーオークションの出品数は25日現在約29000件。また、楽天は利用料金が落札金額の5%である)。また、オークション市場には独特の顧客囲い込み機能がある。それは利用者間の評価機能であり、これによって利用者の信頼度を表示できる。この評価はオークションシステム間での流用ができないため、一つのオークションサイトを集中的に使っている顧客は他のサイトへ流出したときにまた一から自分の信頼度をアップさせていかなくてはならない。ナンバーポータビリティのないケータイ市場と同じように囲い込みが行われていて、ケータイ市場以上に独占状態が進んでいるのである。
市場がほぼ独占状態であること、顧客の囲い込みができていることの二つがYahoo!の意思決定に大きな影響を及ぼしたことは間違いない。しかし、こうした状況を作り出してしまったことにYahoo!は一切責任がない。あくまでも利用者の選択の結果である。
Yahoo!オークションが日本に入ってくる前に、米国には二つのオークションサイトが存在した。それが
イーベイとヤフーである。先発はイーベイで、今でも米国においてはトップランナーである。僕がイーベイを利用するようになったのは1998年ぐらいだったと記憶しているが、当時は決済システム等も整備が不十分で、また取引の相手が米国在住のネットユーザーであったから、日本からの利用はあまりなかった。結果として一部のコレクターなどがコレクション蒐集のツールとして利用するにとどまっていたわけだが、2000年ごろまでにイーベイはイーベイジャパンを設立、ヤフーもイーベイに約半年ほど遅れて日本市場に参入した。その際、両者は全く異なった事業戦略を採ったのだが、その差が今のヤフオク一人勝ちの状況を作り出した。イーベイはすでに存在した巨大な米国オークション市場に日本から参入するというスタンスを採ったのに対し、ヤフーは日本独自のオークション市場を作ったのである。当時、僕はネットオークションの専門家としてイーベイジャパンの日本参入にいくつかのアドバイスをする立場にあったので、そのあたりの事情を比較的近いところでウォッチしてきているのだが、イーベイが「いかにして言葉や文化の壁を乗り越えるか」に腐心している間にヤフーはあっという間に独占市場を作り上げてしまった。結果、イーベイジャパンは日本から撤退し、世界的最大手であるイーベイには欧米諸国はもちろん、アジア諸国(中国、香港、インド、マレーシア、フィリピン、シンガポール・・・)や南米などが参入しているにも関わらず、日本だけが蚊帳の外に置かれた状態が続いている。閉鎖的な日本人のマインドと、英語に対する語学力障壁を的確に読んだYahoo!の勝利だったわけだ。
イーベイとヤフーの二大巨頭のうち、イーベイが完全に降りてしまったことのデメリットは、すぐに顕在化している。最初にその問題を目の当たりにしたのはヤフオクが有料化されたときである。それが2001年の6月。2002年5月にも実質的な値上げ(均一利用料から3%の割合制に移行)を実施しているのだが、どちらのケースでも一時的な利用減は起きたものの、ヤフオクの一人勝ち状況は磐石だった。そして今回の値上げである。
Yahoo!は「多少は利用者が減るかもしれないが、ライバル他社が実質的に存在しない以上、大きなデメリットはない。オークション市場そのものが瞬間的に縮小することはあっても、過去の事例から考えれば、数ヶ月で回復すると予想される」と考えているのだろう。この予想は決して間違っていないと思う。そして、この利用料金が数年後に10%や20%にアップしたとしても驚くべきではない。われわれにできることは、Yahoo!の株を買って、少しでもその利益のおこぼれをいただくことかもしれない。いや、それではますますYahoo!の思う壺か?