正直アホ学生の会社ゴッコに付き合わされたり、その後始末をやらされたりと、「まったく日本のバイオ関係者っていうのは本当に馬鹿ばっかりでやりきれん」という状態だったので、バイオねたはご無沙汰だったのだけれど(バイオジャパンもすっ飛ばして
ゲームショウに行っちゃったしね(笑))、そうやってこちらがそっぽを向いているとなぜか仕事の方がどんどんまわってきて大変な状態。塞翁が馬というのとはちょっと違うかもしれないし、嫌よ嫌よも好きのうちというのはもっと違う気がするのだけれど、まぁ、良いや。世の中の動きというものはこういうものなのかもしれない。
で、久しぶりのバイオねたなんですが、和田さんが理研のシンポジウムで中村桂子さんの批判に応えるような講演をしたとのことなので、ざっくりその記事を読んでみた。
【2007年9月27日 生命研究プロジェクトに求められているのは? 】
さて、この要旨を読んで、どこに中村さんの主張との齟齬があるのか、ということになるのだけれど、僕なりに非常に簡単に要点を指摘してみよう。って、前にも書いたと思うんだけどね。
和田さんは、
データを片っ端から生み出すような作業が生命科学発展のバックには絶対に必要だ。
と言っていて、中村さんは
データを生み出したあと、どうするかを考えておくことが必要だ。
と言っているんだと思うのですね。僕の読み間違いがなければ。でね、和田さんの言っていることは100%正しいし、また中村さんの言っていることも「僕は」かなり正しいと思ってます。問題は、データ生産したあとのスタンスなわけで、和田さんは
「GSCの総合的基礎研究のデーター出力を受け、産業に展開させる意欲的な日本企業の存在が必要であることを、付言しておく。」
と、産業界にそれを丸投げしているわけですね。僕は、アカデミックな立場の人の発言としてはこれは非常にまっとうだと思うし、少なくとも非難の対象にはなりえないと思うのだけれど、一方で、和田さんには相模中央研究所の理事としてアカデミックリザルトの産業化を進めたという実績があって、その人を以って産業界に丸投げというのは「もうちょっとやってくれても。というか、もうちょっとやれたのでは」と思わないでもないのですね。僕が理研にいたときも成果の産業化というのは大きなテーマで、和田さんの紹介で相模中研にも出かけて、特許の話とかいろいろ教えてもらいましたし。ただ、やはり過剰な期待というのは良くないし、実際、産業化は別のところでやる機会があったはず。
さて、じゃぁ和田さんが期待するところの日本企業はどうなのよ、ということになってくるのだけれど、そこに話が進んでくるとGSCはとたんに話が怪しくなってくる。まず、GSCが設立された当初、プロジェクトは大きくわけて3つで、それは榊さんのヒトゲノム、横山さんのタンパク解析、林崎さんのcDNAライブラリだったわけだけど、この中で一番産業化に近かったのは間違いなく林崎さんのプロジェクトである。cDNAライブラリについては林崎さん自ら理研ベンチャーとしてダナフォームという会社を立ち上げたし、そのプロジェクトを通じて開発したRISAというシーケンサーは島津製作所から製品化もされている。
ところが、まずこのRISA君なんだけど、せっかく作ったのに、なぜか同じセンターの榊プロジェクトでは利用されてなかったんですね。これは、日産がスカイラインのためにエンジンを開発したのに、フェアレディZにはなぜかルノーのエンジンを搭載している、みたいなことで、外から見ても、中からみても、「?」というものだった。GTRに積んでるエンジンならZにも積めよ、と。まぁ、もともと三人のプロジェクトリーダーたちはそれほど仲が良いわけでもなかったし、「今までABIで実験してきて慣れているからこれからもこっちでやる」と言われてしまえば「はぁ、そうですか」ということになるのだけれど、身内も使わないシーケンサーを誰が使うのかなぁ、というのも普通に出てくる疑問ですよね。
それからダナフォーム。こちらの創業は凄く早くて、林崎さんの大学の先輩で、林崎さんと仲が非常に悪い中村祐輔さんのオンコセラピーよりもずっと先んじていたわけだけど、オンコはあっという間に株式公開までいったというのに、ダナフォームはどうにもなかず飛ばず。今に至るまで僕のところにも何度かダナフォーム関連で「なんとか交通整理ができないものか」というオーダーが来ているのだけれど、とにかく経営が不透明で、何をやりたいのかが良くわからない(^^; みんなが自分の既得権を守る方向で物事を考えているようで、その「みんな」の中には理研そのものもちらつく。リソースがあって、時間もあって、お金もあったのに会社がまわっていかないというのは、これは経営に問題があるわけで、このあたりはキャピタルも困っているのかもしれない。
じゃぁ、大手製薬会社とのアライアンスはどうなんですか?ということになるんだけど、これは正直僕も把握してません。まぁ、僕の専門はベンチャーだから、大企業と特殊法人のアライアンスってなっちゃうと良くわからない(^^; でもまぁ、それほどうまくいってないんじゃないかなぁと勝手に想像してます。
まぁ、そんなこんなで、理研GSCまわりの産業化スキームはどうにもうまくまわっていないのである。本来、産業化という部分は経済産業省マターなので、文科省と経産省で上手に役割分担すれば良いと思うのだけれど、まぁ省壁問題もあるし、たとえばcDNAプロジェクトの際にはお互いに「あっちはネズミだからだめ」「あっちはヒトだから倫理的に問題のある遺伝子は拾ってこれないし、解析精度がイマイチ」とお互いに足を引っ張り合ったりもしていたので、なかなか協調して、ということにもならないのかもしれない。僕が役所にいたときはライフ課(文科省)とバイオ課(経産省)の担当補佐、係長クラスが集まって飲み会をするなんていうこともやっていたのだけれど、結局今になっても両者の歩みよりは見られない感じである。ちなみにライフ課とバイオ課がどのあたりで確執があるのかは僕は最近ウォッチしていないので良くわからないのだけれど、昨年、バイオ経営人材の育成プロジェクトの青写真を描いていたときは、文科省サイドは非常に協力的で、一方で経産省サイド(関東経済産業局)はかなり腰が引けていた。まぁ、これは本省対地方(関東)局という構図だったので仕方がない部分もあったのかもしれないけれど、おかげで動くものも動かなくなってしまった。
で、話がこうやって文科省と経産省の省壁、みたいになってきてしまうと当然和田さん一人が登場してもどうにもならないわけで、じゃぁ文科省さんがちゃんとポストデータ生産まで考えろ、と言ってしまえるのか、ということにもなり、いや、それは無理でしょう、となってしまうわけですね。にっちもさっちもいかない。
それで、もうこの部分が彼此の決定的な差で、これがNIH(米国)とかだったら全部NIHの中で片付いちゃうわけです。だから、そういうことのないように、ってことで設置されたのが総合科学技術会議だったんじゃないの?という話も大分前に書いたと思うのだけれど、とにかくバイオが物理や数学と決定的に違うのは、ここ40年ぐらいの進歩によって、産業化と非常に密接な学問になってしまったということであって、今の国家体制ではカバーしきれないわけですよ。パラダイムがシフトしてしまったのに、システムが旧態依然としているんだからうまくいくわけがない。
もうね、文科省、厚労省、経産省、農水省の関連するところを全部統合して新しく「生命省」みたいなものを作っちゃうぐらいのことをしないとだめなわけです。偉い人にはそれがわからんのですよ。
と、いうことで、まぁ前に書いたことの焼き直しではあるんだけれど、和田さんが産業界に丸投げした課題。これを誰が拾うのか、というところであって、僕自身は丸投げ自体に非はないと思うけれど、丸投げするな、という考え方もありだと思うし、このあたりは皆さんで議論していただければと思うのだけれど、僕は別にあんまり議論したくないので、議論自体丸投げです(笑)。誰かやってください。まぁ、全体の流れを整理したというところまでで許してください。
この手の議論が、こうやってネットの中で行われるということはそれなりに意義があると思うんだけれど、じゃぁそれによって世の中が変わるのか、ということになるとそれはそれで懐疑的でして、結果として一家言ある人たちのストレス発散の場にしかならないのであれば、それはちょっとまぁやるのは勝手だけど付き合うのは嫌だな、と思う次第でして(笑)。
でもね、和田さんと中村さんと、その他大勢のサイエンティストたちが一緒になって声を上げればなんか変わるかもしれないな、とは思うんです。もう予算の取り合いの一線からは退いているわけで、比較的中立な立場から「日本のライフサイエンスはかくあるべし」ということを言えるんじゃないかな、と思うのですが。あ、あと、役所とか政治家は権威主義だから、ノーベル賞受賞者たちは外せませんけどね。野依さん(化学賞ですけど、かなりバイオに近い)とか、どうなんですかね?僕はまだ実際に会って話をしたことがないんですが。