
グッド・シェパードを観てきた。
映画の構成は過去と現在を行ったり来たりさせるもので、この展開やラストの印象などはゴッドファーザーPART IIに非常に似ている。製作総指揮がゴッドファーザーシリーズの監督フランシス・フォード・コッポラ、監督がゴッドファーザーPART IIでアカデミー賞助演男優賞を獲ったロバート・デ・ニーロなので、過去の作品へのオマージュを込めたということもあるのかもしれない。どうせ観るならこの映画を見てからという手もあるかもしれない。
内容は、CIAの創成期からの約20年を、その中心にいた人物を軸にして描くというもの。主人公は、今でも米国の政治、経済、法曹、メディアのトップの座を占め、大きな影響力を行使している秘密結社「スカル・アンド・ボーンズ」を経て、米国の諜報部員としてドイツ、英国を渡り歩き、第二次世界大戦から冷戦時代、キューバ危機を経て、CIAの中枢にまで登り詰める。
かなり煩雑に現代(1960年)と過去を行ったり来たりするのだけれど、主人公を初めとして多くの登場人物の風体があまりその期間を感じさせない。おかげで慣れるまでは「あれ?どっちだっけ?」と困ってしまう。ゴッドファーザーではデ・ニーロとマーロン・ブランドがそれぞれ過去と現在を分担したのでそんなことはなかったのだけれど。
評価は☆2つ半。
以下、ネタばれの感想。
007のようなアクションシーンは皆無で、事務方の活動が静かに描写されていく。主人公はもともと寡黙で、もともと孤独な人物として設定されていて、徐々に孤独になっていくゴッドファーザーのアル・パチーノとはやや異なるのだが、観る側は徐々にその現実を知っていくという構成になっている。
あまり説明的な映画ではないので、うっかりすると「あれ?」と感じてしまうこともあるかもしれない。例えばベルリンのドイツ人通訳の女性スパイなどは、主人公の過去の恋人と同じ耳の不自由な女性を演じて主人公に近づいていくが、シャワーを浴びて補聴器を外しているのに普通に会話ができてしまったことから、耳が不自由なことが演技だとばれてしまう。このあたりをちゃんと観ていないと、「なぜこの女性がスパイだったの?」などと不思議に思ってしまうかもしれない。
また、米国、ソ連に加えて英国諜報部やドイツまでも絡んでくるので、このあたりも話が見えにくくなる要因である。特に米英の諜報部員の判別が難しい印象で、もしかしたら映画の中ではアメリカン・イングリッシュとブリティッシュ・イングリッシュを使い分けていたのかも知れないけれど、ちゃんと聞いてなかったのでわからない(^^; とにかく、「あれ?ドイツのスパイの教授がなぜここに?」などと思っていると実は英国の諜報部員だったりと、ややこしいったらありゃしない。
映画の中では何度も「誰も信用するな」「自分たちはただの駒に過ぎない」などという台詞が散りばめられる。用がなくなればあっさり始末されてしまう姿を容赦なく描く。妻は自分から離れていき、子供からは婚約者を奪い、KGBの諜報部員とは常に腹の探りあいをしている。精神的な要素が非常に濃く、このあたりはオープンで派手な007シリーズとは好対照である。
映画は3時間近い長さがあるが、飽きさせるところはない。ただ、細かいところまでしっかり観ていないと置いてきぼりにされてしまうので、かなり疲れる映画ではある。それでいて、ラストは「え、これで終わってしまうの?」という気分になる。
ストーリーは、CIAの歴史をなぞるものと、ピッグス湾攻撃に関する情報漏えいの謎解きと、二つが同時に進行していく。CIAからの機密情報をソ連がどういうやり方で知り得たのかが大きな謎解きになっているのだが、ラスト近くではKGBがどういう目的で主人公に関連写真やテープを送りつけたのかが明らかになる。おそらくは主人公の指令の下、CIAが敵方スパイであり、また主人公の息子の婚約者でもある女性を始末し、それが妻と息子が知るところになって、主人公の孤独は深まるのだが、同時に主人公のCIAの中での地位は高くなる。
マット・デイモンは台詞ではなく表情で演技をする役どころを非常に上手にこなしていて、組織と家族の間で孤独に生きる男を好演していた。アンジェリーナ・ジョリーも徐々に心が離れ、やつれていく女性をうまく表現していた。
当然のことながらCIAやKGB、冷戦構造についての解説はないので、ちゃんと歴史を勉強していない人には何が何やらわからないかも。そういう意味でも観る人を選ぶ映画かもしれない。
題名のthe good shepherdは聖書から取ったもののよう。以下、聖書からの引用。
“I am the good shepherd. The good shepherd lays down his life for the sheep. The hired hand is not the shepherd who owns the sheep. So when he sees the wolf coming, he abandons the sheep and runs away. Then the wolf attacks the flock and scatters it. The man runs away because he is a hired hand and cares nothing for the sheep. “I am the good shepherd; I know my sheep and my sheep know me― just as the Father knows me and I know the Father―and I lay down my life for the sheep.
和訳はこんな感じ?
私は良い羊飼いである。良い羊飼いは羊のために命を捨てる。雇われた人は羊を持つ羊飼いではない。だから、彼は狼が来るのをみると、羊を捨てて逃げ出す。そして狼は群れを攻撃し、追い散らす。雇われた人は逃げてしまい、羊の面倒を見ない。私は良い羊飼いである。私は自分の羊を知っているし、私の羊は私のことを知っている。ちょうど父が私を知っていて、私が父を知っているのと同じように。そして、私は羊のために命をささげる。
ところで、字幕で一箇所、KBGっていう誤植があったような、なかったような・・・。