僕は別に日本女子プロ将棋協会の足を引っ張りたいというわけでもないし、彼女たちの独立の経緯を比較的そばからみていたので、これまでずーーーーーっと、一年以上黙ってきていたけれど、その大本営の日本女子プロ将棋協会(以下、LPSA)からこんなお知らせが出たので、ひとつの区切りと思ってちょっとコメントしておく。
LPSAでの「どうぶつしょうぎ」販売中止のお知らせ
このお知らせは、LPSAのどうぶつしょうぎ事業からの撤退表明に他ならない。ところがこのお知らせに関する相談その他は、ライブログに対しては一切の連絡がなかった。この点について、僕は非常に大きな疑問を持つ。なぜか。ライブログとLPSAは、どうぶつしょうぎ事業に関して次のような契約を結んでいるのである。
#以下、契約書全文。契約書の内容の開示に関する特別な条項はないので、公開するのに不都合はない点、弁護士には確認済み。
契約書
株式会社ライブログ(以下、「甲」とする)と、一般社団法人 日本女子プロ将棋協会(以下「乙」とする)は、「どうぶつしょうぎ」関連のイベント事業(以下イベント事業とする)、およびインターネット・携帯アプリを利用した通信サービス事業(以下「通信サービス事業」とする)について、以下の通り契約を締結する。
[事業内容について]
第1条 甲と乙は「どうぶつしょうぎ」のイベント事業および通信サービス事業に関して、共同で企画開発に取り組む。
[イベント事業について]
第2条 甲は、平成20年4月19日に乙が主催する1dayトーナメント「どうぶつしょうぎカップ」に対して協賛金 万円を支払う。
第3条 乙は「どうぶつしょうぎ」関連のイベントを継続的に企画・開催し、広く普及活動を行う。
[通信サービス事業について]
第4条 甲が事業主体となり、開発に関する費用は全額甲の負担とする。
第5条 乙は甲の行う通信サービス事業にについて公式と認定し、ライセンスの使用を許可する。また甲の合意なく、他の第三者に対して同様の事業を新規に許可・委託するなど、本事業の妨げになることを行わない。
第6条 開発コストを上回る利益がでた場合は、甲に3分の1、乙に3分の1を配分する。残りの3分の1は甲社内で積み立て、次年度以降のイベント事業および通信サービス事業の資金とする。
[契約期間について]
第7条 本契約は2009年4月1日から2011年3月31日までとする。期限内に甲乙双方から何らかの申し出がないときは、1年毎に自動的に契約が更新されるものとする。
上記契約を証するため本書2通を作成し、甲乙署名捺印の上各1通保有するものとする。
平成21年4月14日
甲
株式会社ライブログ
乙
一般社団法人 日本女子プロ将棋協会
#第2条の金額に関してのみ、LPSAのその他の契約に関係する可能性があるので、ここでは数字を伏せておく。
まず最初の疑問は、この契約書の第5条において、「また甲の合意なく、他の第三者に対して同様の事業を新規に許可・委託するなど、本事業の妨げになることを行わない。」と明記されているにも関わらず、ライブログになんの相談もなく事業の権利を株式会社ねこまどに譲渡していると思われる点である。その結果、株式会社ねこまどは下記のサイトを立ち上げている。
どうぶつしょうぎ.ねっと
ライブログはLPSAと喧嘩をする気がないのと同様、北尾さん、藤田さんとも喧嘩をする気はないのだけれど、ライブログに何の相談もなくどうぶつしょうぎの事業権を株式会社ねこまどに譲渡し、ライブログに何の相談もなく「どうぶつしょうぎ.ねっと」というサイトが立ち上がった現状は異常であると感じる。僕たちは「ふざけんな、そんなサイトは絶対に許さない」などと言う気はもちろんないし、話し合いをしてきちんと役割分担をしたいと思っているけれど、それとは別に、これではライブログとLPSAとの契約は全く無視されていることになる。
また、契約書には次のような覚書が添付されている。
覚書
株式会社ライブログ(以下、「甲」とする)と、一般遮断法人 日本女子プロ将棋協会(以下「乙」とする)は、「どうぶつしょうぎ」を題材とし、携帯アプリ開発およびインターネット利用のサービス開発に関して以下の通り覚書を取り交わす。
第1条 「どうぶつしょうぎ」に関する携帯アプリ開発に関してはライブログが事業主体となり、開発に関する費用は全額ライブログの負担とする。LPSAはこのサービスを排他的に公式サービスと認定し、全面的に協力する。
第2条 他の第三者に対して携帯アプリやインターネット関連事業に関する事業を新規に許可・委託するなど、本事業の妨げになることを双方の合意なしに行わない。
第3条 開発コストの目安は200万とし、定期的に経理報告や進行報告を行う。アプリの配信は2009年8月開始を目指す。利益については契約書に沿って配分する。また、夏季休暇中に一般参加の大会の開催を予定し、その後も双方協力のもと継続的にイベントを開催する。
第4条 本事業においてはLPSAとライブログはお互いにビジネスパートナーとしての意識をもち、誠意をもって事業にあたる。事業が発展した場合には、事業協同組合あるいは株式会社を立ち上げることも視野にいれる。
2009年4月14日
甲
株式会社ライブログ
乙
一般社団法人 日本女子プロ将棋協会
少なくともLPSAは、来年の3月まで、ライブログの実施するどうぶつしょうぎ事業に関して「公式」と認定し、全面的に協力する義務があるのだ。ところが、事業に関する権利を全て株式会社ねこまどに譲渡してしまったら、そんなことはできなくなる。
今でも
「どうぶつしょうぎ ONLINE」のサイトには「LPSA公認」という文字が明記されている。この文言は一体どうしたら良いのか。
ここに転載した契約書、覚書をLPSAと交わしてから2ヶ月もしないうちにこの交渉の窓口となった北尾さんがLPSAを退会することとなり、LPSAから「北尾さんサイドの人間」と目された(らしい)ライブログはLPSAとの関係が非常に難しいものとなった。
実際には、北尾さんとLPSAとの対立が明確化した直後に藤田さんから個人的に相談を受け、北尾さんの懐柔に動いたりもしたのだけれど、北尾さんの意思も固く、また、彼女の主張にも頷首する部分があり、個人の考えを尊重する僕としてはそれ以上動くことをしなかった。結果的に北尾さんのLPSA退会という一面的には不幸な結末となったけれど、LPSAが連盟から退会したのと同様、北尾さんに「理」があるならそれもまた良し、と思った。そして、ライブログの立ち位置は北尾さんがいた時も、そしていなくなっても、変わらずに「どうぶつしょうぎ事業の共同事業者」だったはずなのである。
しかし、北尾さんのLPSA退会によって、どうぶつしょうぎアプリの開発は混迷を深めることになった。アプリ自体はすぐに開発できたのに、それを公開し、商業ベースに乗せることができない。LPSAが全く交渉の場に乗って来なかったのである。北尾さんの退会以降、いくつかのやりとりの後に、「今後は弁護士を通してください」との連絡を受け、以後、完全に没交渉の状態となってしまったのだ。このままではにっちもさっちも行かない、契約の期間も限られているのだから、無理矢理にでも公開しなくては、ということでApple Storeで販売を開始したのが1年後の2010年5月のことである。
そして、販売開始から約3ヶ月。また、寝耳に水の話が飛び込んできたわけだ。
ライブログがどうぶつしょうぎに注目したとき、どうぶつしょうぎはまだ野のものとも山のものとも知れないゲームだった。でも、僕たちはそこにダイヤモンドの原石のような輝きを見出したのだ。そして、たった100万円しかない資本金の中からなけなしのお金を搾り出して、どうぶつしょうぎの事業化権を購入した。その後、ライブログがスポンサードしたどうぶつしょうぎカップの開催前後からどうぶつしょうぎの知名度はアップし、今に至るのである。
この契約書の内容をきちんと読んでもらえればわかると思うけれど、僕たちがLPSAに出したオファーは破格のものだと思う。普通なら、ライセンス料で5%とかの金額を支払っておしまい、ぐらいが相場である。それをわかった上で、ライブログはLPSAが今後成長していく上でどうぶつしょうぎの売り上げが少しでも組織の助けになるように、この契約書を交わした。本当に、LPSAがどうとか、連盟がどうとか、そういう情報を抜きにしてこの契約書と覚書をきちんと読んでみて欲しい。これを知らない人たちがあちこちでライブログの悪口を言うのを聞いて、ずっと黙って我慢してきたけれど、僕たちにはこれっぽっちの悪意も存在しない。
この契約を締結する前も、僕は個人としてLPSAをブログでも、また、行動でも支援してきたつもりだ。そして、今も別に彼女たちの足を引っ張る気もない。彼女たちの将棋連盟に対して提示した「ノー」の姿勢は決して間違っていないと思う。
だから、僕は怒っているのではない。ただ、寂しいだけである。契約書を読めばわかるけれど、ライブログはLPSAの下請け会社ではない。「どうぶつしょうぎ」というコンテンツを育成していく事業のパートナーなのだ。ところが、その立場は完全に無視されてしまった。LPSAは、もうどうぶつしょうぎに関する事業には全く興味を失ってしまったらしい。覚書には「どうぶつしょうぎの携帯アプリおよびネットサービス開発のコストは200万円程度」と想定されているけれど、8月末まででの実経費は150万円強。そして、ソフトの売り上げは4000本、ここから出る利益は約32万円である。その間、LPSAがこの事業に対して何らかの協力をしたかといえば、皆無である。例えばiPad用の画面は通常のどうぶつしょうぎの将棋盤よりも広い画面が必要になっているのだけれど、この拡張作業ですらライブログは内製しているのだ。
近代の社会と、過去の社会の最大の違いは何か、考えたことがあるだろうか。近代社会が過去のそれと最も違うことは、今の社会が「約束を守ること」を前提としているということである。約束をみんなが守るから、今の社会は成立しているし、加速度的な発展を遂げたのだ。そして、ビジネスの世界における約束を明文化したものが「契約書」である。契約を無視する社会に発展はない。
この調子でLPSAは本当に大丈夫なんだろうか。