去年から一年程度継続して、ガンダムコンクエストというネットゲームをやってきたのだが、満一年ということもあって、基本的に引退することにした。ひとことで表現するなら「潮時」と思ったからだが、理由はこのゲームの課金に対する思想が嫌いだからである。では、その思想とはどういうものか。
ガンコンの課金システムは大きく分けて2つで、1つは有料ガシャである。一回あたり約300円でガシャを回すことができ、数%の確率で良いカードを引くことができる。良いカードを持っているとゲームを有利に進めることができる。もう1つは「便利機能」と呼ばれるもので、恒常的に利用することによって、様々なメリットを得ることができる。この代表例が「コスト課金」で、戦闘における最大の制約「コスト」を拡張することができる。やったことがない人にはわかりにくいと思うので、ガンコンのシステムからざっと説明すると次のようになる。
ガンコンは、基本的に他者との戦闘を行うゲームで、まず、戦闘用のモビルスーツとパイロットを集めていく。集めたカードの中から、対戦用の部隊を編成していく。この際、ひとつの部隊に配属できるカードは無制限に設定できるわけではなく、上限となる「総コスト」が決められている。モビルスーツのカードそれぞれにはコストが設定されていて、その合計が総コストを超えないように手持ちカードを設定する必要がある。例えば、
ザク コスト4
シャアザク コスト8
グフ コスト6
ドム コスト7
ジオング コスト12
と設定されている中、総コストが20だとすれば、
ザク(4)
シャアザク(8)
ドム(7)
(総コスト19)
シャアザク(8)
ジオング(12)
(総コスト20)
という部隊は可能だが、
シャアザク(8)
グフ(6)
ドム(7)
(総コスト21)
という部隊は編成不可能となる。コスト課金は、お金次第でこの総コスト制限を緩和します、というものだ。1つあたり150円/月で、最大5つ(月額750円)まで増やすことができる。上の例で言えば、総コストが25になるので、
ザク(4)
シャアザク(8)
ジオング(12)
(総コスト24)
という編成が可能になる。戦闘は基本的にモビルスーツの質と数で決まるので、総コストの差は非常に大きな影響を及ぼし、コスト課金していない人がコスト課金している人に勝つことは非常に難しい。
「モビルスーツの性能の違いは、戦力の決定的差ではない」のはそのとおりだが、コストの違いは、戦力の決定的差になる。実際、コスト課金を一切していない人だと、トップレベルでもガンコン全体のランキングで5000位位内にランクされることは不可能と言っても良いだろう。
つまり、「基本、無料で遊べます」というのはそのとおりだが、課金しなければ楽しくないのである。ここがパズドラやクラクラと決定的に違うところである。パズドラにしても、クラクラにしても、課金することによってさまざまなメリットを得ることができる一方で、無課金であっても課金者と同じ土俵で戦うことができる。ガンコンには、こうした配慮がほとんどない。また、戦闘を重ねていくと、成績上位者は様々なメリットを得ることができるので、課金者と無課金者のレベル差は開く一方なのだ。
ゲームを収益化する方策は、初期においてはファミコンやプレステのような、ゲーム本体を5000円で販売する、といったものだった。次に現れたのがFF XIのような、本体は比較的安価で、月額利用料が別途かかるというタイプだ。そして、今主流なのが、入り口は無料だが、快適に遊ぶにはお金が必要、というタイプである。FF XIは毎月の利用料が上限となっていたのだが、ガンコンはその上限が存在しない。やろうと思えば、月額100万だろうが、200万だろうが、投入が可能になっている。そういった重課金者には、無課金者はどう転んでも勝つことができない。ガンコンは、課金こそが正義なのである。
ガンコンの収益化の両輪はガシャ課金と便利機能(その大きな部分をコスト課金が占める)だが、このうちコスト課金をなくすだけでもゲームバランスはある程度向上すると思う。でも、それをやると、参加者数増大によるサーバー負荷増大に耐えられない、という側面もあるのだろう。全員から月額使用料を徴収するよりは、選択制にした方が自由度が広がる、というのはそのとおりである。しかし、方策は他にもあるはずだ。重課金者ばかりがどんどん戦力を強大化させ、無課金者や微課金者を切り捨てていく今のシステムに将来性があるとは思えない。大切なのは、重課金者が相応のメリットを享受し、同時に、それ以外の人間(数的にはこちらがマジョリティであるはずだ)が違和感なく楽しめるシステムをデザインすることだ。そして、これができないのなら、そのゲームは継続が難しくなり、破綻するだろう。そういう危ういシステムに時間とお金を投入するのは、日本の年金システムや日銀の金融緩和と同じである。沈みつつある船からは、脱出できるならなるべく早く脱出した方が良い。
ガンコンは、巨大なプールで遊技者を泳がせている。そのプールの水は氷のように冷たい。ところが、毎月750円を払うと、プールの温度が少しあがる。これだけで、そこそこ快適に泳ぐことができる。ガシャにお金を払うと、さらに少しずつ温度があがっていく。その上限はないので、その気になれば、温度はお金次第であがってくる。ところが、それには限界がない。今、みんなが泳いでいる場所は、僕にとっては「熱い」レベルにまで上昇してしまった。だから、僕はプールから出ることにした。もちろん、「まだまだ快適だ」という人はたくさんいて、楽しそうにしている。僕は、そのことを批判しようとは思わない。自分がひっそりと消えていくだけである。実際、数カ月前からその準備はしていた。最後まで僕をガンコンにつなぎとめていたのは「同盟」というゲーマー同士のコミュニティだった。年齢や肩書や住んでいる地方を超えてコミュニケーションを取れる「同盟」は非常に快適だった。その同盟を、昨日をもって脱退した。FF XIでもそうだったけれど、衰退していくゲームにおいて、最後まで残るのはゲーム内部の人間関係だったりする。FFでは、その人間関係を外部に持ち出す手段がなかったのだけれど、今は違う。同盟を抜けても、人間関係はそのまま残すことができるので、同盟を抜けることにもそれほどの抵抗感がない。これで、僕をガンコンにつなぎとめるものは何もなくなった。
せっかく集めた優秀な機体がもったいないので、ときどき開催されるコストアップイベント(要は、「こうしたら、プールはとても快適なんですよ」と、無料でコストアップを体験させてくれるイベント)の期間を中心に戦闘し、あとはほとんど唯一と言っても良いくらい課金者との差別がないコンテンツの「アクションゲーム」を中心に遊んで行こうと思う。
ガンコンというゲームを開発・維持・運営するには相応の投資が必要で、それを回収する手段が必要なのはもちろんである。問題は、そのやり方だ。上手にバランスをとって回収しているゲームがある以上、バランスの悪いやり方にお付き合いする必要はない。あとはこの稚拙なデザインのゲームがどうなっていくのか、のんびり観察していきたいと思う。吐き出すものなど、ない。