夜会は全作品を生で見ているのだけれど、正直言って内容はそれほど覚えていない。
初期は、観る方もコンサートと同じノリで観に行っていて、「歌の連続性によって新しい付加価値を持たせることに挑戦する番外編のコンサート」ぐらいの気持ちでいた。それがだんだんオリジナルが増えてきて、あぁ、歌劇をやりたかったのかな、と思うようになったのだが、それとも微妙に違う。終始一貫しているのは「二隻の舟」の歌に込められた概念だけど、それすらも濃淡がある。夜会とは何なのかと訊かれれば、夜会であるとしか言えない。
さて、その夜会の前半の名場面をぎゅぎゅっと無理やりまとめたのが本作である。2003年にDVD化されているので、今後のBlu-ray化を控えての劇場版かもしれない。
夜会の最大の課題は、「客に歌詞を理解させること」である。とても明瞭に歌う中島みゆきだが、それでも「この言葉の意味がわからない」ということはあって、夜会においてはそれが致命的でもある。今日、映画館で観ていても何回か言葉を聴き取れず、意味が正確に把握できないことがあった。僕は作家でもあるし、読書量もそれなりなので、日本語の語学力もまぁまぁのレベルのはずだけど、それでも理解できないことがある。「百九番目の除夜の鐘」などは歌詞カードがなければほとんどの人が正確に聴き取ることができないと思う。
既存の歌ばかりで繋いでいくのは当然難しく、夜会オリジナル曲中心になっていったのはある意味当然の流れだったのだが、そうなると今度は歌詞に馴染みがなく、意味を汲み取るのが難しくなる。この辺のあんばいがかなり難しく、制作サイドも悩み続けたのではないだろうか。
ずっと観てきても、どうも劇の内容に深みが感じられず、夜会よりもコンサートに期待していた人間なのだが、30年以上経ってみるとストーリー性が強すぎると感じた歌も、今となってはストーリーから分離して独自の楽曲になってきたと思う。
継続は力。結局、アーティストとしての独自性をきちんと打ち出すことに成功した。凡人の僕には佐野元春も現在進行形ではその価値が理解できないアーティストだったけれど、中島みゆきの夜会も今になって価値が理解できてきた。燕雀いずくんぞ鴻鵠の志を知らんや。