ミュンヘン
スピルバーグの「ミュンヘン」を観てきた。
まず、日本人にはかなり予習が必要な映画だと思う。僕は多少はイスラエルに関する知識があったのでイスラエルやモサドの立ち位置についてはなんとかなったけど、他にも今主人公達がどこにいるのかを明示してくれなかったりするので(いや、欧米の人には明示になっているんだけど、日本人にはちょっと馴染みがないかも)、あれれ?って感じになるかも。それから今の米国の状況についての知識も必須。平常心を装っているけれども、今も9.11の巨大な影に怯え続けているということについて。
ちなみにずーっと昔にイスラエルと米国周辺について書いたエントリーがあるのでこのあたりもどうぞ。
2004年05月26日
米国とイスラエル
ということで、ネタバレ感想は追記に(未見の人は以下、読まないことをお薦めします)。
ストーリーは簡単にまとめてしまうとこんな感じ。
ミュンヘン五輪で代表選手、コーチ、役員をテロで殺されたイスラエルがモサドの5人のメンバーを使って報復集団を組織、テロ実行犯の11人の殺害を計画する。この5人組は自らの存在を全て消し去って復讐のための殺人を重ねる。やがて追う身でありつつ同時に追われる身になった彼らは徐々に安息を失い、そして徐々にメンバーが殺されていく。リーダーのアヴナーはやがて重圧に耐えられなくなってその任務を外れ、妻子のいるニューヨークで暮らすことになるのだが、その後も彼に真の安息は訪れない。
この作品、ロシア系ユダヤ人で米国在住のスピルバーグしか撮り得ないものである。他のどの監督が撮っても「反イスラエル」との批判に耐えられないはず。観る前にどこかで「スピルバーグはテロの是非を明確にしていない」なんていう記事を読んだけど、果たしてそうだろうか。「暴力に対する暴力はエスカレートしていくだけ。相手を殺してもさらに強力な後継者が出てくる」というメッセージを明確に残していると思う。
アヴナーは欧州から比較的安全と思われるニューヨークのブルックリンに逃れてくるが、そこでも常にテロに怯えた生活を続ける。この姿はそのまま、飛行機に乗るときには靴まで脱がせるし、自由の女神を見に行くためにはベルトまで外させられる今の米国と重なる。強いはずの米国は今、テロが怖くて怖くて仕方がないのだ。そして、その姿をそのままアヴナーに投影している。テロに対して力の政策を続ける米国に対して強烈なメッセージを突きつけていると思う。
ただ、「では、どうしたら良いのか」については明示していない。もちろん、そんなことができればノーベル平和賞ものなわけなのだけれど。
ラストではモサド幹部エフライムとアヴナーがイーストリバー沿いの公園で会話をする。ニューヨークに安住の地を求めたアヴナーはここでエフライムに「わが家で一緒に食事をしよう」と誘うのだが、エフライムはもちろん断る。「そこは俺のいるべき場所ではない。俺は祖国の為に敵と戦うのだ」という意思を示して去っていく。そして背後にはイーストリバー越しに見えるWTCビルが長く映し出される。アヴナーが逃げ込んだ米国も今や安住の地ではないと示すように。
日本人には「良く見ろ日本人。これが戦争だ」の方がわかりやすいかも。評価は☆3つ。
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buu*さん、こんにちは。
いつか観たいと思ってました。
>「ネタばれしているので・・未見の人は以下、読まないことをお薦めします」
って言われてるけど、誘惑に勝てず、(笑)読んじゃっいました。
で、益々観たくなりました。(*^。^*)
>ロシア系ユダヤ人で米国在住のスピルバーグしか撮り得ないものである。他のどの監督が撮っても「反イスラエル」との批判に耐えられないはず
のbuu*さんの言葉がが印象的です。
ミュンヘンオリンピックのテロは、私は小さかったですが、新聞のTOPに大きく載ったのを覚えています。
尋常じゃない怖い事が起こったと言う記憶があります。
TBありがとうございました<(_ _*)>
まったく予習なく観に行ったためかなり混乱してしまいました。
でも現実なんですよね。
それが怖かったです。