これまでの劇団の常識に比較すると相当ハイペースで次から次へと公演をうつキャラメルボックス。まぁ、再演をそこそこの頻度でまじえているということはあるんだろうが、それにしても俳優さんたちはもちろん、裏方の人たちも相当な負荷だと思うんだけど、大丈夫なんだろうか。
で、今回はハーフタイムシアターという、1時間の小編を二つ並べるというもの。前回のハーフタイムシアターが非常に素晴らしい出来だったので、今回も期待大、と言いたいところだったのだけれども、実際のところはすでに原作を読んでしまっていて、「果たしてこの原作を料理してどこまで魅力的なものに仕上げられるか、お手並み拝見」というところだった。
それで、ミス・ダンデライオンから先に観たので、観た順番にこちらから感想。ミス・ダンデライオンの方は原作では最も駄目な展開で、SFやファンタジーというよりはトンデモ本の部類。そういうトンデモの部分をどうやって調理するかが見ものだったわけだけど、やはりかなり苦しい感じ。とにかく、これがハーフタイムシアターであることが痛い。2時間たっぷりの脚本で、原作では描ききれない部分をフォローできる状態ならまだリカバリーのしようもあると思うのだが。ストーリーは不自然満載で、青木さんが未来からきたおばさんに一目惚れするのもどうかと思えば、タイムスリップをすぐに理解するのもいかがなものかと思うし、注射を打ったあと青木と鈴谷が何度か離れ離れになったときは青木は未来にすっとんで行かなかったのに、なぜか鈴谷が未来にすっとんでいくとご都合主義的に未来に現れたりする(^^; で、そういった不自然満載なストーリーをカバーするだけの演出がない。そういうパワーを感じさせてくれるのは前田綾氏(それにしても、彼女の怪演ぶりは素晴らしい。僕の世代で言うと伊東由美子さんとかがだぶるわけですが、僕は前田さんの芝居の方が好き)ぐらい。阿部丈二氏も良い感じで切れていたけれど、でもまぁ、位置づけがアクセントなので、舞台の雰囲気を一気に変えるというものでもない。二人の岡田氏の演技は決して悪くないというか、逆にお手本通りだと思うのだけれど、それだけで見せるにはちょっと辛い芝居だったと思う。「劇団に対する思い入れ」のような、せりふの間に入ってくるものがない人には厳しいかな。
で、次は「あしたあなたあいたい」なんですが、こちらは冒頭の部分で「おや?ミス・ダンデライオンとは一味違うかな?」と思ったんですね。それはゴミ置き場の見せ方や布川の荷物が消えてしまうところの表現が非常に演劇的だったから。その手の表現は別に新しいものではないし、最近では野田秀樹氏とかが彼の作品でこれでもか、というくらいにしつこく採用している手法ではあるのだけれど、とにかく原作を離れる工夫が感じられた。小説は小説、舞台は舞台だから、舞台ならではの演出で小説にはない味付けをして、舞台単独の素晴らしさを見せてくれるかな、と期待した。しかし、そうした演出はダンスシーンまで。残念。こちらが一番不自然な点は、「ただまじめなだけが取り柄の、あまり魅力のない男」に、すでに婚約が決まっている女性が一目惚れしてしまうというところ。これをどうやって舞台で表現するかが勝負だったと思うのですが、やはりこれも厳しかった印象。物語には不自然なところはもっとあって、それは婚約者の香山の絡み方とかなんだけど、舞台で見てもやはり不自然。一回殴っただけという関係であそこまで深く肩入れするのも妙だし、また彼が政治力を持っているというのもご都合主義の極み。主役の大内厚雄氏はこの劇団の役者さんの中では僕の一番のお気に入りなんですが、彼の力をもってしてもやはりホンの不自然さをカバーすることはできなかったな、と。また、「クロノス」の来美子を絡ませたのもちょっとどうかな、という感じ。舞台作品に仕上げるために色々とホンの部分で手を加える必要があったのはわかるんだけど。派手さがなく淡々とストーリーが進むので「ミス・ダンデライオン」ほどの違和感は逆にないのだけれど、やはり「うーーーーむ」という感じ。あと、どうでも良いけど、坂口理恵氏の「ヒステリックなおばさん」の演技があんまり好きじゃない。前にもこういう怒鳴り散らす系の役があったと思うけど、もっとフィットする演技があるような気がする。
両作に通じるのは何といっても時間不足(上演時間が1時間)。時間が不足しているから、新しい味付けがなかなかできない。たとえてみれば素材が悪いのに、あまり手を加えることをせずに素材勝負の料理を作ってしまったという感じ。これはもう、悪い素材に手を出してしまったということに尽きてしまうわけだが、まぁ劇団の皆さんが「これが良い」とほれ込んでしまったんだから仕方がない。こちらとしてはそれを食べてみて、「あんまり美味しくないな」と思うしかない。
ま、イチローだって打率2割を切っちゃうこともあるわけで、いつもいつもホームランというのは無理な注文ですね。もちろんこの舞台を観て「素晴らしい!」と思う人もたくさんいると思いますが、僕の評価は2作それぞれ☆半分(ミス・ダンデライオンは前田綾氏と阿部丈二氏の演技、あしたあなたあいたいは大内厚雄氏と大木初枝氏の演技にポイント)。再演があったとしても多分観にいかないだろうな。
5月3日まで、新宿シアターアプルにて。土日はすでにほぼ完売状態のようですが、平日ならまだ余裕があるようです。
悪評ばかり載せてもなんなので、「面白かった!」という人もいますよ、ということで数件トラックバックしておきます。
よせあつめ乱打さん「あしたあなたあいたい/ミス・ダンデライオン」
うさうさ日記さん「キャラメルボックス★ミス・ダンデライオン」
ささやかだけど、たいせつなことさん「ミス・ダンデライオン」