キャラメルボックスの新作、「少年ラヂオ」のゲネプロ(通し稽古)を観てきた。といっても、別に特別な場所に特別に招待されたわけではなく、ブログでこうやって記事を書くことを条件に無料で誰でも招待してくれるのである。僕みたいにチケットを取るのに一所懸命になるのもいやで、でも前の方で観たいぞーというタイプにはもってこいのお話。
ゲネプロが一般公演とどこが違うって、まぁカメラマンの人が舞台前をバシャバシャシャッターを押しながら飛び回っていることぐらいで、あとは普通の舞台となんら変わりがない(んだと思う)。
実はこの少年ラヂオ、僕のひいきの大内厚雄さん、實川貴美子さんの二人が出ているので、「観にいこうかなー」と思っていたのだけれど、「きっとまたブログライター企画をやるに違いない」といい加減な山をはって(これまではゲネプロではなくて、公演スタートの最初のほうの一日をブログライターに提供していた。でも、これは一般の公演の後ろの方の座席を割り当てられていたので、あんまり良く見えなかった)いたわけで、実際に告知が出たときは「わーい」という感じだった(^^; お金を払わなくてスイマセン。>キャラメルボックスの皆様
ということで、一部ネタばれ(といっても、これから観る人にはあまり邪魔にならないていどのもののつもり)を含む感想を追記に書きます。
今日の舞台は大正末期の東京。ここで展開されるのはスリの少年を中心にしたストーリーである。と、ここまで書くだけでつい先日公開されたオリバーツイストあたりを思い出してしまうのだけれども、ゲネプロのあとでのインタビューで脚本・演出の成井さん自身が参考にしたと語っていた。他に参考にしたものは「アップフェルラント物語」(田中芳樹)とか「カリオストロの城」とかだったらしいけど、まぁちょっとしたところに「あれ?」みたいなことはあっても、それほど大きくインスパイアされたという感じでもなかった。
物語は縦軸にスリの話、横軸に兄弟の話を配置して進んでいく。大きなどんでん返しもなく、まぁ普通に終了。
一番「へぇ」と感心したのは、全ての登場人物にそれなりに存在感があって、存在理由があること。このあたりがオリジナル新作(一年半ぶりだったかな?)の良い所なんだろうけど、これまで数作続いていたちょっと無理やりな登場人物とかが全然なくて、「やっぱオリジナルは良いなぁ」と思ってしまう。演劇の評価のやり方は色々だと思うけど、僕の一つの尺度は脇役が輝いているかどうか。今回は温井摩耶さん、青山千洋さん、實川貴美子さんがそれぞれ存在感を出していて、良かったと思う。成井さんによると「ちょっと配役が変じゃない?」と言われると悔しいらしいのだが、強いて言えば岡田さつきさんと青山千洋さんの役が逆さっぽいぐらいで、あとはみんなフィットしていたと思う。
と、ここまでは普通に褒めているのだけれど、ちょっと「あれ?」と思うところがないでもない。というのは現実と虚構のミックス具合があいまいで、それによってストーリーの薄さが気になってしまうのである。そもそも、キャラメルボックスの芝居の良さは野田秀樹ものとか、鴻上尚史ものと違ってあんまり深く考えなくて良い所。じゃぁ、なぜ考えなくて良いかっていうと、そういう難しいところをすっ飛ばしてもエンターテイメントとして楽しめるから。で、そういう勢いをつけるためには、登場するものが宇宙船だったり、タイムマシンだったりというアイテムが必要だったりする。まぁこういうのが出てくるのは実際には半分くらいなんだけど、今回はそういった要素がなくて、普通に大正末期のお話。で、やっぱり一番のネックは盗もうとするもの。それが何かはここでは書かないけれど、もっと突拍子もないものを盗んで欲しかった。それがあまりにも普通だったので、ストーリーも普通になってしまった。ゲネプロ後のインタビューでもちょっとそういう指摘があったんだけど。
盗むものが普通で、ストーリーも普通だと、どうしてもひねりが欲しくなる。物語の後半では大正から昭和への移行がところどころで盛り込まれるのだけれど、では、大正から昭和に変わって、登場人物たちは何か変わったのか、物語の舞台は何か変わったのか、って、それがあまり見えてこない。大正から昭和へと変わることの必然性が感じられないんですね。「あぁ、そういえば昭和だね」みたいな軽さがある。
だから、同じ大正ぐらいの話であってもサクラ大戦みたいなバカらしい乗りとか、もうちょっと後でも良ければインディアナ・ジョーンズがアークやヌハチを盗む、みたいな、荒唐無稽なところがあればよかったのになぁ、と思うわけです。あるいは、「あなたの、心です」みたいなのでも良いんだけど。
#もちろん、時代が大正から昭和に変わって、人々の暮らしもガラッと変わり、その変化の中で主人公達も大きく変わっていく、その、最後のひとコマを生き生きと描くと同時に、大きく変わっていく主人公達を示唆しながら幕、みたいなストーリー展開もありっちゃぁありなんだろうけど、それはキャラメルボックスのカラーじゃないですよね。そもそも、大正から昭和への移行は激動の国際関係の中ではあまり大きな話にならないという部分もあるだろうし。
あ、あと、「少年ラヂオ」である必要性もちょっと弱いかなー、みたいな。まぁ、少年ラヂオでも良いけど、ラヂオである必然性がちょっと弱いかなぁ。題名にするならもうちょっとラヂオが前面に出ていても良い気がする。どうでも良いといえばどうでも良いけど。
何はともあれ、漫画の「大正野郎」を久しぶりに読み返してみたくなりました。舞台の評価は☆2つ。公演は明日からスタートで、12月25日までです。平日が特にお薦めとのこと。クリスマス前にデートで観にいくとか、いかが? いや、僕も今日ぐらいのポジションならまた観たいです。もちろん、お金を払ってでも。