今回はトラックバックしていただいたこちらの記事について。
「バイオ系の大型予算の決まり方」 5号館のつぶやき
僕のエントリーを好意的に取り上げていただいたことは大変光栄なのですが、いくつか「?」と思わないでもない部分がないでもない(かなり婉曲(笑))。
#しかし、こうやってトラックバックしあうのがブログの本来のあり方であるにも関わらず、こういう利用法をするのは僕自身凄い久しぶりで、「あぁ、世の中のシステムというのは得てして開発者の思惑通りにはならないものだな」と思う。
以下、引用しながらコメントする。
衝撃的かつ克明な「内部情報」が書かれています。
いや、全然衝撃的じゃないし、内部情報でもないです。もしこういったことが衝撃的かつ内部情報であるとしたら、世の中の皆さんは一体どうやってナショプロが実施されていっていると思っていたのだろうと思ってしまいます。
春から初夏にかけて、役所には非常に色々な人がやってきます。そして、「いやー、こういうプロジェクトが必要なんじゃないですかねぇ」と話して帰っていきます。で、こういう活動をするのは大体大企業の部長クラス。課長などをたずさえてやってきます。だから、大きな会社とかならほとんど皆さん、こういう状況を知っています。他にも、大学や公的研究機関の人たちもやってきますし、シンクタンクの人たちもやってきます。別にこういうことは役所にとっても迷惑ではないんですね。情報が必要ですから。逆に言えばこういう具合に情報が黙っていてもどんどん集まってくるところが役所の凄いところで、情報オタクの僕にとっては経産省というのは天国みたいなところでした(笑)。
まぁ、こうした大企業からの訪問者の中には僕たちが「こういう予算は中小企業やベンチャーのために」とか言っていても、「いや、今までこの国は護送船団でやってきたんですから、大企業にお願いします」などと平気で発言する人もいますし(さすがに役人も馬鹿じゃないので、「いくらなんでも時代錯誤だな」と感想を述べるわけですが)、それでも「いや、ベンチャーに出したいんですよ」とか言っていると今度は自前で社内ベンチャーを作って「ベンチャーです。補助金ください」とか言ってきたりします(^^; もう、役所のお金は全部吸い上げるぞ!みたいなのが日本の大企業だったりします。ま、これは余談ですが。あと、もちろん全部じゃないです。そういう大企業もある、と。
個人的な主観を述べさせてもらえば、役所の補助金というのは基本的にそれを必要としている中小企業に振り分けられるべきもので、立派な大企業が頭を下げてもらいに来るものではないと思います。僕は役人のときにバイオ人材の育成のお金を取ってきましたが、そのお金を補助した「リバネス」という会社は補助金をきっかけにして見事に会社を成長させ、今ではテレビや新聞で時々扱われるようになりました。本来、補助金というのはこうあるべきだと思っています。
役所の予算取りの中心はキャリアの課長補佐ですが、彼らは通常2年、長くて3年で異動です。そういうサイクルで動いている人間が本当の意味での専門家になれるわけがありません。彼らは非常に優秀な引継ぎシステムのもと、短期間で予算取得できるだけの知識、人脈を手に入れ、予算を取り、そしてまた異動していくのです。
経産省の場合、こういう外部からの持ち込み案件の他に、「産業構造審議会」とかの勉強会からの情報・意見の吸い上げというのがあります。産構審では経産省と仲の良い有識者などが「あーでもない。こーでもない」などと話し合ったりします。これがなかなか面白くて、実際勉強になります。問題はこの委員の人たちがどうしても経産省寄りの人になってしまうことですが、人間である以上それは仕方がないのかな、と思います。
#ちなみに僕は関東経済産業局のバイオ関連の「サブクラスターマネージャー」というのを昨年度までやっていて、要は関東局がやるバイオ施策のご意見番でしたが、「こんなんじゃだめだ」「事務局は馬鹿だ」「似たようなことをやっていても仕方ないだろう」「大企業からの出向なので当事者意識が欠如している」「もっとネットを有効活用しろ」と連発していたら、僕をクビにするんじゃなくて、サブクラスターマネージャーという制度そのものを廃止してしまいました(爆)。廃止したのは関東局ではなくバイオインダストリー協会ですが、そのあたりについてはまた別途どこかで書こうと思います。ま、日本はムラ社会なので僕みたいなのは例外中の例外です。役所からお金をもらって意見を言っているのでしょうから(詳しくは知りませんが、まさか全く手当てがないということはないと思います)、なかなか悪口は言い難いでしょう。
僕は役人だったとき、この産構審が大好きで、時間があれば見学しに行ってました。これは一般の方も見学できるんじゃないでしょうか。知らないけれど。
あと、役所は決してプルの立場だけではありません。時々プッシュする側にもなったりします。一番顕著なのがノーベル賞を獲ったときですね。もう、その科学者をゲットできるかどうかで大騒ぎになったり。ちょうど僕が役所にいたときは島津の田中耕一さんがノーベル賞を受賞したので、経産省としては大喜びでプッシュしていました。理研も今の理事長は野依良治さんですね。財務省を含め役所が研究の中身をチェックできないというわけではないでしょうが(←奥歯に物が挟まった言い方)、まぁ権威を置いておくと予算が取りやすかったりすることはあると思います(あくまでも私見)。
そうした世界を見捨てたようで
いえいえ、見捨ててなんかいません。今でも北の丸にある科学技術館には時々顔を出してインストラクターの方々にバイオをレクしたりしていますし、吉備国際大学というまぁ岡山の田舎の大学ですが、そこでバイオベンチャーという科目を教えたりもしています。上に書いたように首都圏バイオの仕事も手伝っていましたし、今もバイオベンチャーの取締役をやっています。他にもバイオ関連の調査などもやっています。ま、現在の主たる収入源はITなわけですが。ということで、
しがらみは切れている
全然切れてません(笑)。
内部告発
別に告発じゃないですよ〜。誰かを吊るし上げたりしているわけでもない。僕は「世の中の人は中村桂子さんのオピニオンをきちんと読み下すことができないかも知れないから、補足しておこう」と思って書いただけです。
魔人ブウことM木I朗
はいはい、元木一朗です。別に伏字にしていただく必要は何もありません(^^ きちんと実名で責任を持って発言する。これが僕のこのブログでのスタイルです。
多少の誇張があるにしても
いえいえ、別に誇張なんかしてないと思いますよ。まぁ、中には僕が知らないフローもあるのかもしれません。それについては僕は当然ながら言及できません。僕の知る限りについては全部そのままです。
この著者の方がもっとも言いたかったことはこれだと思われる文章
あー、すいません、全然違います。この部分は余談なので削除しても良いくらい。ただ、読み手の中には僕のこれまでのキャリアを知らない人もいるのでイメージしやすいように書いただけです。
中村桂子さんが勇気を出して書かれたことに対する援護射撃
これもちょっと違うかなぁ。僕は、「中村桂子さんが勇気を出して書いた」とは思っていません。中村さんなりに何か思うことがあって、情報を発信しただけなんじゃないかと。中村さんは情報を発信するのが仕事でもあるし。また、援護したいわけでもありません。僕は中村さんを尊敬していますが、だからといって援護するほど中村さんは弱い存在ではないと思います。
僕が思ったのは「この記事はとても面白いし、多くの人に読んで欲しいけれども、紙面の都合もあり、ちょっとわかり難いところがあるな。なので、もうちょっと噛み砕いてわかりやすく解説しておこう」ということです。僕は文科省系の理研及び経産省と、日本のバイオを主導している中枢機関の両方で働いたことがある数少ない(もしかしたら日本で唯一かもしれません。経産省に行ったときはそれまで仲の良かった理研の研究者から裏切り者扱いされましたが(^^;、そのくらい文科省系と経産省系は予算の取り合いで仲が悪いので、両方を経験する人はあまりいないはずです)人間です。そういう立場からじゃないとできない情報発信があるわけで、まぁちょっとしたお節介をしてみたに過ぎません。
などなどと色々書いてみましたが、
少しでも伝搬できたら良いと思ってこのエントリーを書きました。
このように考えていただいたことは大変光栄な話でして、どうもありがとうございました(^^ 今後ともよろしくお願いいたします。