2007年07月19日

「世界征服」は可能か?

「世界征服」は可能か? (ちくまプリマー新書 61)

岡田斗司夫さんの最新刊、「「世界征服」は可能か?」を読んでみた。

豊富なオタク知識をバックグラウンドにしつつ、その中で普通の人でも「クスっ」と笑ってしまえるようなネタだけを取捨選択してちりばめ、面白おかしく話を展開するところは秀逸。一部突込みが甘いというか、事実認識がおかしいというか、「あれ?ちょっとそれって我田引水っぽい解釈じゃない?」みたいなところもある気がするのだけれど、そのあたりは読者が「考える力を奪」われた人達中心だから問題ないんでしょう。名著「僕たちの洗脳社会」と同様、そこら辺に普通に転がっている石ころのような「誰も気に留めない」素材を取り上げて、ぼんやりとした暗黙知を形式知化することを試みているのだけれど、「僕たちの洗脳社会」と同様一種の発明だと思う。

世界征服を企てるそもそもの理由が「アニメに出てくる悪の秘密結社はなぜ世界を征服したいんだろう?」というところにあるため、世界征服を企む奴はまず悪である、という前提条件で基本的に語られているのだけれど、実際にはGoogleみたいに、「一般生活者の生活の利便性の向上を図ることによって、その延長線上に(実質的な)世界征服を実現する」というプランもあるわけで、そのあたりについては
「こんな世界で「世界を支配しよう」と思えば、それはもう「経済と情報の自由化」を否定するしかありません。

という部分はどうなのかな、と思うんですが、どうなんでしょうね(笑)?ちなみに世界征服の目的はアニメ、漫画、特撮をベースに次の5つにまとめられています。
人類の絶滅
お金が欲しい
支配されそうだから逆に支配する
悪を広める
目的が不明

でも、実社会における実質的世界支配は、一部「支配されそうだから逆に支配する」には通じますけど、ちょっと違う視点からのものがあるような気もします。パルパティーンによると
Good is a point of view, Anakin. The Sith and the Jedi are similar in almost every way...including their quest for greater power.

とのことですし。

実際、すでにネットのかなりの部分は「Googleが良かれと思う方向」へと人為的に導かれているわけで、世界征服とはいわないまでも、ネット世界の征服はかなりのところまで進んでいるんじゃないかと思うのですが、気のせいなのかな。

昨今の世界征服は、黒幕タイプが征服者を「ファッション」に仕立てて、影でほくそ笑む、というパターンだと思っているのですが。あ、これはP176で書かれている
多元化する価値観社会で、自分たちの文化こそがスタンダードだとすること

と一緒なのかな。

あと、P176以下の結論がすんなりと頭に入ってこなかったんですが、
これから先も「世界支配」というのは無意味でしょうか

と問いかけつつ、そのあとの2ページくらいがそれに対する解になっていなくて、支配する難しさが書かれています。そして、「支配しようと思えば、こうするしかない」ということになってしまい、世界を支配することの意味が良くわかんないんですね。このあたりが残念なところ。

以下、誤植マニア的にいくつか気になったところ。本来はまにあなポイントの対象とすべきところもあるけど、ま、いっか。

P30「ガミラス星人は放射能を含む大気しか呼吸できない」

番組内では「地球型の大気の中では、こちらが宇宙服を着なければならない」ぐらいの表現で、あと「放射能が含まれていると地球人は死ぬが、ガミラスは平気だ」みたいな言葉があった気もするのだけれど、放射能って必須なんでしたっけ。裏の設定でこうなっているのかな?あ、あと、ガミラス人だよね。

P76「ゴート札(ふだ)」

おかしいなぁ、と思ってビデオで確認したけど、「ゴート札(さつ)」ですよね。ま、これは岡田さんが間違ったんじゃなくて、編集が勝手に振ったんだろうけど。僕の本でもこの手の間違いは結構ありました。で、当然見逃した(笑)。

P151「独裁者=ディレクトル」

ディクティター(現在読み)、あるいはディクタートル(共和制ローマ読み、ともにつづりはdictator)じゃないかなぁ。ディレクトルだと、今で言うディレクターだよね、多分。

岡田さんの本で個人的に気になるのは表現フォーマットの部分で、一つ目はほとんどが「です・ます調」に統一されているにも関わらず、ところどころで「・・・・目指さなくてはいけない。」とか、「・・・・・という事実の前には抵抗できなかった。」とか、文体の統一が図られていないこと。当然これらはわざとやっているんだろうし、何らかの意図があってやっているんだとも思うのだけれど、朝日新聞の西村欣也編集委員の文章を読んだときと同じような違和感があって、凄く気になる(^^; 別に良いんだけど(^^; もう一つは異常に多いふりがな。ここまでふりがなを振らないとダメなんですかね(^^; っていうか、「欲しい」とか、「疲れて」とか、「僕」とかにふりがなが振ってあって、「艦隊」とか、「議論」とかには振ってない理由が良くわからない(^^; まぁ、これも何か基準があるんでしょうが、どうでもいっか(^^;

ということで、本の評価は☆2つ。結論をちょっと加筆修正したらどうかなぁ。折角僕のような人間にもすんなり頭に入ってくる書きぶりで最後まで来たのに、ツメのところでトーンが変わっちゃってます。

#いや、単に僕の理解力が低いだけなのかも知れませんが(^^;

でまぁ、何が結論かと言うと、私的には「世界は金と情報に支配されている」ということでしょうか(北朝鮮など一部を除く)。

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「世界征服」は可能か? (ちくまプリマー新書 61) まじめに世界征服について考えてますよこの本は。いやー、あほらしく面白い。アニメに出てくるような悪役はいかに、本気で世界征服なんか考えてないかを語りだしますしね。世界征服するならいったいずつ敵を送り込まんといっ...
「世界征服」は可能か?【義勇】at 2007年08月04日 22:24
この記事へのコメント
ガミラス人が放射能がないと生きていけないというのは宇宙戦艦ヤマトの最終回でヤマトに潜入したガミラス人がヤマトの空気を放射能で汚染してユキが越すもクリーナーDを作動させると放射能がなくなってヤマトに侵入したガミラス人が倒れていくというシーンで言っていたような・・・・記憶が曖昧なので細かい部分は違うかも。

その後、デスラーは普通に古代たちと飯食ったりしていたのでなかったことにされた設定ですね。
Posted by TOMONE at 2007年07月20日 05:06