2008年01月07日

第7回朝日舞台芸術賞

朝日舞台芸術賞のグランプリにTHE BEEが選出された

日本バージョン、ロンドンバージョンの二つで受賞と言う形を取っているが、実際、この作品は日本バージョン、ロンドンバージョンの二つを並べて観ることによって、その意図するところがより明確になる性質を持っていた。一つだけでも十分にアピールするのだけれど、違う方向から光を当てることによってそれぞれの意図するところがよりはっきりするという仕掛け。

ロンドンバージョンは日本では無名の役者さんを使っていたからだろうか(ハリポタとかにも出ていましたけどね)、世田谷パブリックシアター/シアタートラムという決して大きくない箱にも関わらず、空席がちらほら目に付く状態だった。有名俳優が出演すればシアターコクーンだろうが新国立だろうが満員御礼、場合によっては立ち見まで出る野田地図公演なので、「あれ?」という感じだった。野田秀樹氏自身もその手ごたえのなさを意外に感じていた様子で、カーテンコールでは「まだチケットがありますので、観に来てください」と宣伝していたくらいである。やはりなんだかんだ言っても日本の観客というのは芝居を観に来るのではなく役者を、それも、テレビで活躍している役者を観に来ているんだろうなぁ、と感じたわけだけれど、それはそれ。日本バージョンとロンドンバージョンを並べて観た人がどの程度いたのかはわからないのだけれど、生ものである芝居をあとになって「良かったらしいよ」と言われてももうどうにもならないわけで、グランプリを獲るような芝居をきちんとチェックしてあったのは去年のヒットだったかも知れない。

しかしまぁ、これからグランプリの記念公演をやるわけにもいかず、別の面子でやればそれはそれで別の舞台になってしまうこともあり、この手の演劇賞っていうのは何のためかといえば少なくとも観客のためではない。やはり受賞した当事者のモチベーションの維持のためなんだろう。そういう意味では野田秀樹さんはおめでとうございます。賞金は200万円。

野田公演の、野田地図以来の特性として「小規模公演、番外公演が高く評価される」というものがある。「し」しかり、「赤鬼」しかり、「Right Eye」しかり、「農業少女」しかり、そして、THE BEEである。小さい劇場での公演はほぼ百発百中。

一方でシアターコクーンや新国立(厳密にはこれは新国立の公演であって、野田地図公演ではないのだが)でやったものはハズレが多い。特にこれらの劇場で上演される再演ものはほぼ百発百ハズレである。それは、作や演出に問題があるのではなく、プロデュースに問題があるのは明白である。今やっている「キル」も、主演二人の能力不足でグダグダになってしまっているのはこのブログでも書いたとおり

ただ、世の中のブログの記事などを読んでいると、このグダグダな駄目芝居を絶賛している人が少なからずいるわけで、それはそれで「へぇ(苦笑)」とは思うけれど、「こいつら馬鹿じゃないの(爆笑)?」とは思わない。なぜかといえば、キルの主演の二人の演技は単に射程距離が短いだけの話で、5列目ぐらいより前で観ればきっとそれなりに楽しめると思うからだ。また、「妻夫木君大好き〜」とか、「広末ちゃん大好き〜」と目がハートになっている人たちであれば二階席からオペラグラスで観ているだけでも満足できるのかもしれない。チケットゲットに全力を注ぐほどでもなく、妻夫木君や広末ちゃんを観たいわけでもないごくごく普通の演劇ファンであっても、やはりその多くは「野田秀樹って面白いねぇ」という感想を持つのかもしれない。置いてきぼりを食うのは、野田秀樹の本当の実力を知っている昔からの演劇ファン、それでいてチケットを取るのに注力するほどの情熱はない人だけ、と言うことなのかもしれないが、THE BEEロンドンバージョンに足を運ぶ客が少なかったことを考えれば、その手の観客と言うのは意外と少ないのかも知れない。

野田地図の北村プロデューサーの戦略というのは以前から明確である。舞台に立つ(←これ、重要)役者としての能力はイマイチだけれど、人気はあって動員力を期待できる客寄せパンダを前面に出した公演を大きな箱でやって従業員の給料を払う。その一方で昔からのファンや評論家に向けては小さい箱を使ってきちんとしたものを提供する。価値観の多様化に対応して提供するものも色々変えていくということである。以前は「遊眠社のファン」だけを的にしておいたわけだが、劇団を解散して的のバリエーションを増やした。

芝居を観る側は「的」なので、いつだって「ちゃんとオレに当ててくれ」と思うけれど、射るほうは「いや、今回はこちらを標的にしたいので」ということでそっぽを向いてしまうかも知れない。射手がどちらを向いているのかが的からはわからないことが最大の問題点ではあるものの、観てみて「あぁ、自分は的じゃなかったのか」と初めて気付かされるというのは、これはもうどうしようもないリスクなのかも知れない。

今回の受賞を知って、「観ておけば良かった!」と思っている人も結構いるかもしれない。でもね、これを観ていたというのは決して運ではないんですよ。これを観ていた背後には、随分と色々な投資があるわけです。それに、評論家が評価したからって、だからどうした、ってこともありますよね。評論家が評価したから良い演劇だったのかって言えば、そうとは限らないわけで。あぁ、僕がこう評価した芝居を、評論家と言われる人たちはこう評価するのか、という、自分の立ち位置の明確化。実際のところはこの程度の意味しかないわけです。何にしても、自分がその芝居を観ていなければ何の役にも立たないわけで、「やっぱり、芝居はそこで観ないとね」と思うわけです。

ということで、評論家の皆さんが評価した芝居を自分はどう評価していたのか、ちょっと読み直してみました。あー、ブログって便利だなぁ。

日本バージョン感想
ロンドンバージョン感想

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