2008年04月13日

ブログでバイオ 第39回「第1回BT戦略推進官民会議(笑)」

第38回の掲載ブログが消えちゃっていたので、38回は欠番ですが、まぁこういうこともあるでしょう。さて、気を取り直して第39回です。

僕自身、最近はITの仕事が忙しくてバイオの方は結構棚上げ状態だったんですが、ふらふらとウェブサイトを見ていたらバイオ関連のエントリーを見つけたのでちょっとコメントしてみます。

コメントしてみますが、今、実は結構忙しいので、推敲とかきちんとできないし、いろいろ穴があるかもしれません。「普段のトーンと違うな」と思ったら、理由はそういうところにあるのであしからず(笑)。

さて、みつけた記事はこれです。

幻影随想「バイオテクノロジー戦略大綱の破綻

僕のブログでも過去に数回、このBT戦略大綱については取り上げていると思うのだけれど、この大綱を作ったとき、僕は経済産業省生物化学産業課で事業化担当の課長補佐をやっていました。メインでこの大綱を作った人間ではないけれど、横目でそれを見ていて、その作業の概要はほとんど把握していたわけです。ちなみに僕もある部分はチェックしているし、一部は実際に書いたりもしています。この大綱、一応内閣府が作るという形になっていたけれども、それを内閣府で取り仕切っていたのは経済産業省生物化学産業課で総括補佐をやっていた人で、大綱の作成時には内閣府に出向して担当していました。各省連携という形にはなっていましたが、恐らく経産省の影響は大きかったはずです。それで、これを実務的に中心になってやっていたのはその人とは別の、生物化学産業課の課長補佐だったのだけれど、彼は僕が一緒に仕事をした経済産業省の人間のなかでは恐らく最も「デキる」人間でした。彼はバイオのスペシャリストではなかったものの、それなりに大学でも生物を勉強している人間で、恐らくはこの作業をやるにあたって日本で一番適任だったと思います。彼の力がなければこれだけのものはできなかったとも思います。

#経産省はバイオ分野に限らずあまり規制を持っていないので、守りに入る必要がありません。この手の作業をやるには適任だったりします。

しかし、この大綱には大きな特性があって、それゆえに、結果的には手放しで評価できるものではなくなっているんです。その大きな特性とは、「バイオ予算を取るための道具」としての性格です。こうした文書がなぜ作られる必要があるのか。それは、役人が関連予算を取ってくるときに、財務省に対して「こういう根拠があるからこの予算が必要なんですよ」とアピールするときのよりどころになるからです。こういう数字を出すこと自体は別に珍しくなくて、記憶に残っているところでは「マルチメディア市場123兆円」なんていうのがあります。なぜこの数字が記憶に残っているかといえば、あるシンクタンクに二つの役所から別々に「マルチメディア市場を試算してくれ」というオーダーが出て、その様子をちょこっと見ていたからです(笑)。「あっちの省がこの数字なら、うちはもっと増やしてくれ」「なんかでかい数字を出してきたから、うちはもうちょっと上乗せしたい」という競争の末に「これもマルチメディア」「あれもマルチメディア」と積算を増大させ、最終的に「これなら1、2、3で覚えやすいね」ということで123兆に落ち着いたわけですが(爆)、市場予想なんて、発注側の意図でなんとでもなるわけです。「日本の」シンクタンクと言うのは、基本的に役所の言いなりであって、役人があらかじめ作った結論に対して整合性が取れる屁理屈を作るのが仕事です。ちなみにバイオ市場25兆円というのも形としてはシンクタンクが試算したということになっていますが、最初から数値があったのは言わずもがなです。財務省以外の役人は財務省に対して「○○総合研究所の試算によると」などと言いながら説明するわけですが、その数字がどうやって決まったのかなんて、多分財務省の側も知っているはずです。

#しかし数字の発表から10年前後が経過しているのにまだ覚えているんだから、「123」という数字にしたことは慧眼です。すばらしい。

閑話休題。したがって、この大綱の周りに配置されている色々な業界団体は、最終的にその予算の受け皿になる組織がほとんどです。例えばバイオ産業人会議

当たり前だけど、バイオ関連の組織がずらっと並んでいます。この組織はバイオ産業が発展しないと困る組織ばかりですが、バイオの予算がついたときに、その受け皿として機能したい組織でもあるわけです。

役所は財務省から予算(=お金)を取ってきて、それを再分配する(=ばら撒く)のが仕事です。ばら撒かれる側は常に役所の顔色をうかがっていて、「こういう施策はどうですか?」などと時々我田引水のアイデアを出したりもします。以前、科学技術の大型プロジェクトの予算の決まり方をこのブログで書いたことがありますが、産業政策だって似たり寄ったりです。それで、そういう仕組みが悪いということではないんですね。役人はジェネラリストでバイオのスペシャリストではないから、当然バックから色々なアイデアをもらわないと身動きが取れません。

そういう、「役所」と「業界」がタイアップして作った大綱だから、当然のことながら「業界」の役に立つことしか書かれていないんです。

以下のエントリーも、このブログでは何回か取り上げたことがあると思うのだけれど、

2010年のバイオ市場規模の持つ意味(2年前に書いて忘れてた)

このエントリーの中でもBT戦略大綱における「国民理解の増進」の比重があまりにも軽いことに触れているんですが、結局のところ、役人や業界の考え方は「臭いものには蓋をする」というものです。たとえば経済産業省が無駄遣いをして作った次のサイトなどを見るとこれも明らかなのだけれど、

みんなのバイオ学園

このサイト、バイオの学校を自称するにはちょっと不適切な表現が目に付くのはともかくとして(例えば「ゲノム」の解説として「生物には全て遺伝子があり、その遺伝子には親から子へ、姿・形や性質、体質などの情報が書き込まれている。そして、生物がもつ遺伝子全体をその生物の設計図、『ゲノム』という。」なんていう記述があるのだけれど、これって本当に正確ですか?遺伝子全体?遺伝情報全体じゃなくて?)、基本的に良いことしか書いてないんですね。素晴らしい夢ばかりが書かれている。ところが、科学技術が両刃の剣だってことは今の時代に生きる人間なら大体本能的に理解しているわけです。だから、褒め言葉ばかりのコンテンツの胡散臭さにだって気がつくわけです。

以前、僕が三菱総研にいたとき、「最新のバイオテクノロジー」についての論文を書いたことがあるのだけれど、そのときも取材した会社から、「うちの製品がバイオ製品だって書かれてしまうと売上に影響が出るのでやめてください」という要望が来たことがあるんですが、これも一例ですね。皆さんが「これは良い」って思って使っている食品にだってバイオ製品は山ほどあるんですよ。例えばエコナとか、どうですか。これ、れっきとしたバイオ製品です。

#そういう意味では、バイオ関連製品を片っ端からリストアップして、「これも組換え」「これも組換え」って全部オープンにしちゃうっていう手もあるかもしれませんね(笑)。関連企業って、できればバイオを使っていることを隠したいところがほとんどなんです。

それで、つい昨日オールアバウトにも似たようなエントリーを書いたんですけど、

青少年ネット規制法案問題をどう見るか(前編)
青少年ネット規制法案問題をどう見るか(後編)

もう既に世界は情報化社会になっていて、誰でも簡単に先進情報にアクセスできるような環境になってきているんです。もちろん日本だって例外じゃない。そんな世の中において、良いところばかりアピールすることがどんなに無駄なことなのか、そろそろ気がついても良い頃です。ところが、役人も、業界も、それに気がつかないんですね。このあたりがKYなところでもあるわけですが、そうした体質こそが、日本社会が抱えている最大の問題点なんです。これは一種の既得権でもあるわけですが、国のかじ取り役たちは「情報がない人間は情報がないままにしておこう。下手に知恵がつくと対策が難しい。国民は適度に馬鹿なのが一番扱いやすい」と考えているんですね。「そんなの、けしからん!」と思うかもしれませんが、こう思っているのは役人というよりは、業界そのものです。

ということで、そのあたりを変えていかなくちゃいけないんでしょうが、これって、ものすごく大変なことです。本当にできるのかな、とも思います。バイオだけの話じゃないし。生活者の側だって、考えなくちゃいけないことになるんですよ。今までは「役人に任せておけば良いや」だったんだから、ある意味、凄く楽だったわけです。でも、世の中が変わったら、自分でちゃんと勉強しなくちゃいけない。裁判員制度と一緒ですね。裁判官に任せていたことをやらされることになったら「面倒だなぁ」って考える人は多いはずです。そういう「面倒な勉強」が増えちゃいます。そうやって考えていくと、今の世の中、義務教育って中学までで良いのかなぁ、などとも思うのですが、これまたちょっと話がずれちゃう感じなので大概にしておきます。

で、何が言いたいのかといえば、このBT戦略大綱の最大のウィークポイントは、それが「業界が財務省からお金を引き出すことが目的」であるからこそ、直接的にお金になりそうなことがら「以外」についての書き込みが薄いというところなんですね。国民のバイオに対する理解、少なくとも、ネガティブな結論に結びつきそうな情報提供なんて、業界は全くやりたくないわけですから。財務省も、役所も、業界もやりたくない。結果として、そういう項目は落とされちゃうわけです。担当する役人がどんなに有能だって関係ないわけですね。

さて、件のサイトで取り上げられている「第1回BT戦略推進官民会議」の、議事次第のウェブサイトでは配布資料が公開されているんですが、これがなかなか興味深いわけです。

第1回BT戦略推進官民会議 議事次第

資料3−1とか、資料3−2とかを見ると、この評価もどうなのかなぁ、というのが正直なところ。まぁ、もともとムラ社会に生きる日本人は、物事を評価するというのが凄く苦手なんですね。「ばーか、こんなわけねぇだろ!」って指摘しちゃうと、将来自分のところにその言葉が返ってきかねない。「天に唾」みたいなことをみんな気にしているから、言いたいことも言えない。僕なんかもうバイオからはすっかり足を洗っちゃっているから(というのは正確ではなくて、昨年度もそこそこの額を調査もので色々な団体から請けているのですが(笑))、こうやって言いたい放題言えちゃうわけですが、そういう身分の人間と言うのは凄く少ないわけです。それから、日本人は同時に「批判されること」にも慣れていないんですね。打たれ弱い。だから、ちょっと批判されると蒼くなって右往左往する。つい先日もそういう噂をちょっと聞いたんですが(すいません、この話はオフレコってことだったのでここには書けないんですが)、みんなが遠慮して批判しないし、批判するとしてもせいぜい2ちゃんねるで書いたりするだけなので、全然表面化しない。で、そういう情報はあくまでもプル情報だから、見たくないと思っていれば見なくて済むことが多いわけです。まぁ、中には新聞とかにばーーーんと批判記事を書く人もいたりしますが(僕はそういう活動はもっと色々やってほしいという立場ですが(笑))、そういうのは稀なわけです。それで、評価がきちんとできないし、責任の所在もはっきりしないし(って、BT戦略大綱を作った責任者が今どのあたりにいるのかは僕はかなりのところまで正確に把握していますが(笑))、ということで、これがまともに機能しないのは仕方がないよなぁ、とも思うわけです。このBT戦略推進官民会議の資料とかを見ていると、「あぁ、コリャ駄目だ」ってことがわかるわけですから、そういう意味では素晴らしい情報公開ですよね。

僕はもう何年も前の第二回ライフサイエンスサミットで「2010年のバイオ市場25兆円なんて絵空事」という発言をしているわけですが、そのときも場の雰囲気はどっちらけなわけです。何故かって、絵空事だろうがなんだろうが、そういう数字をぶち上げたことが重要なんですね、その場にいた人たちにとっては。それが実現するかどうかが問題じゃない。その数値目標に向かって国を挙げて努力することが重要だ、と。そんな中、お金をばら撒いてもらう立場の人たちの前で「今のままじゃ、こんな数字が実現するわけないじゃないか」と正論をぶち上げたところで、「そりゃそうだけど、それを言っちゃぁおしまいでしょ。みんな実現するとは思っていないけれど、その目標のために財務省が努力してくれることが重要なんだよ」って思っているわけです。そんな人たちに冷や水を浴びせかけたところで、「あいつは一体何者なんだ」でおしまいです。

さて、そろそろ結論を書かなくちゃいけない時間です。篤姫が始まるから(笑)。

僕が最近強く思うのは、今の30〜40歳ぐらいのところで大きなギャップがあって、これより若い層の一部には「今のままでは駄目だ」と考えている人がちらほら見えてきているということです。もっと勉強して、もっと知識を身につけて、もっと発言力をつけて、そして世の中を自分の力で変えていかなくちゃならない、と思っている人たちですね。残念ながら、40歳を超えた人たちにはこういう人材を見つけるのは至難の業です。もうすでに、既存のパラダイムの中で生きてきた人たちですから。もちろん、僕もそっちの、役に立たない方に分類されます。それで、思うのは、そういう新しいニュータイプたちをどうやって育て、顕在化させ、そして、日本を変えていったら良いのか、ということなんですね。僕の出番がないのは明らかだけれど、次の人たちが活躍しやすい場を整備していくことは、少しはできるんじゃないかな、と。例えばリスクマネーを集めて、そういった若者に投入するのも一つの手です。馴れ合いじゃない、お互いに切磋琢磨できるような緩い求心力の集団を作っていくのでも良い。そういった人たちが働ける場としてベンチャーを作るのでも良い。とにかく、既存のシステム、既存のお偉いさんに頼らない場を作りたいんです。例えば僕が役人時代に財務省から取ってきた予算にバイオ人材育成というものがあるんですが、このお金をばら撒いた先のベンチャーの一つに「リバネス」があるわけです。この会社は僕が経産省時代にやった数少ない仕事の、数少ない成果のひとつですが、しかし、まだ芽の段階で見つけ出して、肥料をあげた甲斐があって、今は徐々に大きくなりつつあるわけです。この会社が存在しているだけで、「仕事をした甲斐があった」と思うわけです。そして、そういった活動を、今は民間の立場でやっていきたいわけです。若い人を中心にしてね。

#これまでもあちこちで「バイオベンチャーといえども、若者のものだ。年寄りはサポートに回れ」といって年寄りから顰蹙を買いまくっているわけだけれど、これはもう信念ですね。年寄りにベンチャーの社長をやらせてうまくいくわけがない。年齢なんか関係ないって言うかもしれないけれど、年齢が関係ないならなおさら若い奴にやらせろと思うわけです。リバネスの丸さんなんか、この間30歳になったばかりですよ。

##何かっていうと「国が」「国が」っていう人たちにも辟易としてます(笑)。国なんかに頼らないで自分達で何とかしろよ、と。でも、年寄りは仕方ないんです(^^; だって、今までずっと国に頼ってきた人たちですから。大学の先生だって、企業のお偉いさんだって、既存のシステムの中で偉くなった既得権者なんですよ。そして、そういう人たちには世の中を変えるのは無理。

そういったことをつらつら考えてはいるわけですが、ふと気がつくとついつい本業の方に一所懸命になっていて、バイオのことは後回しになっているのです(笑)。でも、やっぱりバイオにも頑張ってほしいんですよね。

中央官庁の原課が予算を取ってくるじゃないですか。すると、まず集まってくるのが「護送船団」を標榜する大企業です。「いや、この予算は大企業のためじゃなくて、ベンチャー企業のためにあるんですよ」と言うと、今度は「社内ベンチャーでバイオベンチャーを作りました!」などと言ってくる会社がうようよあるわけです。まぁ、具体名はどことは書きませんけどね。もちろん誰でも聞いたことのある会社です(考えてみると、本当に一流のところはそういうことを言ってきませんけどね)。国のお金をどうやって引き受けるか、こんなことを考えて作られた会社が将来大成功を収めるわけがないです。そういう、既得権者による枠組みの外で、何かやりたいと思ってます。

#どうでも良いけど、このブログ、理研の人とか経済産業省の人とか、結構読んでるんですよね(笑)。今のバイオインダストリー協会の専務理事はバイオ課時代にとてもお世話になった人だし。いや、皆様、今後とも是非よろしくお願いいたします(^^。

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buu2さんが,ひさしぶりにリレーエッセイ「ブログでバイオ」を書いてお られるのを見つけたので,リンクしときます. 「臭いものには蓋をする」的な考え方に,飲み込まれたくはないですな. 私も,聞かれたら科学技術が両刃の剣であることを,実例を示しながら答 えるよう...
【閑話休題】ブログでバイオ 第39回「第1回BT戦略推進官民会議(笑)」が出ました【Science and Communication】at 2008年04月13日 22:36