一言で表現すると、「民主党の民主党による選挙のための映画」という感じなのだが、日本に住んでいて、米国での選挙権がない日本人にはあまり効果がない。なので、純粋にエンターテイメントとしてこの映画を観たわけだが、これは結構酷い出来だと思う。
何しろ民主党の素晴らしさ(というか、共和党の政策ミス)をアピールするのが主題になっているので、とにかく会話が多い。教授と学生、議員とジャーナリストの会話がメインなのだが、もう字幕を追っているのが面倒になってくるくらい。おまけにその字幕がイマイチなものだから、ついつい「あれ?さっきそんなこと言ってたっけ?」とか、「あれ?字幕の日本語、なんかおかしくない?」みたいなところにつっかかってしまい、画面を追いきれなくなってしまう。「しまった、これは吹き替えで観るべきだったかな?」などと、もうかれこれ何十年も感じたことがないことを思ってしまった。
自由の国、チャンスの国と言われつつもその実態は結局差別社会である、という当たり前の現実を見せつつ、「さぁ、あなた達はどうするんですか?」と思わせぶりに終わるのも、なんか政治色満載で嫌な感じ。
映画を引き締めるはずの雪山シーンが「こ、これがインダストリアル・ライト・アンド・マジックの特撮ですか?えーーーーーー?」みたいな、いや、まるでローレライとかあのあたりの予算不足の邦画の特撮を髣髴とさせるような安っぽいものなのもいただけない。
ロバート・レッド・フォードは久しぶりに見たけれど、まぁ普通の演技。支持している民主党のための映画を撮れたので満足でしょう。メリル・ストリープもそれなりだけれど、やっぱ、プラダを着た悪魔の快演が頭に残っているので、「もっと味がある演技が出来る人なのに」と思ってしまう。トム・クルーズだけは本領発揮。って、それは「トム・クルーズの出演作に傑作なし」っていうこと。
しかし、ストーリーよりも、背後の思惑よりも、駄目なのは「大いなる陰謀」なんていう邦題。なんだこりゃ。一体どういうセンスでつけてるんだろう。ロバート・レッド・フォードが監督だから、「大統領の陰謀」にひっかけたんですかね?でも、この映画で描かれているのは大いなる陰謀なんてとんでもない。せいぜい「臆病者の策略」ぐらいのものじゃないですか。「LIONS FOR LAMBS」じゃぁわかりにくいってことかもしれないけれど、良い邦題が思いつかないならやっぱ原題のままでいって欲しい。この程度の英語なら今の日本人は大抵わかるんじゃないの?「羊に仕えるライオン」「獅子を率いる羊」ぐらいでも良いけどさ。