いまどきの勉強不足な日本人が観れば「軽い気持で観にいったら重い映画だった」などと他人事のように感じるに違いないこの映画。米国の名優をそろえた米国万歳映画という意味ではつい先日公開された駄目映画「大いなる陰謀」と似ている。良くも悪くも、この手の映画を観て「米国って素晴らしい」などと感じてしまう人が結構いるんじゃないかと思うと正直「なんだかなぁ」という気もする。9.11が起きてしまってから、慌てて「世界の警察たる米国はこんなに皆さんのために頑張ったんですよ」とPRしているような、そんな風な映画である。
この映画で描かれている米国の行動を全面的に批判するわけではないけれど、米国の価値観が世界の共通の価値観として受け入れられる保証はなく、それでもそれが唯一無二の価値観であると疑わずに押し付けていく姿勢については、やはりある程度距離をおいて客観的に見ていく必要があるはずだ。
内容はというと、ソ連のアフガニスタン侵攻に対して裏で暗躍した米国下院議員のお話。要は、アフガニスタンに武器を供与して対ソ連戦争の最前線としてアフガニスタンを利用し、勝利したという感じのことを格好良く、時にお気楽に描いた、といった感じ。
このあたりの状況はご存知のように宗教やら石油やらが複雑に絡んでこじれにこじれているわけで、島国のほぼ単一民族国家である日本人にはなかなかわかりにくい状態。ここでの米国の失政がそのまま9.11につながっているわけで、単純に「凄いね」で終わるような話ではないのだけれど、恐らくそのあたりについても日本人には理解が難しいところだろう。
難民キャンプのシーンなどはかなり軽めで、ブラッド・ダイヤモンドあたりの描写に比べるとあまり悲惨さが伝わってこない。このあたりはちょっと手抜きのような気もする。
本作で一番良い味を出しているのはCIAのはぐれ諜報部員に扮しているフィリップ・シーモア・ホフマン。彼が作中で果たす役割は決して小さくないのだが、ラスト近くでチャーリーに語るあたりは完全にフィクションっぽい。
人間の行動には全て理由があり、その理由とは「利益」である。ボランティア活動だって、「人のために役に立てて嬉しいと感じることができる」という利益があるから行われる。利益に通じない行動は「強制された行動」のみだ。では、米国の活動理由は何なのか。この映画における利益は「反共産主義」である。それでは、この映画を作った理由は何なのか。最大のものは、アフガニスタンからのソ連撤退の裏にあった事実を世界に知らしめることだろうか。何故かといえば、それに至るチャーリーの行動をほぼ全面的に肯定的に描いているからである。そして、最後に「一つだけ、ちょっと失敗した」と弁解する。ちょっとの失敗が米国の国民にとてつもない恐怖を植え付けたわけだが、そのあたりに関する反省はかなり軽く描かれている。本来皮肉として作られている映画だが、それを皮肉と受け取れない日本人は山ほどいそうだし、そうなってしまった理由は皮肉に徹し切れなかったこと。もちろん米国内ではきちんと皮肉として受け取られるだろうが、勉強不足の人が多い日本ではなかなか期待できそうにない。
「大いなる陰謀」と同じ理由で日本人にはわかりにくく(=誤解されやすく)、そして同じ理由で傑作とは言いがたい。評価は☆1つ。