コンテンツが自動生成されるウェブサイトというものは山ほどある。ブログがその代表例で、ブログを運営している人は勝手に記事を書いている。僕も今、ライブドアに頼まれもせずに記事を書いている。
僕が書いた記事を読みにたくさんの人がアクセスしてくれて、そのおかげでライブドアはお金を儲けているわけだが、こういったシステムはブログのほかにもSNSやら、BBSやら、枚挙に暇がない。
さて、こうしたシステムにとっての生命線は、「コンテンツを確保できるか」に尽きる。コンテンツがなければシステムはただの箱だ。空っぽの箱が大量にあっても意味がない。だから、そういうシステムを運用している人たちは、「どうやったら利用者がコンテンツを生成してくれるのか」を考える。ライブログも、「どうしたらみんながミクシィじゃなくて、SNSで日記を書いてくれるのかな」などと頭をひねっているわけだ。
さて、そんな問題点を解決する最も簡単な手段が「お金やプレゼントを出す」という手段である。「記事を書いてくれたらポイントを提供します」とか、「人気のあるブロガーには賞金を出します」とか、そういったやり方である。この手法は比較的手間がかからず、そして一定の効果が期待できる。しかし、ではそれが万能かというとそうでもない。そんな事例があったので、ちょっと紹介してみる。
見つけたのは「食べログ」である。食べログでは、レビューを書くとネットマイルとか、そんな手法によってある程度のお小遣いを稼ぐことが可能だ。僕はこれまでに1000以上のレビューを掲載しているのだけれど、これによってちょっとしたお小遣いを手に入れているようだ(実際にはまだきちんと確認していないのだけれど、多分数千円程度のお金を稼いでいるはずである)。まぁ、報酬と言ってもスズメの涙ほどなので、「こんなんでインセンティブになるのかなぁ」と、このアタリの効果に対しては非常に懐疑的なのだけれど、まぁ、もしかしたらインセンティブになるのかもしれない。少なくとも、「抽選で1名様にiPodをプレゼント」というよりは、確実にお金になるレビュー1本あたり5円とかの方が効果があるのかもしれない。まぁ、そんなシステムの中で、今、こんなレビュアーが現れている。
aosi77のレストランガイド
このレビュアーのレビューはこちらでざっと閲覧することができるのだが、見てわかるとおり、内容には一般常識に照らせばそれほどの価値がなく、一部は文字数を確保するためのコピペだったりもする。
#食べログのレビューは一定文字数以上がないと、文字数不足でレビューとして認められない。
このレビュアーがどういう目的でこうした記事をエントリーし続けているのかは不明だが、じゃぁ、これが駄目なのかといえばそんなこともない。どこかの誰かにとってはこの記事は有用かも知れず、「こんな駄目情報」と切り捨ててしまうのは、それはそれで問題だ。つまり、ここで展開されているレビューは、レビューと言う意味では限りなく「駄目」だが、ではレビューではないかと言われればそうとも言い切れないのである。恐らく、このレビュアーはこのレビューを書くことによって一定のポイントを稼ぐことが出来ているはずで、そのことを非難することは困難だ。
では、こうした情報をカウントせずに、優良なレビューだけを誘発することはできないのか、ということになる。この手法も考えられないことはないのだが、運用上はなかなか難しいところがある。例えば食べログには「投票」という機能があって、レビューが参考になったと思えば、そのレビューに「参考になった」と投票することができる。だから、「参考票」の数に比例してポイントを配布するというのが一つ考えられる方法だ。では、これを導入したときにどうなるのか。まず、このポイントと言うのは一部のレビュアーに偏る傾向がある。お気に入りのレビュアーに対してはそのレビューの内容がどうであれ、とりあえず「参考になった」とボタンを押してしまうことが多いようだ。これが特に顕著なのは写真で、「こんなピンボケの写真のどこが参考になるんだ」「この写真はホワイトバランスさえとってないじゃないか」「あのぉ、風景の写真なんですけど」なんて突っ込みを入れたくなるような写真にじゃかじゃか投票されていたりする。逆に「これはおいしそうに撮れているね」という写真でも、それがマイナーなレビュアーだったりすると、そのまま埋もれてしまったりもする。評価する側の成熟度が低いため、評価の質が向上しないのである。結果として、食べログの参考票システムと言うのはあまりまともに機能していない(ただし、主観)。また、もし参考票をポイントに連動させた場合、サクラ投票やお礼投票(投票して貰ったから、自分も相手に投票してあげる)といった行動も発生し、今でもまともに機能していない参考票システムの信頼性が一段と低くなると考えられる。このほかにも「アクセス数」などで評価することが可能だと思うのだが、アクセス数にしても、参考票ほどの低信頼性ではないものの、一定の作為的操作は可能なので、それに対して全幅の信頼を寄せるのは不適切である。
結果として、「完璧な予防方法」というのは存在しないのだ。となると、こういった活動に対してはある程度目をつぶるか、あるいは情報発信にリンクした形でのポイント配布という方策そのものを見直すしかない。
食べログというサイトがぐるなびと比較して運営上難しいのには理由がある。それは、ぐるなびには明確にお客様=レストランが存在し、サービスの対象が個別具体的に特定できるのに対し、食べログにはそれが存在しないということである。あくまでもサービスの対象は閲覧者で、不特定多数に対してのサービスになる。ぐるなびなら、「おたくのレストランのサイトへのアクセスはこんな感じですよ」「クーポンのニーズはこんな感じですよ」「問い合わせはこんな感じですよ」「同じ地域の他店に比べて、あなたのお店はこんな感じですよ」とさまざまなデータを提供できるのに対し、食べログはせいぜい「うちのサイトは口コミレビューだから、信頼性が高いですよ。だから、どんどんアクセスしてくださいね」と宣伝するぐらいしかできないのである。これはビジネスモデルとしてはやや厳しい。
以前の食べログは、レビュアーに対してかなりの敬意を払っていたものなのだが、最近はそういったマインドが全く見られなくなってしまった。彼らが目を配るべきは一つにはレビュアーであり、一つには閲覧者である。レビューがそれなりに集まって、レビューそのものに対する優先順位が低くなってきているのかも知れない。結果としてレビュアー軽視、閲覧者重視という姿勢に変わってきたのかもしれないが、レビュアーはいつでもよそに流出する。これは過去のアスクユーやライブドアグルメを見ていれば一目瞭然だ。何より、食べログ自身が後発としてそれらの先発グルメレビューサイトからレビュアーを引っこ抜いてきたのだから、そのあたりは当然良くわかっているはずである。
そういう状況において、食べログがどういう「コンテンツ自動生成誘発モデル」を考えていくのか、なかなかに興味深い。