毎年邦画も一本、二本、秀作があるもの。ところが、今年は上半期を終わっても「これは秀作」と呼べるものが見当たらない。今年は不作なのかな、と思いつつ、舞台挨拶つきの「百万円と苦虫女」を見てきた。結論から言うと、今年映画館で観た邦画の中ではベスト。
「物凄く印象的なシーン」などは特にないのだが、一つ一つのエピソードが肩肘張らずに等身大なのが良い。
ストーリーは物凄くわかりやすく、先の先までが読めてしまう。子猫がどうなるのかとか、ラストはどうなるのかとか、ほとんどが予定通り。そして、ラストは「彼の行動の理由はこれとして、じゃぁ、それをどうやってカミングアウトするの?」という一点に興味が集中してしまった。その最後の興味の顛末はともかくとして、ラストの処理の仕方が非常に良かったので、この映画の評価が高まったと思う。あそこで普通のラブストーリーのような終り方をしてしまったら、それこそ興ざめ、一気に映画の評価が下がるところだった。「来るわけないか」だからこそ、この映画の余韻が楽しめたんだと思う。そのセリフのなんと艶のあることか。
最初は全くの孤独で逃げるように町を後にし、次の町では少しだけ会話があったのに、関係ができる前に自分からそれを拒否してしまい、その次の町では数人だけれども、大勢の敵の中で自分を守ってくれる味方をつくり、それによって安心することを覚え、最後の町では、最終的にはすれ違ってしまうものの、好きといえる相手を見つけることができた。こうして、姉の成長を主軸に、弟の成長を裏のストーリーとして、それぞれ苦虫女と苦虫男だったところから、一歩成長しつつあるところで終わったところがすがすがしい。
細かいところで指摘すると、多分監督は昆虫のことを良く知らない。海から山に移動したとき、最初に聞こえたせみの声はツクツクホウシ、次がミンミンゼミ、そしてヒグラシになってアブラゼミだったけれど、これはおかしい。たとえそれが東北地方だったとしても、順番はミンミンゼミ・アブラゼミ→ツクツクホウシ→ヒグラシとなるはず。音は後から効果音として加えただけなんだろうが、もうちょっと良く考えた方が良かった。一見細かすぎることのようだが、この手の考証をしっかりやっておくことこそが本当に評価される作品への一歩だと思う。また、夏の海のシーン(カキ氷を食べているんだから当然7月、8月のはず)から山に移ったのに、なぜか桃の季節というのもおかしいと思う。
他にもちょっと説明不足かな、と思うシーンがいくつかあった。例えば罰金刑なのになぜ拘留されていたのかとか、不動産屋で弟を保証人にして、それがバレたというエピソードに何の意味があったのかとか(もちろん、弟の名前を書くこと自体には、本来両親のどちらかを書くべきところ、実は一番のよりどころが弟だった、という意味が含まれていたと思うのだが、それなら不動産屋からの電話は不要だ。あれは単に笑うだけの場面?)、彼氏はなぜ鈴子の貯金がまた100万円に近づきつつあることを理解したのかとか。ストーリーの大枠ではわかりやすかったが、弟に宛てた手紙なんかもわかりにくかったところの一つだと思う。きちんと見ていれば、「書くには書いたけれど、結局投函されず、弟には届いていなかった」ということがわかるが、そこまできちんと注意深く見ていた観客が果たしてどのくらいいたのか。このあたりは暗示的に表現するしかないのは確かなのだが、もうちょっと方法があっても良かったかも知れない。
ベンチが「100」になっていたりするお遊びもなかなか楽しい。ニンテンドーDS LITEあたりも狙い通り笑いを取っていた。ブスに向かって「ブス」の捨て台詞も笑えた。歩いている最中に弟と手をつなぐシーンと、彼と手をつなぐシーンの二つがきれいに対照されているのも雰囲気を良くしたと思う。こうした細かい対照というのは、姉も弟も三人組に苛められるとか、カキ氷の才能と桃をもぎる才能など、色々と配置されていた。
それにしても、「シャバダバダー・シャバダバ」が、「フッ、フーーーー」で終わらないのは、やっぱ、蒼井優さんがリアルタイムでちゃんと11PMを見ていなかったからなんだろう。あと、桃って皮を剥かないでも食べられるって知らなかった(笑)。あと、男が監督だったら、彼女を家に連れてきたシーン、彼女のことはとりあえず家の外で待たせていると思う。まぁ、別に良いんだけれど。
ということで、蒼井優の「いま」を上手に活かした作品で、非常に良い仕上がりだと思う。ということで、評価は☆2つ半。マイ・ブルーベリー・ナイツよりはこっちの方が断然お勧め。