2008年08月03日

戦場のピアニスト

戦場のピアニスト

タイトルから想像したのは戦地を慰問して回るピアニストの話(笑)。実際に観てみたら、ユダヤ系ポーランド人ピアニスト、ウワディスワフ・シュピルマンの半生を描いた伝記的映画で、全然違う(^^;

映画はナチス・ドイツのポーランド侵攻から始まる。激化する第二次世界大戦の中、徐々に迫害されていくユダヤ人達を描くのが映画の前半。そしてその戦争の中を家族と引き裂かれながらも周囲のユダヤ人、ポーランド人に助けられて生きながらえていく後半という構成。似たようなシチュエーションの似たような映画としてすぐに思いつく作品に「シンドラーのリスト」があるが、こちらは主人公をヒーロー的に扱うのではなく、なりふり構わず戦火をくぐり抜けていく非力なピアニストを淡々と描いている。同じスピルバーグ作品でも、どちらかといえば「太陽の帝国」の方がイメージが近い。

平和ボケした日本人がこういう映画を観ると、「家族を捨ててなぜ平気でいるのか」とか、「周りの人間が死を覚悟で戦っているのになぜ戦わずにいられるのか」などと思うかもしれないが、きれいごとではなく、ただただ自己の生に執着する人間を描ききっているところがこの映画の主張するリアリズムだと思う。

ノンフィクションでなければ「なぜピアニストなんだろう」と、主人公がピアニストであることの必然性を疑問に思うかも知れない。しかし、そこがノンフィクションの重み。そして、その設定からもたらされた「戦争」と「芸術」の対比が物語を引き締めている。特に中盤ではほとんどピアノ演奏のシーンがないのだけれど、唯一と言っても良いシーンが「ハッ」とするようなシチュエーションで、なんとも印象的である。映画ならではの演出で、「おいおい!」と突っ込みそうになった直後に「やられた」と思った。

戦争の現実を真正面から表現しているため、全編を通じて残酷なシーンが多い。このあたりは観る人を選ぶ映画だと思う。しかし、そのあたりさえ気にならないなら、最初から最後まで高いテンションで、一気に観ることができると思う。

原題は「PIANIST」。ほとんど全てのケースで「この邦題をつけるくらいなら原題のままで」と考えてしまうのだけれど、本作の邦題はなかなかナイス。冒頭に書いたような勘違いを誘発はしたのだけれど。

評価は☆3つ。

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