ところが、新聞とかで有識者が馬鹿を晒しているとさすがにスルーするわけにもいかず、こういう場でその馬鹿を笑わざるを得ない。今回のネタはこちらの「正論」。もう、「正論」というタイトルがついている時点で爆笑ものなのだが、一応きちんと引用しておく。
#というか、この手のサイトの記事はいつの間にか全文削除されてアクセスできなくなったりするので、注意が必要である。
【正論】動物行動学研究家・竹内久美子 大麻はタバコと同様に有害
≪海外旅行で覚える大学生≫
東京の名門私立大学の学生が相次いで乾燥大麻(マリフアナ)を売買していたことが発覚、逮捕された。さらに京都でも、やはり名門の私立大学の女子学生が自宅に大麻を所持していたとして逮捕されたニュースが…。
大学生、それも名門の大学の学生による大麻事件は(名門ゆえに報道されるという要素もあるだろうが)、驚くほど多い。大学生でなくとも若者の間では、少なくとも大麻への関心が非常に高い。
書店でも大麻関係の本がかなりのスペースを占め、実のところ大麻について学ぼうとして私は本選びに苦労したほどだ。
ちなみに大麻と覚醒(かくせい)剤は似ているようで、全然違う。
「大麻取締法違反容疑で〇〇を逮捕」「覚せい剤取締法違反容疑で××を逮捕」との報道があったとき、同じように悪いことをしたように感じてしまう。
しかし実際には、大麻がソフトドラッグであるのに対し、覚醒剤は「人間やめますか」レベルのハードドラッグで、両取締法の刑罰の部分には随分と違いがある。
ともあれ、大麻を巡る、特に若者たちの関心の背景として指摘できるのは、近年欧米でどんどん大麻解禁への動きが加速していることである。かの地を自由に旅行し、大麻を経験した若者が帰国。あの喜びをもう一度(大麻では幸福感が得られるらしい)、などと願うということだろう。
≪欧米では解禁の流れも≫
欧米で法律を改正し、大麻解禁(事実上の解禁)の先頭を切ったのはオランダで、何と1976年である。とはいえあくまで個人使用に限り、栽培も個人使用のためならいいが、大規模な栽培は許されていない。
他のヨーロッパ諸国も概(おおむ)ね事情は同じで、事実上の解禁順に見ていくと(数字は解禁した年)
ドイツ 1994
フランス 1999
ポルトガル 2001
ベルギー 2003
カナダ 2003
ロシア 2004
イギリス 2004
その他、スペイン、スイス、ニュージーランド、オーストラリアで個人使用が認められているか、認められる方向への動きがある。
アメリカではアラスカ、オレゴン、カリフォルニア、ネバダ、ニューヨークなど12の州で、医療用の大麻が解禁されていて、しかも大麻の個人使用が犯罪にはほぼならないという状況にある(データは『大麻大百科』、大麻研究会著、株式会社データハウスによる)。
こうした続々の解禁。それは1995年にイギリスの医学雑誌『ランセット』に発表された、30年にわたる調査で、大麻を長期使用しても健康に問題はないとの見解が示されたことが一番大きいだろう。『ランセット』は、『ネイチャー』に匹敵するくらい格式の高い医学雑誌である。
≪発がん性タールと依存症≫
ところが、だ。その後、大麻には依存性があることがわかってきた。使用経験者の9%が依存症に陥っていて、アルコールの場合の15%、タバコの場合の32%ほどではないものの弊害がある。
そしてもっと悪いことに、大麻のタールにはタバコと同じ発がん物質、ベンツピレンやベンズアントラセンが含まれている。
その量がどれほどかについて前掲書によれば、「マリフアナ・ユーザーが1日に喫煙するマリフアナのジョイントの数は平均3−4本程度である。しかし、マリフアナが肺に送り込むタールの量はタバコの4−5倍にも達するので、毎日20本の紙巻きタバコを喫煙しているのと同じこと」だという(ジョイントとは大麻をシガレットペーパーなどで巻いたもの)。
ここで言うタバコが、どの程度タールがきついものかはわからない。
しかしほかでもない、大麻を愛する大麻研究会の人々が警告のための例とするくらいである。そこそこヘビーなタバコではないだろうか。大麻による健康被害は、少なくともタバコと同程度と見なすことができるのだ。
タバコの喫煙者は非喫煙者と比べ、肺がんだけでなく、ほとんどのがんのリスクが高く、心臓病、脳卒中などについても同様だ。タバコは百害あって一利なし、と言っていい代物で、テレビCMなどは今やただのマナー広告しか行っていない。
タバコがもし、日本人にとって未体験の品だったとして、しかも健康への影響がこんなにもはっきりわかっているとする。政府は解禁するだろうか。おそらくしない。となれば大麻も解禁すべきではないだろう。何でも欧米に倣えばいいというものではないのだ。(たけうち くみこ)
さて、この記事のどこが馬鹿なのかって、そんなことわざわざ解説する必要すらないと思うのだが、全文引用を読むのが面倒くさい人のためにサマリーを書きつつ解説してみる。まず、要約。
若者の間では、少なくとも大麻への関心が非常に高い。
大麻がソフトドラッグであるのに対し、覚醒剤は「人間やめますか」レベルのハードドラッグ
欧米では大麻解禁への動きが主流である。
1995年にイギリスの医学雑誌『ランセット』において、大麻を長期使用しても健康に問題はないとの見解が示された
大麻使用経験者の9%が依存症に陥っていて、アルコールの場合の15%、タバコの場合の32%ほどではないものの弊害がある。
大麻のタールにはタバコと同じ発がん物質が含まれている。
大麻による健康被害は、少なくともタバコと同程度と見なすことができる。
タバコがもし、日本人にとって未体験の品だったとして、しかも健康への影響がこんなにもはっきりわかっているとする。政府は解禁するだろうか。おそらくしない。となれば大麻も解禁すべきではないだろう。
つまり、「大麻は海外で解禁される動きがあり、その影響もあってか若者の関心が高まっている。大麻は健康に影響がないと英国医学誌に発表されたが、その後悪影響があることがわかってきた。アルコールやタバコほどではないものの、依存性があるし、タバコと同程度の健康被害がある。したがって、大麻は解禁すべきではない」ということなのだが、この論旨からすると結論として存在すべきは、
1.タバコと同程度、あるいはそれ以下の害しかないのだから、タバコ同様大麻も解禁すべきだ。
2.大麻が禁止されているのだから、それ以上に害のあるタバコも禁止すべきだ。
の二つしか考えられない。ところが、タバコは害があるけれどスルー。その上で、タバコより害のない(あるいは同程度の害がある)大麻は解禁すべきではない、となっていて、「おいおい、お前は自分が馬鹿であることを一所懸命訴えようとしているのか」という感じである。これが正論だと主張する産経新聞というメディアも相当馬鹿だ。大丈夫かなぁ。いや、大丈夫なわけがない(笑)。
念のため書いておきますが、僕はタバコを吸ったこともないし、大麻をやったこともないです。大麻が解禁になるのでも、タバコが禁止されるのでも、どちらでも構わないのですが、どちらかといえばタバコが禁止される方が歓迎です。ま、そういうスタンスと、論理が破綻していることは全然関係ないのですが。