以前、僕も参加していたオールアバウトプロファイル(以下、AAP)、先日サイトがリニューアルしたのだが、この内容が酷い。正直なところ、「去年やめておいて良かった」と思う性質のものである。
AAPでのコラム執筆は終了したのだが、その際、下記のエントリーをアップしていた。
オールアバウト
このエントリーの中で「理由は色々あるのですが、それはまた後日書くとして」と書いておきながら放置していたので、この機会にそれを含めて書いておきたいと思う。
AAPというサイト、まず書いておく必要があることは、このサイトはあくまでも専門家モールの場所貸しをしているに過ぎないということである。場所代は出展者が支払う。つまり、僕はお金を払ってオールアバウトに記事を書いていたわけである。オールアバウトの方はどういう仕組みになっているのか知らないが(でも、ラーメンの専門家や、フレンチの専門家には知人がいるので、調べようと思えばすぐに調べられるが)、「プロファイル」という言葉がついた時点で、「オールアバウトが専門家に依頼して書いてもらっている」サイトではなく、「オールアバウトが見つけてきた自称専門家がオールアバウトに場所を借りて書かせてもらっている」サイトなのである。自称専門家はオールアバウトにとってはお客様だから、当然その「専門家」という定義はあいまいでもあり、ハードルは低く設定されている(と思う)。何しろ自分で「俺は専門家だ」と言ってきて、お金を払うと言っているのなら、オールアバウトとしては断る理由は何もないはずだ。さすがに詐欺集団ではない、といった一定の審査基準はあるのかもしれないが、そうした社会通念的なブランド破壊が行われないなら、ウェブ会社の経営者というだけで「ウェブ制作の専門家」として迎え入れることに何のハードルもないはずである。唯一のハードルは「お金を払えるかどうか」である。
ここでひとつ注釈を記述するが、「自称専門家」というといかにも似非専門家という感じの語感である。しかし、実際はそうではない。「俺は専門家だ」と言い切る人間には二つのタイプがある。一つ目は自分の仕事にプライドを持ち、自分を専門家と言い切ることに責任を持ち、そして他者からの批判にも耐える自信を持っている本当の意味での専門家である。「そんな専門家なら場所なんか借りなくても自然と名声は高まるのではないか」という考え方は間違いで、それを否定してしまったら世の中の広告というものは一切必要がなくなる。良いものを、埋もれさせないためにはそれなりの投資が必要になる。だから、AAPという場を通じて自らのプロモーションを実施すること自体は至って普通のことである。さて、二つ目の専門家であるが、こちらは「『本当の意味での専門家』ではない、その他の専門家」である。普通に「自称専門家」といってしまうと、背後に「自分では専門家と言っているが、他者からは認めてもらっていない人」という意味を含むので、何の注釈もなければ全部こちらなのではないかと思われてしまうかもしれない。僕が言いたいことは、「零細企業の専門家達は、どこかのタイミングでまず「自称」専門家として名乗りを上げる必要がある」ということだ。たとえば僕は1990年代に「ラーメン四天王」としてラーメンの評論を展開したわけだが、このときの一番最初の企画書は僕が作ったものである。「大崎、北島、大村、元木の4人はインターネットラーメン四天王を名乗るにふさわしい」という内容の企画書をラーメン博物館を経由させて出版社に持ち込んだのが最初だ。このときは文字通り、「自称専門家」だったわけである。基本的にほとんどの専門家は最初は自称専門家である。専門家が自分で専門家を名乗ること自体は何の問題もない。
さて、そんな「自称専門家」の集合体であるAAPだが、本当に専門家なのか、それとも似非専門家なのか、というのは当然見分けが付く。見分けは付くのだが、見分けるにはそれなりに知識が必要だ。少なくとも、本当の専門家から見れば、それが本当の専門家なのか、似非専門家なのかはすぐにわかる。山の上から見下ろせば他の山の高さがはっきりと比較できるのと一緒である。ところが、平野にいる人間から見ると、あちこちにある山の高さがどの程度なのかはさっぱりわからない。だから、一般の閲覧者もそこに集まっている自称専門家の中で、誰が本当の専門家なのかを見分けるのはなかなか難しいと思う。それでも何らかの手法によって専門家を抽出する必要があるわけで、そのための判断基準や判断ツールが必要になってくる。オールアバウト社は閲覧者に対してその見分けをほぼ丸投げしているのだが、一応参考資料として「更新順」「人気順」「評価順」という3つの視点からのソート機能を提供している。更新順というのは更新した人が偉い、まめな人が偉い、という判断基準なので、専門家選びには全く役に立たない。人気順というのはアクセス数なので、ある程度は信憑性があるが、オールアバウトが恣意的に「注目の専門家」などとトップページで取り上げたりすればアクセスが増えてしまうので、全幅の信頼は寄せられない。人気順というのは記事に対する投票で決まるのでいかにも役に立ちそうだが、実際には組織票が可能なので、全く役に立たない。社員がたくさんいる会社を代表して記述している専門家なら、社員に「毎朝投票しろ」というだけで簡単に上位になることができる。閲覧者に与えられているツールはどれひとつとして「本当の専門家を選び出すためのツール」としては機能しない。
さて、このあたりの仕組みと、自称専門家集団というサイトの性質、この二つが絡み合って、結果として「本当の専門家にとっては居心地の悪いサイト」になっているのが今のAAPである。
ここから先はあくまでも外野から見たオールアバウトの現状分析である。だから、その内実をきちんと指摘しているかどうかは定かではない。「どうせこんなことなんだろうなぁ」ということだ。その点、理解したうえで読み進んで欲しい。
AAPには色々なレベルの専門家がいるのだが、僕は比較的初期からここに参加したため、数人の「本当の専門家」を見つけることに成功した。当時は本当の専門家を見つけやすかったということもある。なぜなら、「専門家の皆さん、集まってください」とぶちあげた時点で、感度の良い専門家はすぐに集まるし、その専門家はすぐに周囲の専門家に声をかけるので、あっというまにコロニーが形成され、専門家達はそのほとんどが発掘されてしまう。だから、立ち上げ当初のAAPの専門家集団は「本当の専門家」の密度が高かった。ところが、オールアバウトも公開企業である。彼らにとってはお金を払ってくれるお客様が多いほうが良いわけで、ではそのお客様は誰かといえば閲覧者ではなく出展してくれる専門家である。株主達は「折角サイトがあるんだからどんどんお客を増やせ」と要求する。となれば必然的に「専門家」の要件は少なくなり、専門家と自称するハードルは下がる。極端な話、要件なんかなくても良いのだ。「お金を払うなら誰でもどうぞ」でも良い。そして、営業部隊は物凄い勢いでじゅうたん爆撃をしかけ、どんどん出展させるように頑張る。
僕がAAPを辞めたのは、ちょうどこの頃である。専門家集団における専門家密度がどんどん薄くなっていることを感じ、AAPのブランド力が低下してきたことを感じたわけだ。ブランド力というのは、基本的に必ず低下するものである。ブランドはどんなに努力しても必ず大衆化し、結果として低下することを避けられない。ヴィトンのバッグだろうがティファニーの指輪だろうが、初期に獲得したブランド力というのは徐々に低下し、いつの間にか女子高生がそれらを持ち歩いたりするようになる。こうしたとき、それがバッグや指輪なら、購入されてしまった時点でもうどうにもならない。しかし、「元木一朗」という専門家はものを考える力があるし、そこに陳列されることを拒否することもできる。だから、僕はブランド力の低下したAAPにおいて、専門家密度の薄くなりつつある専門家集団から抜けることにしたわけだ。もちろん、サイトの意義が消滅したわけではない。あくまでも僕は費用対効果に見合わないと思ったから辞めたわけだし、僕が親しくしている、あるいは本当の専門家と評価している数人の専門家たちは今でも出展を続けている。そうした判断は正しいとか間違っているとか評価できる性質のものではなく、人それぞれである、ということである。
AAPはつい最近リニューアルを実施した。このリニューアルについての評価を、出展者の一人であるウジトモコさんが的確に書いているのがなかなか面白い。
フレームワークでWEBのデザインリニューアルを考える
ウジさんは非常にマイルドな人なので書きっぷりもマイルド。「文句を言っているわけではありません」として要望を書いている。では、僕がユーザーとして文句口調で書いてみよう。
1.異常に使いづらくて話になりません。頼むからもっと使いやすくしてくれ。
2.もっさりでイライラする。
3.複雑すぎてどこがどうなっているのかさっぱりわからない。閲覧を拒否しているとしか思えない。
4.だいたい、このサイトの特色って何よ。専門家の数が増えすぎちゃって何がなんだかわかんないし。
5.ここでしか得られないものってものが見当たらない。詰まんないサイト。
6.なんか、変なデザインだよね。何これ(笑)。デザイン、ウジさんに頼めよ(爆)。折角専門家を抱えているのに、意味不明。
7.目的とする情報にいつまで経っても到達できないんですけど。どんだけ?って、鈍なだけ(笑)?
8.動作だけじゃなくて、見た目ももっさりだよね。
9.移行にあたって、ちゃんと新旧比較表を作って全部シューティングしたの?バグが多すぎない?
10.結局、出展者が増えれば良いだけのサイトだよね。
ほとんどこれだけで言い尽くされている気がするのだが、どうなんだろう。ついでにもうちょっと「こうなった原因」について考えてみる。
(似非)専門家と本当の専門家では放って置けば本当の専門家へのアクセスが集中する。これは当たり前だ。ところがそれでは(似非)専門家の不満が高まる。そして、その(似非)専門家は増える一方である。収益のマジョリティは(似非)専門家の出費によって支えられる構造に変化しつつあるので、それに対応するために、アクセスが集まらない(似非)専門家へのアクセス確保のための工夫を講ずる必要が出てくる。結果として、「専門家にすばやく到達したい閲覧者」のユーザビリティは著しく低下する。でも、それは当然。お金を払っているのは閲覧者ではなく、出展者だからだ。こうしたもろもろを盛り込んだ上でイマイチ詰めの甘い技術者がサイトのリニューアルをしたために、誰からも不満が出るリニューアルが実施されてしまったのではないか。
つまり、ビジネスモデルの根幹に構造的な問題があるのである。
お金を払っているのが閲覧者ではなく出展者であり、そして出展者は専門家のレベルに関係なく多分均一のお金を払っている以上、それらになるべく平等なサービスを提供せざるを得ない。通常、専門家のレベルが高くなれば高くなるほど構成人数が減少するので、オールアバウトにとってサービスを重視すべきは
レベルの低い多数の専門家 > レベルの高い少数の専門家 > 閲覧者
となってしまうわけだ。これでは本来アクセスを稼ぐべきレベルの高い専門家はどんどん流出してしまう。少なくとも僕は本当の専門家、および閲覧者を軽視する姿勢が嫌でAAPをやめることにした。オールアバウト社としては、抜群に高い自社のSEO効果を利用して何か美味しい商売ができないか、と考えたのだろうが、結果としてすでにこのビジネスモデルは破綻しつつあると思っている。
ここで僕が考えることは、「AAPというブランドはすでに失われつつある。それなら、別のブランドを立ち上げたらどうか」ということだ。今、僕は新しいウェブサービス、「もっとアバウト」(もちろん仮称)の展開を考えつつある。そのシステムの根幹となるものは、「役に立つ記事」の抽出方法の独自性である。記事をアップした日時でも、閲覧者のアクセス数でも、閲覧者の投票によるものでもない、別のある手法による重要度評価を試行中だ。別にオールアバウトに喧嘩を売るわけではない。彼らがAAPの別ブランドとして一緒にやりましょう、と言ってくるならそれを拒否する気は全くない。「じゃぁ、僕達が考えるシステムを導入して新しいブランドを立ち上げましょう」ということでも全然構わない。あるいは、彼らがあくまでも自社の「オールアバウトプロファイル」というブランドにこだわるというのなら、「じゃぁ、僕達はこちらで勝手にやります。共存共栄でお互い楽しくやりましょう」というだけのことである。
ついでに言うと、オールアバウトのSEO効果を利用した別のビジネスプランもないことはない。正直、オールアバウトプロファイルなんかよりもずっと儲かると「僕は」思っている。もちろんそれをここで書いてしまうようなお人よしではないのだけれど(笑)、その気があるならいつでも恵比寿でディスカッションをする気がある。
でもまぁ、一度はじめてしまったらなかなか後戻りできないのが大きな会社の弱点。多分大幅な方向転換は難しいのだろう。今思うのは、「あのときオールアバウトを辞めておいて良かったなぁ」ということである。