僕が応援している数少ない(笑)将棋棋士のひとり、渡辺竜王のブログから。
まず面白かったのがこちらの記事。
ようやく。
竜王が息子の柊君に将棋を教えているときの一こま。柊君は与えられた詰め将棋の問題に苦労しているようなのですが、竜王が気がついたのは、「単純化されていれば解けるのに、ほとんど似たような問題でも選択肢が増えて複雑化していると解くのが難しくなる」ということ。この記事においては対象は柊君という子供なわけですが、これは人間が直面する問題についてほぼ全般的に言えること。解決する方策として考えられるものが多ければ多いほど、検討は難しくなる。だからこそ、ものごとはなるべく簡単に、なるべく単純化して考えなくてはならないのだけれど、実は問題を解決することそのものよりも、物事を単純化することが難しい。
僕が人に「人に上手に説明できません。どうしたら良いでしょうか」と質問されるときに答えるのは、大体次のようなことだ。
「難しいことを難しく伝えるのはほとんどの大学教授がやっていることです。数学が好きで大学に入ったのに、イプシロンデルタで挫折するのを何人も見てきました。簡単なことを簡単に伝える。これは本当は簡単なはずですが、実際は難しかったりする場面もあります。そのまま伝えれば良いのに、自分の持っている下手な知識などを追加してしまったりするので、かえってわかりにくくなったりします。簡単なことを難しく伝える。これは政治家が良くやる奴ですが、一番筋悪です。ただ、故意にこれをやる人がいるのは困ったものです。そして、一番大事なのが難しいことを簡単に伝えること。そのコツは、まず初心者の視点を常に持つこと。知識が増えてくると知らず知らずのうちに初心者の視点は失われてきますから、常に初心者の人がどう考えるのかという情報を仕入れておく必要があります。何かの資料をプレゼンするなら、まず身内の初心者に見せてみるというのが良いでしょう。そして、その意見を聞いてみて、初心者の視点を持つことができたら、次はなるべく単純化することです。文字が一杯のパワーポイントはダメ。一行、二行で済むならそれがベストです。余計な寄り道をせず、ストレートに目的地に誘導してください。ただし、比喩を使うのは寄り道ではありません。適切な比喩は思考を助けます。初心者でもわかりやすい例を使って説明してあげてください。その比喩はパワーポイントに書いても良いのですが、「頭の中」でイメージを膨らませる意味で、口頭で使うだけのほうが効果があるような気がします。頭を使わないと、すぐに忘れてしまいますし、画像の方が頭に残るので、比喩の画像ばかりが頭に残って、「結局なんだっけ?」ということになりかねません。比喩はあとで復習するときに頭の中で使う必要があるので、実体化させないほうが良いと思っています」
#先日、ウェブサイトとSNSの違いを説明したときは、「ウェブサイトはピッチング練習。ピッチャーがいて、とにかく球を投げ続けている。観客がいるかどうかもわからないから、やっていてつまらない。SNSはキャッチボール。グラウンドに皆を連れ出して、それぞれの場所でキャッチボールをしている。その中にグループができれば試合をやることもあるし、凄いピッチャーがいればそのピッチングを皆で見ることもある」みたいな比喩を使った。
別に普通のことなんだけれど、実例が目の前にないと理解しにくかったりする。上で紹介した渡辺竜王の柊君の例などは、「人間は単純化しないと考えがまとまりにくくなる」という好例だと思う。
さて、渡辺竜王のブログには柊君の後日談が載っている。
ここ数日。
今度は竜王、柊君に「駒の大切さの違い」を説明しようとして、困っているらしい。確かに「得」を説明するのは難しいかもしれない。そこで登場するのが「比喩」である。
「駒には美味しさがあるんだよ。金はチョコレート。歩はピーマン。ピーマンよりもチョコレートのほうが良いでしょ?だから、金と歩、両方もらえるときは金をもらった方が嬉しいんだよ」
ぐらいに、子供の視点に立って説明したらどうかと思う。