ディア・ドクターが非常に面白かったので、西川美和監督の前作、「ゆれる」をツタヤで借りてきて観てみた。いや、面白い。
ガラス(アクリル含む)の透過や反射、それと音声のフェイドアウトやカットアウトを非常に巧妙に積み重ねていく映像が印象的。面会のシーンで心の揺れにシンクロさせてカメラが揺れるのも面白かった。
ガラスに映る、本来は見えない角度の表情。ガラスに反射するテレビの映像。アクリルによって分断された二つの空間。本来は見ることが出来ないはずの二つの場面を重層的に見せていく。これを何度も何度も繰り返していくのが、この映画で試されたひとつの表現方法だった。
正直で実直な兄が、ほんのちょっと見せる嘘がこれまた印象的。また、それをしつこく説明せずに、「観ていたんだからわかるでしょう?」という感じで突き放すところがなかなか気持ち良い。このあたりが饒舌すぎて説明的過ぎた「重力ピエロ」と対照的。
ラストの処理の仕方はディア・ドクターそっくり。というか、ディア・ドクターでも同じ手法を取ったんだと思うけれど、これが西川スタイルということか。で、このスタイルが、非常に好き。
ただ、正直に書くけれど、どうして弟が法廷で最後にああいう証言をしたのか、そのあたりは今でもちょっと良くわからない。自分の作品が机に並んでいるのを見て、「重たいな」と感じて逃げ出した自分のことを根掘り葉掘り探られるのが嫌だったのか。兄の気持ちを知っていながら、その相手と寝てしまったことを明示されるのが嫌だったのか。あるいは、面会で兄にズバリと言い放たれたことに腹が立ったのか。
やばいと思って橋に走って行っているんだから、弟は問題の場面を遠くから見ていたはず。それに、「悲鳴が聞こえた」と証言していたけれど、弁護士の調査のシーンでそれが嘘だということは裏付けられているから、あの場面での証言は嘘(あるいは思い込み)。でも、嘘にしちゃぁ、ぶち切れ方が酷いし、結果も酷い。もしかして、弟は肝心の場面を見ていなかったのかな?
まぁ、世の中全て説明がつくわけではないので、行動の理由も全てが論理的である必要はないのだけれど、この部分は「観る側にお任せします」などとせず、制作サイドから種明かしして欲しいところ。
オダギリジョー、香川照之の演技も非常に良かった。
何しろ、最後の最後までラストのまとめ方が想像できず、「一体どうなるんだろう」と思わせながら引っ張ってしまうのが凄い。そして、観終わってすっきり。これは借りてきて観ないともったいない。☆3つ。