本にはどうしたって相性というものがある。たとえば僕は村上春樹は好きだけど、村上龍はそれほど好きじゃない。それほど好きじゃないけれど、コインロッカー・ベイビーズとか、69 sixty nineとかは好きで、五分後の世界とかも一応読んだ。山田詠美とかもそれほど好きじゃないけれど、でも蝶々の纏足とかは凄く面白いと思うし、要は、なかなか説明が難しいのだけれど、好きなものと嫌いなものというのは明確にあるよね、ということで、ミステリーといわれる分野では宮部みゆきならほとんどオッケーだけれど、東野圭吾だと当たりはずれがあって、じゃぁ、伊坂幸太郎だとどうなんだ、ということである。
ところが、僕は彼の本をほとんど読んだことがない。このミスとかの評価を読んでいてもどうもピンと来ない。ま、このまま一生読まないかも知れないなぁ、と思ってスルーしまくっていたのだけれど、ちょっとした理由で「ゴールデンスランバー」を読んでみることにした。なぜって、この小説の映画化が決まって、主演が堺雅人になったからだ。他にも、主要な出演者を見てみると、吉岡秀隆、貫地谷しほり、香川照之ってな感じで、あぁー、ちょっと観てみたいかなぁ、というメンツ。なので、今のうちに読んでおこう、と思って買ってみたわけである。
さて、読んでみて。うーーーーん、やはりこのミスのレビューから感じていた気配は当たらずも遠からず。やっぱり、どうもいまひとつ趣味じゃない。どこが趣味じゃないかというと、内容云々よりも、文章。って、文章についてはこのミスのレビューからは感じ取れないんだけど(笑)、なんか、読みにくい。リズムが悪い。しかも、ところどころ最近の朝日新聞の記者がやらかすような日本語の間違いがある。
いや、たとえばこんな事例もあるわけで、最近はどこででも見つかるんだけど(笑)
武断は憩いの場も…遺体発見現場は人通りまばら
とりあえずこの誤植は画像を保存しておこう。
さて、閑話休題。何しろ、ちょっと日本語が上手じゃない。このあたり、宮部みゆきとか東野圭吾とかは絶対にやらかさないことをやっているので、どうも乗り切れない。ま、こういう文法的なミスや、リズムの悪さというのは、感性の部分もあるので、気にならない人は気にならないんだろうけれど、僕は気になるタイプの人間なので、読んでいてちょっと辛い。
続いて、構成。現在と過去を行ったり来たりして、そのときそのときの主体が色々変わるのだけれど、それが特別な効果を生み出していないのがなんとも言えず気持ち悪い。なかには作者が意図したとおりの効果を出している部分もあると思うのだけれど、しつこいぐらいに切り貼りされモンタージュのようになった構成からは、その必然性が読み取れない。もっと普通にわかりやすく本にすれば良いのに、と思わないでもない。単に分量だけを考えてみても、ちょっとアンバランスすぎる。というか、これはもう全体的な構成、たとえば5部構成の中で4部だけ異常に長いとか、そういうアンバランスな部分に違和感を感じるかどうか、というところなんだと思う。僕はわりと形式を重視するタイプ、原理原則の人間なので、このあたりがまたちょっと厳しいな、と感じてしまう。いや、「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド 」みたいな、必然性があって、きちんと効果のある切り貼り構成なら良いんだけれど。
最後に内容。これまたどうも濃淡が激しいというか、なんというか。折角の伏線があっさりと無駄遣いされてしまったり、あるいはあるところでは非常にマメな警察があるところでは全然いい加減だったりして、たとえばラスト50ページぐらいのマンホールのエピソード。樋口晴子はどうしてそんな簡単に動き回れるのか、みたいなところが「はぁ?」という感じだし、あるいは事件の真相に滅茶苦茶近いところにいる人物を病院送りにしておきながら、その人が回復してべらべら喋りまくるのを何も規制せず、しかもそこにテレビ局も取材に来ない、みたいな、「それはちょっとおかしいでしょう」という、練りこみ不足があちらこちらに見受けられる。
なんというのかな、色々な面で荒削りで、面白いといえば面白いのかも知れないけれど、僕の趣味ではない本でした。評価は☆1つ。