プロレス版「あしたのジョー」である。
主人公はほぼ天涯孤独で、リングの中にだけ居場所を確保できる男、ランディ。このあたりがあしたのジョーそのまま。ただ、本作の主人公は相当に年配。ここは違う。舞台は主人公が最も輝いていた時代から20年後。日本でも、「この人、まだレスリングをやっているんだ」と驚くことがあるけれど、米国でも同じようだ。そうしたショープロレスを舞台にした、男の生き様を見せてくれる。
最初のうちは、プロレスの舞台裏を描いていく。見せる側と、観る側で、暗黙の了解、あうんの呼吸があるのがプロレスの世界。その内幕をあるときは面白おかしく、あるときは切なさを交え、生々しく見せていく。プロレスファンなら当たり前のことをきちんと描いているから、ファンなら最初から、ファンじゃなくても、その自虐的なおかしさに思わず苦笑してしまうだろう。その、苦い笑いがなんとも言えず良い感じ。このパートのテンポが良いのも大きい。
そして、主人公の引退。ハードな試合で徐々に蝕まれてきたからだがとうとう悲鳴を上げてしまう。リングから降りて始まる慣れない生活。それでも、徐々にうまくまわり始めるそれぞれの歯車。このエピソードも変に冗長でなく、適度な密度で見せてくれる。娘とのエピソード、そして恋愛。ところが、折角うまくまわり始めた歯車が徐々にきしみ、壊れていく。
どうせこうなるんだろうな、と思っていたラストのエピソード。結局リングでしか生きられず、リングに死に場所を求めるしかない不器用な男。駆けつける白木葉子、じゃないや、ヒロイン。「リングには世界一の男、ホセ・メンドーサがおれを待っているんだ。だから…いかなくっちゃ」と言ったのか、言わなかったのか、そのあたりは観てのお楽しみ。
プロレスと言えば、いつも話題になるのが「どこまでがシナリオで、どこからがシナリオじゃないの?」ということ。つい先日もプロレスファンの友達とこの話をした。ハッスルはどう、新日はどう、ノアはどう、全日はどう、とそれぞれに特色を教えてもらった。しかし、この映画を観ると、シナリオがあってもなくても、あんまり関係ないんじゃないかと思えてくる。プロレスのリングに必要なのは、観客を喜ばせること。そして、そのために自分の体を鍛え、傷つけていく。この映画は、そうした男たちの生々しい現実と悲哀、友情を上手に描いている。
以下、超ネタバレは追記に。評価は☆3つ。