2009年07月19日

ハゲタカ

c3879284.jpgツタヤがアシストしているので、ビデオでドラマシリーズを全作チェックしてから鑑賞。以下、ややネタバレ気味の感想。

結論から書いてしまえば、ドラマのほうが面白かった。

逆に言うと、こういうストーリーだったら映画だとこれが限界ということかな、と思ったのだけれど、よーく考えてみるとそうでもないと思う。なぜなら、テレビ版出演者に便宜を図ったストーリー展開があちこちに見えたから。その部分をばっさりカットできるなら、もっと全然違う、深みのある映画にできたと思う。それができないところが、今のテレビ局主導の日本の映画界の厳しいところなんじゃないだろうか。大分前に観たクロサギとかも「なんで堀北真希が必要なの?」と何度も思ったけれど、テレビのCMでアピールするために堀北が必要だったということで、要は客寄せパンダ。この映画にも、そういう必然性のないキャラがあちこちに登場する。確かに、栗山千明がいなくなってしまったら、この映画の登場人物は男ばかり。でも、栗山千明が出てくる必然性はほとんどない。「画面が男ばかりになってしまう」という部分以外では。松田龍平にしても同じ。ドラマ版では重要な役割を果たしたけれど、日本対中国の経済戦争に、旅館の主の出番は全くない。それを無理やりつくりあげてしまわなくてはならないところがなんとも残念。そして、こういった余計なストーリーのおかげで、肝心の部分が中途半端になってしまっている。

また、経済問題を扱った映画ならでは、ということなのかもしれないが、時事ねたを盛り込んだことによって一層発散したストーリーになってしまったのも残念。映画を作っている最中に派遣村とか、サブプライムとか、一般の注目を集めるような問題が起きてしまったのは不幸と言えば不幸だけれど、それを全く消化しきれていない。とりあえず詰め込みました、みたいな感じで、散漫な印象を受けてしまう。こういう扱いしかできないなら、無理にストーリーに盛り込んでいく必要はなかったのではないか。

何しろ、最大の問題点は、日本対中国の経済戦争という非常に大きなテーマにもかかわらず、そこで繰り広げられるのが自動車会社のTOBだけ、というところ。オイルマネーの使い方で多少の工夫は見られたものの、やっていることは基本的に資金をどう調達するか、というところだけになってしまっていて、そんな簡単なものじゃないでしょう、という感じ。そもそも、中国側には自動車会社を手に入れる必要性があったのだが、鷲津が自動車会社を守ろうと思った、そのモチベーションはなんだったのか。「ホワイトナイトになってくれ」「・・・・わかりました」「さすが判断がはやい」みたいな展開は無理やり過ぎる印象を受ける。鷲津のこれまでの行動パターンからすれば、ホワイトナイトになるならなるで、それなりのきちんとした動機と、その後の会社の処理方法があってしかるべきなのだけれど、それが全く提示されない。ラストで芝野と手を組んで再建にあたる、というのならまだ話はわかるが、中国に旅行に行ってしまうのでは「はぁ」という感じだ。

敵である中国のファンドマネージャー、劉もやや微妙な設定。「お前は誰なんだ」と言われただけで泣きべそをかいてしまうような人物が5兆円の買収の尖兵になれるとも思えない。お金は背後に潤沢にあるのだし、単なる泣き虫の使いっ走りになってしまっている。唯一工夫して頑張ったのは派遣工を煽った部分だけれど、それにしても手法も稚拙だし、効果もいまいち。「金を大切にしろ」というメッセージだけは残したものの、だから何?という感じもする。挙句、「金のある悲劇」だったのか、通り魔的に殺されてしまっては情けないを通り越して気の毒ですらある。この脚本を書いたのは一体誰だ?って、林宏司さんですね。テレビ版と一緒じゃないですか。それでこれかぁ。うーーーーん。

正直なところ、「ハゲタカ」という映画ではなく、「ハゲタカII」というドラマシリーズを作った方が良かったと思う。映画館の馬鹿でかいスクリーンにはなかなかフィットしない題材だし、2時間という制約も小さくない。4話完結4時間ぐらいのドラマに仕上げれば、印象は全然違ったものになったと思う。

冒頭で鷲津が「日本は腐りきっている」とばっさり切り捨てたところまでは格好良かったのだけれど、威勢が良かったのはそこまで。資本主義の原理原則やそこに生きることの厳しさ、そして、そうした中においても忘れてはいけないこと、こういうものが散りばめられていたドラマ版に比較して、ほとんど何も描かれていない印象を受けた。挙句、「アメリカを買い叩く」って、その前に腐りきっている日本をまず何とかしなくちゃでしょ、あんた、映画の最初に言ったじゃん、それから日本は全然変わってないんですよ、と言いたい。

一番面白かったのは、ラストでお決まりの「映画に登場したものは実在のものとなんら関係ありません」みたいな奴。「中国」って思いっきり出しておいてそれはないだろう、みたいな(笑)。

ちなみに細かい人間関係など、映画では一切説明されないので、映画を観るにあたってはテレビ版を予習しておくことが必須です。

評価は☆1つ。

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