大体野田秀樹さんの演劇は二度観ることにしているわけで、ダイバーももう一度観てきた。前回の感想はこちら。
野田秀樹 芸術監督就任記念 プログラム 『ザ・ダイバー』
今回は前から二列目の中央ということで、前回とは違った観方ができると思っていたのだけれど、予想どおり。冒頭の野田秀樹の動きからして、前回とは全く違う。体が上に吊り上げられるような細かい動きは、前のほうに陣取らないとわからない。でも、前から二列目だといきなり「凄い」という感じ。全編を通して、大竹しのぶさんが実はものすごく細かい表情を使い分けていたのも印象的だった。渡辺いっけいさんの力技が舞台後ろまで満遍なく届く一方で細かい出し入れ感覚がないのと対照的に、大竹さんの演技は前じゃないと満喫できない。もちろん、後方の座席でもそれなりに楽しめるけれど、これはやっぱり前のほうじゃないと。
英語版も含めればこれで都合4回目の鑑賞なので、さすがに色々と細かいところにも気づかされるし、その一方で「ここはあんまりこだわらずにスルーで」というところもあって、おかげで上映時間中たっぷり野田ワールドを満喫できた。
事前の劇評では「死刑制度がどうのこうの」などという話があったけれど、死刑制度の是非とか、この舞台では全然焦点が当たってないと思う。そんなことはないのかなぁ。この舞台で表現されているのは、ただただ、男に振り回された女の怨念と、その結果子供二人(四人)を殺すことになってしまった苦悩、そしてそれに対するほんのちょっとの救済じゃないのかなぁ。
冒頭、山中が精神科医に「あなたは私の子供」というところで始まり、そしてラストでは佐々木の妻にとりつくことが出来なかった怨念が精神科医に行き着く。怨念によって精神科医は山中の母体に回帰し、そして不倫相手が指示するままに堕胎せざるを得なかった悲しみを精神科医に見せ付けるところで幕になる。
その間、4人しかいないとは思えないような舞台が多重的に繰り広げられる。センス、椅子、赤と白の薄布にこれまた多重的な意味を持たせ、観る人の想像力を刺激するのもいつもの野田風味。ただ椅子を重ねているだけなのにちゃんとテレビに見えてくるし、センスを口にしているのにピザに見える。このあたりがロンドンから帰ってきたあとの野田秀樹の真骨頂であり、また、野田秀樹色でもある。それを満喫できる素晴らしい舞台だった。前回見たときは初日ということもあってややばらけた部分もあったのだけれど、今回は全体の調和を図ろうとする野田さん、本能的な演技で感情をこれでもかと表現する大竹さんのメイン二人がとにかく素晴らしかった。常にハイテンションで走り回る渡辺さんは近くで見ていると本当に暑苦しいだけなのだけれど、そういう演出で、観る側にそういう感じをちゃんと与えるところがまた良い。それと対を成すようにして配置された北村さんも公家のようなクールな演技で見事に成果を出している。観る側にあまりぶれを起こさせず、見せる側が思ったとおりに観客をコントロールする、そんな舞台だった。
ストーリーだけを追っていくと救いのない悲しい話ではあるのだけれど、その中に「面向不背の玉」のエピソードを救いとして配置し、さらに「能」という古典芸能の様式美を上手に取り入れ、源氏物語と現代の事件を結びつけた、見事な舞台だったと思う。4回見て、ようやく「あぁ、そうだったのか」という感じ。もちろん、誤解かも知れないのだけれど、とにかく自分の中では一つの結論に行き着いた感じがする。
何にしても、大竹しのぶは化け物だ(笑)(良い意味で)。☆3つ。