2009年09月29日

私の中のあなた

f7721afc.jpgYahoo!のオンライン試写会で観た。オンライン試写会はどうしても画質が悪いし、音響も当たり前に悪い(一応外部スピーカーを使っているのだが)。明暗の差などもわかりにくく、映画の良さは10%ぐらいにまで損なわれてしまうと思う。しかし、それでも、全体のストーリーを把握することはできる。字幕なので、セリフが聞きにくくても、意味はわかる。邦画よりはまだまともに観ることができるので、一応の評価は可能だと思う。

小児白血病に侵された娘を救うために、遺伝子操作をして妹を生んだ家族のお話。僕のように分子生物学やそれに関する倫理問題をいくつかかじっている人間にとっては非常に興味深い設定。ドナーとなるべくして生まれてきた子供が11歳になったとき、腕利きの弁護士を雇って臓器移植を強制する親を訴える、あたりまでは非常に面白いストーリー展開だった。

ところが、ここからこの話は普通のメロドラマになっていってしまう。人工的に操作されて生まれた試験管ベイビーの悲哀というものは後半にいくに従ってだんだんと希薄になっていく。挙句、最後にはそんな設定はどこかへ吹っ飛んでしまうのがいただけない。また、法廷シーンもいまひとつ踏み込みが足りない感じ。せっかく面白い設定、面白いお膳立てをしたのに、それら一つ一つが中途半端で、いつの間にか山口百恵主演の「赤い疑惑」みたいな話になってきてしまった。やはりここは先端技術によって可能になった、「既存の生命を救うためだけの目的で作られた新しい生命」について最後まできちんと物語にして欲しかったと思う。終わってみれば、その新しい生命が主人公ではなく、あくまでも小児白血病のお姉さんが主人公なのだ。結局、ありきたりなメロドラマになってしまった。

全然別のストーリーでもあるが、子供のどちらかを選ぶ、というのは古くは「ソフィーの選択」という名作がある。そこには親のものすごい苦悩が描かれていて、だからこそ、メリル・ストリープの代表作となったと思う。ところが、本作はそういったものがない。母親は、無条件に姉を支持し、溺愛する。もしかしたら、彼女の中では、愛する娘と、そのパーツを補完するための物体、ぐらいの切り分けだったのだろうか。これは母親ではない自分ではちょっと理解できないし、想像も難しいのだけれど、何しろ、母親の頭の中では妹の位置づけがはっきりしていて、葛藤がない。そのあたりが凡作になってしまった最大の理由かも知れない。出発点こそ難病の姉のドナーとなるために生まれた命だったけれど、生まれてしまえば娘であり、家族でもあるわけで、その中で姉と妹をどう扱っていくのか苦悩することになる・・・・・などといったストーリーになぜできなかったのか、不思議で仕方がない。

ちょっとした仕掛けがほどこされていて、「あぁ、そういうことだったの」というのが用意されてはいるのだけれど、それも徐々に明らかになってしまう。全体の構成を考えれば、やはりサプライズは前振りなしの方が効果が大きかったと思う。

子役たちは熱演。それは非常に高く評価できる。でも、それを十分に活かすだけのストーリーになっていないのが本当に残念。子供と動物には弱い、というのは洋の東西を問わないのだろうが、それにおんぶにだっこでは駄目。芸達者な子供たちが出てきて、可哀想な重病を演じる、これだけで終わってしまったのが本作という感じ。評価は☆1つ。

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