
ゴールデンスランバー
正直なところ、宮部みゆきや東野圭吾に比較すると文章が下手で、また仕上げも粗く、あまり好きなタイプの作家ではなかった。
そういうわけで、映画となった本作も、あまり期待はしていなかった。ただ、堺雅人、竹内結子、貫地谷しほり、大森南朋、濱田岳、香川照之といった、これからの邦画界を背負っていくと思われる役者さん達がごそっと出ているとあって、これが外れるとしたら監督も相当ヘタクソ、という感じでもあった。
見終わっての第一印象は、「原作はイマイチだったけれど、なかなか良くまとまっていた」というもの。監督は別にヘタクソということはなく、それぞれの役者の良いところを上手に料理していたと思う。大森南朋さんや貫地谷しほりさんのあまりにも端役っぷりには驚いた(相武紗季さんはもっと端役だったけれど、彼女の場合はまぁ仕方なし)けれど、堺、濱田、香川といった美味しいところは良かったと思う。ただまぁ、濱田岳さんは最初からあて書きされた役だったようなので、はまっていて当然。香川さんは最近この手の演技ばかりを要求されていて、ちょっと食傷気味ではある。この調子で行くと柴咲コウさんみたいに、何をやっても「またコレか」と思われてしまうような役者さんになってしまいそうでちょっと怖い。本作で言えば、例えば堺さんと香川さんの役を入れ替えるぐらいに思い切ったことをやれば、「おぉっ?」と観る側を驚かせることができたはずで、そういう意味では想定内の完成形だったと思う。ちなみに役者で言えば、異論が出そうなのは吉岡秀隆さんの評価。僕は彼のことは北の国からの一番最初の放送からずっと観てきていて、決して嫌いな役者さんではないのだけれど、やはり何をやっても純みたいな感じになってしまい、本作でも「あれ?純、今は富良野じゃなくて仙台?」みたいな印象を受けてしまう。彼の起用は、僕はちょっと失敗だったと思う。
映画は140分程度とちょっと長めだけれど、途中で飽きてしまうこともなく、最後まで普通に楽しめる。観客をミスリードするような仕掛けもなく、だから取り立てて警戒する必要もない。そのあたりの、肩肘はらないカジュアルさは日本の映画ファンには好意的に受け取られるのかも知れない。ただ、万人受けはするものの、「これは!」と思わせるものがなかったのも事実で、それは逃亡のシーンに緊迫感が全然なかったからだろう。危機一髪、という部分がないし、単に、撃たれても、撃たれても、なぜか当たらないだけ。ぐるりと取り囲まれてもあっさり逃げ出すことができてしまうのも、「警察は何をやってるんだ」という感じ。あと、あまりにも都合よくキルオが出てくるのもちょっと興ざめ。出てくるなら出てくるで、もうちょっとその背後をきちんと描いてくれればなぁと思う。
見ていてちょっと疑問に思ったのは、まずカローラのCMソング。あの歌、知らないけど、いつの歌なんだろう。それとも、完全に創作なんだろうか?主人公たちが大学生後半ぐらいでシーマンの世代、最近のシーンで出てくるのが2世代前のiPod nanoとかだから、彼らが大学生の時が2000年前後、そして現在の設定が2005年ぐらいなんだと思うのだけれど(でも、竹内結子さんの劇中年齢は30歳とかだったような気がする)、あんな歌、全然知らない。ところが、その歌を聞いた人がみんな「あぁ、それそれ」と思い出すのはなんか不思議だった。
それから、花火。ラストシーンでテレビ中継の顛末があれだったから良かったものの、当初の予定通りだったらば花火は余計だったはず。それに、いつの間にあんなにたくさん、それも厳戒態勢の中で仕掛けられたのか不思議。そして打ち上げ時には道路に人っ子ひとりいないのも不自然。いたら大惨事になってしまいそうだったけれど。
「信用するしかない」という主人公のスタンスは理解可能だけれど、彼の話をみんながみんな全く疑わないのも不自然な感じ。
吉岡秀隆さんが物凄く勘が鋭いのもなんだか不思議な感じだった。あそこまでの洞察力は普通ないと思う。
ところで、小説では仙台を監視度合いの高い地域として仮想設定してあったけれど、その設定が外されていた。これはこれで良かったと思う。というか、原作の設定は不自然すぎた。
個人的に好きだったのはキスシーン。
ということで、マイナスポイントもあるけれど、最近のアニメ以外の邦画の中ではかなり上の方にランクされると思う。評価は☆2つ半。