2010年03月02日

おとうと

9ea85953.jpg一般論としては、この手の映画は決して嫌いではないはずなのだけれど、どうも駄目だった。

まず、冒頭。ノスタルジーを味わいたい人に向けてなのか、大雑把な昭和史が説明的に展開される。しかも解説のセリフ付き。これをやるのって日本映画の一つの特徴とも言えるのだけれど、冒頭で説明するわけです。これがいただけない。もっと、言葉とか、資料画像とか、そういうのじゃなく、エピソードで導入できないものだろうか。今回だって、別に冒頭のシーンが必要不可欠とは思えない。何かのマネなのかも知れないけれど、こういうところは真似する必要もないはず。あぁ、また始まっちゃったよ、という感じ。まるでテレビでNHKの特集を観ているような工夫のなさ。この時点で大分げんなりする。第一印象って、大事だからなぁ。

そして、そこからは延々といくつかの家の中のシーンでつながっていく。外のシーンが全然ないところは非常に演劇的。このキャストで、舞台で見せたら結構面白くなりそう。でも、映画館ではちょっとキビシイ。もちろん古き良き日本映画の雰囲気はある。というか、それを狙っているんだと思う。抑揚がない場面展開、どんよりとした曇り空で彩度に乏しい画面、時々盛り込まれる乾いた笑い。それらのどれもこれもが「あぁ、日本映画」という感じではある。いわば、お茶の間のドラマ。そしてテーマは老いとか、家族とか、孤独とか、そういった現代的であるけれども、決して新しくないもの。

こういったパーツが映画として(テレビドラマではなく)パッケージングされるとどうなるか。眠くなる(笑)。

もっと、寅さんみたいにコメディが前面に出ているならともかく。もっと、ドラマチックな事件が発生するならともかく。もっと、びっくりするような展開があるならともかく。

この映画、ほとんどの人は吉永小百合さんを観に行くんだろうけれど(実際のところ、席に座っている人たちはほとんどがリタイアしている人たちのように見えた)、その中で蒼井優さんを観に行ってみた。彼女は、決して悪くないけれど、「百万円と苦虫女」のような存在感が今ひとつ感じられなかった。これは監督の演出なんだろうし、この映画の中では彼女に限ったことじゃないんだけれど、とにかく感情の起伏がなく、振れ幅が小さい。結婚式で大暴れされようが、離婚しようが、新しい恋が始まろうが、知り合いが死に直面しようが、どの場面でも抑えた演技。抑えた演技が全て悪いとは言わないけれど、もうちょっと、なんとかならないものだろうか。鶴瓶さんも、ディア・ドクターの方が良かったなぁ。

一番不思議だったのは、三代の女性たちが、揃って駄目なおとうとを受け入れる展開になったこと。もちろん、何かのきっかけがあったのならわかる。ボケちゃって、家族から隔離され、孤独を味わっているおばあさん、旦那に先立たれて、東京の下町(でもないか、石川台なら、田園調布や自由が丘って感じではないけれど、でもまぁ、大田区、世田谷区の流れ)でひとりで頑張っているお母さん、医者と結婚したものの、すぐに離婚してしまった出戻りの娘。それなりに抱えているものはもちろんあるけれど、彼女たちがほとんど同時に、おとうとに対して同じような心の開き方をしたことをちょっと奇異に感じる。本当は、それがシンクロする理由があるんだと思うのだけれど、ちょっと暗示的すぎて、映画の中ではきちんと伝わってくるものがなかった。そこまで映画に対して好意的に歩み寄らなくちゃいけなかったんだろうか?

もうひと頑張り、という感じで評価は☆1つ(蒼井優さんに☆半分おまけ)。

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