半年ほど前に「「匿名性」の文化から演劇を取り戻してください」というエントリーで野田秀樹さんの考えるところの「良い芝居」を見ると約束したので、松尾版「農業少女」を観てきた。
これに先立って、タイ版の農業少女も観ているのだけれど、その感想はこちら。
農業少女 バンコク・シアター・ネットワーク版
さて、本作。タイ版に比較すると遥かに野田版に近い仕上がり。ただ、演出が違うとこうも違うのか、という感じ。そもそも、野田版のときとは劇場の構造が全然違っているはず(舞台を挟んで両サイドに座席があって、列も5列ぐらいまでしかなかった気がする)。小道具の使い方も大分あっさりした感じだ。野田版の時はこれでもか、というくらいに携帯電話が前面に出たけれど、今回はそうでもない。野田さんは携帯を使う際に役者にことさらに携帯電話を意識させるところがあると思う(ザ・ダイバーとかでも)のだけれど、松尾版ではそこに執着は感じられず、さらっとした感じ。一方で音声を加工したり、テレビモニターを使ったり、手品を多用したりといったところは松尾版の工夫という感じ。野田版よりも大きい箱を使って農業少女をどうやって見せるのか、という課題に対する松尾さんの回答がこれなんだろう。それなりにカラーが出ていたと思う。
今回、個人的に注目したのは多部未華子さんという女優さんがどこまでこの役を消化できるのか、ということ。朝の連ドラに出ていたのは知っていたけれど、なんかドタバタっぽい作りだったので見てなかった。他に特に活躍しているところも観ておらず、どの程度できるのかなー、と、ちょっと興味津々だった。それで、観た感じだと、意外と声がしっかり出ていて、これだけでもかなり高評価。今日は5列目で観ていたんだけれど、表情とかもなかなかに生き生きとしていて、良い感じ。ただまぁ、どうしても荒削りというか、演技における感情表現の幅が常に大きいところで一定していて、メリハリがありすぎる感じ。つまり、1〜10までのレンジがあるときに、1と2と9と10は上手に使えるんだけれど、3〜8の部分がもうちょっと、という感じだった。でも、テレビや映画を中心に活躍してきて、芝居はこれがまだ3作目、ということを考えれば、かなり頑張ったと思う。舞台役者としての今後に期待したいところ。
主演男優の山崎一さんという人も舞台で観るのは初めてだったけれど、結構落ち着いて上手にやっていたと思う。一方で吹越満さんは舞台の人だから、全く危なげない。この二人がきちんと脇を支えていたので、多部さんも安心してやっている感じだった。江本純子さんも実際に観たのは初めてだけれど、無難な感じ。吹越さんと江本さんの二人羽織っぽいシーンはちょっとした見所なんだけれど、息の合い具合がもう一歩、二歩。あそこがピッタリ行くと面白いと思うんだけれど。吹越さんが噛んだら江本さんが頭をぺちんって叩くとかね。
セリフを噛むといえば、始まったばかりということもあってか、みんながあちこちでセリフを噛んでいて、「もうちょっとガンバレー」って思わないでもなかった。
しかし、ストレートに言ってしまうと、やっぱりこの芝居は深津っちゃんの芝居なんだよな。本当に、野田芝居は最初のキャスト以外がやるのって凄く難しい。
今日の出来だと評価は☆1つ半。でも、もうちょっと小慣れてきたらすぐに☆2つになると思う。ただ、☆2つ半までは難しいかな?前売り券は完売しているみたいですが、当日券は並べば買える感じです。
ちなみに、あんまり関係ないけれど、自慢する機会が全然ないのであえてここで自慢しておくと、下記で出品された一品物のTシャツは僕のところにあります。
BUNGALOW50 [バンガロウ50]【松尾 スズキさん提供!】アートピース
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