9大学総長・塾長による緊急政策提言
「国家の成長戦略として大学の研究・人材育成基盤の抜本的強化を」
−新成長戦略、科学技術基本計画の策定等に向けた緊急政策提言−
これって、大学関係者はみんな歓迎しているんですかね?皆さんの受け止め方は良くわからないのですが。今日はスキーに行くつもりだったんだけれど、どうしてもやっておかなくちゃならない業務が発生して仕事していたので、その合間を見てちょっと見てみた。うーーーん。誰に向かって発表したのかな、と思ったら「国民の皆様方」という文字も含まれていたので、僕に対しても発表されているらしい。ということで、ちょっとコメントしてみよう。以下、引用はリンク先のPDFファイル。
我が国が今日の繁栄や国際的地位を築くことができた原動力は、優れた人材と科学技術・学術の力にあります。
どうなのかな。日本が頑張ったのは昭和40年代、50年代ぐらいだと思うのだけれど、科学力ってそんなにあったのかな。技術力はあったと思うけれど、それはよそから持ってきたものだったような気もする。ちょうど、今の中国、インド、シンガポールみたいな。そして、あとは貧乏な国民のハングリー精神。そういう意味では「優れた人材」というのはそのとおりなんだけれど、それを育てたのは戦後の敗戦環境であって、大学じゃないと思うけど、どうなんだろう。
「知の拠点」である大学の研究・人材育成基盤の抜本的充実を図ることが不可欠です。
大学って、こうやって国にべったりでやっていかなくちゃいけないのかな。国に隷属するってことだよね。あと、税金として集めたお金を傾斜配分するっていうことの正当性も良くわからない。地方在住の人は自分たちの税金は地元の大学に傾斜的に配分して欲しいんじゃないのかなぁ。だからって、公立大学っていうのもピンと来ないんだけれど。だって、横浜市民だからって、払った税金をきちんと回収するためには横浜市立大学に行かなくちゃならないっていうのは変だし。って、これは主要な論点ではないのだけれど。
天然資源に乏しい我が国が、今日の繁栄や国際的地位を築くことができた原動力は、優れた人材と科学技術・学術の力にあったことは衆目の一致するところです。
上にも書いたけれど、衆目が一致しているのかはちょっと疑問。ただ、「優れた人材と技術力」なら僕は納得。納得するけれど、優れた人材と技術力のベースが日本の大学によって築かれたのかと問われれば、ノーだと思う。
中でも大学は、「多様性を特徴とする知の源泉」であり、知の創造を通じ、政治、経済、行政、科学技術・学術など、国を支え牽引する分野の中核を担う人材を育て、社会に送り出すとともに、社会の発展に貢献し、国の存在感を高めてきました。
これまた疑問。大学は看板を与えただけで、知識や教養はあんまり与えてきていないと思う。大学では何も勉強してない人間が多かった。少なくとも日本が経済成長していた時期は。今の大学生の方がよっぽど勉強していると思う。でも、役には立たない。つまり、大学なんて別に何の役にも立ってないという考え方もできる。
大学は、教員が学生と共に研究を行う中で人材を育成し得る唯一の機関です。
「教員が」とすればその通りだが、人材育成は別に大学じゃなくてもできる。
社会が急速に変化し複雑化するとともに、人口爆発、資源不足、地球温暖化など人類未経験の課題に直面している現在、「知の拠点」、「国力の源泉」として大学の果たすべき役割や使命は、ますます重要となっています。
この部分は同意。ただし、日本の大学がその役割や使命を果たせるかどうかという点についてはかなり懐疑的。そして、それはお金で解決できる話じゃない。
我が国の生命線である知的基盤は崩壊し、国際競争力を完全に失いかねません。
そうかな?人材はお金で調達可能。自前で育成することは、必ずしも必要ではない。
研究開発やイノベーションを担う優秀な人材育成への投資が最も大きく寄与することが国際的な研究でも明らかになっています
本当に?人材への投資は貢献するだろうけれど、人材育成への投資が寄与するの?
大学、特に研究に重点を置く総合研究大学への投資は、人材育成やイノベーションを通じて新たな需要・雇用を創造し、生産性を高めるなど、国の成長にとって不可欠な「未来への先行投資」です。
要は、「右や左の旦那様、哀れな私たちにお恵みを」ってことかぁ。
若手研究者の育成・支援の充実は、科学技術・学術、高等教育政策上、最も重要な政策です。
それはそうかも知れない。でもさ、日本は教授がドンっと座っていて、下っ端は単なる労働力でしょう?大学を支援しても、それは若手の育成や支援になんかならないんじゃないの?組織に支援するべきじゃないんだよな。人材そのものに融資するというのなら納得。
国立大学運営費交付金や私立大学経常費補助金等の基盤的経費が年々削減され、国立大学の教職員には一般公務員と同じ人件費削減が課せられていること等により、若手の安定的ポストの確保が困難となり、不安定な任期付雇用が一般化しています。
若手の安定ポスト確保が困難なのが問題なんじゃない。年寄りのポストが安定していて若手にリプレースされる機会がないのが問題なんだよ。
産業界で博士人材の採用が進まないなど、大学教員以外のキャリアパスも十分整備されていません。
産業界が悪いんじゃない。博士が使いものにならない(あるいは、使いものにならなかった)、あるいは本当は使えるのに、そのことについてきちんと情報発信、アピールできていないのが問題なんだよ。使えない博士を量産している大学はそのあたりまず反省しないと。あと、博士の方だって就職先を選り好みしているよね。あそこは嫌だ、ここは嫌だって。例えばうちの会社はいつでも門戸を開いているけれど、滅多に就職希望者は来ないし、来たと思ったら迷惑だけかけて辞めて行くよ(笑)。やっぱり大学が居心地が良いらしい。
国立大学の人件費削減方針を撤廃
笑。っていうか、国立大学は全部廃止したらどうなんだろう。郵政の次は大学を全部民営化するとか。これは結構良さそうだなぁ。
給付制奨学金の創設や日本学術振興会の特別研究員の増員、競争的資金によるリサーチ・アシスタント経費の措置など、経済的支援の拡充
給付じゃなくて、融資にしたら?稼げるようになったら返してもらえば良い。稼げるようにならなかったら、それはまぁ、仕方ない。組織じゃなくて、人材に直接融資するのは凄く良いと思う。
研究大学等のネットワークの中でPDを継続的に雇用するシステムの構築
アホか。そんなことやったら、科学者の既得権化が進むだけじゃないか。どうして大学関係者ってこういう社会主義的な考え方なんだろうね。あぁ、だから駄目なのか(笑)。まぁ、弁護士とか、社会主義者が多いものなぁ。その多くが既得権者だけれど。既得権者が考えることは大抵の場合、ろくでもない。なぜって、すでに持っている権利を守ったり、強化したりすることを考えているから。
実践的な博士課程教育等を通じた博士人材の雇用促進
何を言いたいんだか良くわからないけれど、要は博士人材の雇用確保をしようってこと?で、博士号を付与する大学そのものの権威化を進めようってことかぁ。これまたアホらしい。
総じて、この(1)に書かれていることは「だからお前らはだめなんだよ」という内容だなぁ。さて、(2)を見てみよう。
国立大学運営費交付金や私立大学経常費補助金等の拡充
はいはい、また右や左の旦那様、ですね。
科学研究費補助金の拡充
以下略。
公募申請から成果の権利化まで研究プロジェクトのマネジメントを支援するリサーチ・アドミニストレーター
笑える。天下りの温床になりそうですね。いや、実際、行政でこういう仕事を担当していた人間がスピンアウトしてコンサルタントをやっているケースって、時々あるんだけれどね。
先端研究・大型研究を支える施設・設備整備補助の拡充
国民にこれを訴えるなら、ちゃんと費用対効果を説明しないと。
近年価格上昇が大きな問題となっている電子ジャーナルの安定的確保
市場原理が働いているってことでしょう?余計な介入をすれば余計におかしなことになるんじゃないのかなぁ。高くて困るなら、安くて良い雑誌を作れば良いじゃん。それができないのなら、そのコストが消費者負担になるのは仕方がない。で、それを国が援助するっていうのは良くわからないなぁ。まず、誰かがやってみないとだよね。
研究費の使用ルールや、検査の簡素化
これは悪くない。あと、不正の厳罰化ね。結局のところ、検査が複雑になっているのは少数の不届き者が悪いことをするから。そういう事例に合わせて「きちんと検査しないと」ってことになっちゃう。おかげで、周辺にいる沢山の正直者達がとばっちりを食う。そうならないように、まずは不正に対して厳正に対処しないと。
学術振興の中核的機関である日本学術振興会や、大学共同利用機関等の機能強化
民間でやれ(笑)
(2)も総じてろくでもなかった。(3)も政策的にやるような話じゃなくて、大学が自分でやりゃあ良いこと。ただ、ひとつ笑えることがあったのでピックアップしておくと、
若手研究者の海外武者修行の拡充
おっと、日本に武者修行に来てもらえるように頑張るのは放棄しちゃったのね(笑)。まぁ、ワールド・ベースボール・クラシックで連覇しようとも、日本のプロ野球がメジャーリーグの上に行くことは多分ないわけで、日本の研究現場にインドからは人が来ても、欧米からはあんまり来ない、というのはあんまり変わらないし、変えようとも思っていないんだろうな。
(4)は国民に対してという感じの内容じゃないね。役所に対するアピールはわざわざ外部に出す必要ないじゃん。
(5)も、なんだかなぁ、という内容。今までやるべきことをやってこなくて、おかげで国民の信頼を失っているわけでしょう?大学は。そういう中で「お金をくれ」って言われてもなぁ。個人的には、大学よりも個人に投資(融資)するべきだと思うけれど。組織にお金を出しても組織の中で消化されちゃうからなぁ。
我々大学も、研究・教育の状況を学生・保護者はもとより、産業界、国民の皆様にわかりやすく発信し、積極的に理解と協力を求めていく所存です。
「これからやります」じゃないんだよね。「これをやってます」っていうところがスタート地点のはず。まだ何もやってないじゃん。まずはきちんと費用対効果を説明して欲しい。どの程度の税金を使って、どういう成果を出したのか。本当に科学に投資したら経済の発展に寄与するのか。そのあたり。提言よりもまずは評価とその発信をして欲しいところ。
国民と大学の関係において、国民から大学へお金を流すためには、当然のことながら一定の手続きが必要なはず。ところが今まではそれがなかった。大学と、国民の代表であるはずの政治家・役人との間でだけ合意がなされていた。でも、ネットのおかげもあってか、ようやくそれじゃぁ駄目だってことになりつつある。そして、国民と大学との関係構築がようやく始まったところ。それで、国民と大学の双方が十分な情報を共有している状態で自発的に行う経済活動であれば、それは必ず両者にメリットをもたらすはず。国民が自発的に行動に出ないのであれば、国民にメリットがないか、あるいは国民に対して十分な情報が提供されていない、ということである。残念ながら今回の文書を読む限り、提言者達は揃いも揃ってそのあたりがわかっていない印象を受ける。
個人的な感覚では、経済成長を目指すなら一番必要なのは科学技術への投資なんかじゃなくて、減税だと思う。まぁ、意見は色々あるんだろうけれど、少なくとも「科学技術は一番じゃない」ってところはかなりの人が同意すると思う。そういう中において、「なぜ大学に投資しなくちゃならないの?」っていう問に対して、国民が納得する回答を大学はまず用意しないと。
今回発表された文書は、減税、労働市場の流動化、規制の緩和、情報共有の促進といった、いかにも経済成長に効果がありそうなことに対してベクトルとして反対方向のような。まぁ、社会主義的な色彩を濃くしつつある民主党政権には受け入れやすい性質かも知れないけれど、この手の文書は一度出したら引っ込められない。いつまでも社会主義的な政権が維持されるとは限らず、あとで取り返しの付かないことにならないように気をつけないと。僕の場合、特に「科学」という部分については経済成長にダイレクトに寄与するとは思っていなくて、だから科学への投資を説明するときに経済成長を引っ張り出してくるのはあんまりオススメできないと思っている。
あと、「博士」という看板は非常に限定された部分での能力を担保したもの。それを以て就業保障とか、アホかという感じだし、この手の「看板」が機能している世界はマトモじゃないところが多いというのが僕の印象。マトモじゃないんだから、わざわざそれを新設する必要はないでしょ、と思う。でもまぁ、やっぱり、一度権利者の座に座っちゃうと、自分たちの権利は強力にしたくなるんだろうねぇ。そんなところが透けて見えちゃう。その下にいる人たち(就職難で困っている博士とか)は「この人たちについて行けばなんとかなるんじゃないか」とか思うんだろうけれど、実際にはそういう風にはならないのが悲しいところ。