2010年05月23日

ブログでバイオ番外編 種牛49頭を処分しないことにはどういう意味があるか

口蹄疫に関しては、食べたって人間には害がないんだから食っちゃったらどうか、とか妙な意見がTwitter内では飛び交っていて、かなりやれやれな感じですが、こんなニュースもあったので、ちょっとブログでバイオの番外編。

種牛49頭も殺処分回避を=宮崎知事、国と協議へ―口蹄疫問題

なぜ殺処分にしなくてはならないかって、それは感染拡大を防止するため。畜産業を守るために最も効果的かつ合理的な手段だと国際的に合意されているから日本でも採用されている。

まず口蹄疫について簡単に確認。

1.人には基本的に感染しない(キャリアになる場合はある)。
2.家畜に感染しても致死率は高くない。ただし、家畜としての価値は下がる。
3.感染力は非常に強い。
4.発症していなくても感染源となりうる。
5.感染力が非常に強いため、国際的に「治療」という選択肢はない。
6.放置した場合、日本は国際的に「口蹄疫輸出国」「口蹄疫インキュベーション国」と認識され、国際的信用が著しく低下することは間違いない。また、成畜に比較して幼畜の致死率が高いため、継続的畜産業が成立しなくなる。

#今でも口蹄疫ウイルスには複数のタイプがあるが、RNAウイルスは変異が容易なため、国内で蔓延した場合には様々な変異体が発生する可能性がある。少なくとも、「もう良いよ、人間で言えばはしかや水疱瘡みたいなもんだから、みんな感染させちゃえ」なんていう選択肢はあり得ない。

次に、今回の49頭の殺処分について考えておくべきことは次の4つ。

考えるべきこと その1
殺したことによるダメージ→東国原知事は「日本の畜産に壊滅的な打撃」と主張済み

考えるべきこと その2
生かしたときに感染が拡大する可能性→不明だが、0ではない。

考えるべきこと その3
生かしたことによってもし口蹄疫が拡大した時のダメージ
「生かす」との意思決定をした人間の責任の取り方
「生かす」ことを要請した人間の責任の取り方
その他、関係者の責任のとり方

考えるべきこと その4
公平性
→どの畜産農家も、自分の農場の未発症家畜を殺処分したくはない。なぜ49頭を特別扱いするのか、論理的に提示する必要がある。

東国原知事が国に要請を出すのは構わないが、セットで「生かしたことによってもし口蹄疫がさらに拡大した時の自身、および宮崎県の責任のとり方」を明示する必要があるはず。感情論をベースにした一方的な主張を繰り広げるのは首長の役割ではない。でも、残念ながら、今のところ東国原知事の発言からは論理的な主張やそれを支える理論、そしてその判断が間違っていた場合の責任の取り方が伝わってこない。少なくとも、「まだ生かしている」という話を聞いた近隣県の畜産農家達は心穏やかではないはずだ。

もし被害がさらに拡大して、九州全域、あるいは日本全国の畜産業が壊滅した場合のリスクを考えたら、今回の要望は簡単には出せないものだと思うのだが、東国原知事はそこまで考えているんだろうか。

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