小説を読んだので、映画も見てみた。
基本的に、原作に忠実なつくり。細かいところで変更があるけれど、ほとんど原作通りと言っても良い。原作は複数の人間がそれぞれ自分の視点から語る方法だったけれど、映画になって、ここはほぼ時系列に沿った形に組み替えられている。この組み替えが非常に上手で、結果として馬鹿にできない映画になったと思う。
一方で、映画らしさの主張を映像表現に求めた部分があるのだが、こちらに関してはちょっとどうなのか。生徒たちが泥水の中を走っていくシーンとか、空のシーンとか、ストーリー的には意味のないシーンがあちこちで挿入されるのだ。そういった映像で作品に深みが出るという考え方もあるのだろう。こういう昔のフランス映画のような演出は好みが分かれるところだけれど、僕は好きではない。また、逆回り時計を使った映像表現もどうなんだろう。「ほら、これは小説とは違うんだよ。映画らしさを感じて」みたいな押し付けがましさを感じてしまう。そういうものがなくても、映画らしさというのはアピールできるはずである。もちろん、そういう、押し付けがましくない映画らしさなどもあったとは思う。黒板に「命」と書く場面などはその代表。
役者で良かったのは松たか子と木村佳乃のふたり。松たか子は野田秀樹の演劇で何度も観ているので、彼女の演技力が非常に高いのは知っていた。彼女の演技はどちらかというと舞台よりも映画向きなので、今回は非常に良い役を手に入れたと思う。内に潜む狂気を目で伝える、という役どころをしっかりとこなしていた。木村佳乃が芸達者なのも周知のことなので、この映画での演技も全く不思議ではない。これらの役者の、持ち前の才能をきちんと引き出した演出力も評価されるべきだと思う。
原作がそこそこに勢いのあるもので、それを映像化しているのだから、どうしても原作との比較になる。しかし、原作のイメージを違和感なく映像化したという点で、良い映画なんだと思う。
評価は☆2つ半。松たか子、木村佳乃の二人はそれぞれ年末の賞候補。
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