2010年09月08日

表に出ろいっ!

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大きな仕掛けがあるわけでもなく、場面はずっと同じ。ひとつの部屋で家族3人が織り成す会話劇である。野田秀樹、中村勘三郎の仲良し二人組にまだあまり舞台経験のなさそうな黒木華という女優さんの3人が登場人物。上演時間は約70分と短め。

NODA・MAPの番外公演は大抵の場合何かしらの小道具が大活躍するのだけれど、今回は「これ」というものが特になかった。強いて言えば、カラフルな色使い。これが照明の細工によってだんだんと彩度を失っていく演出が面白い。

家族3人はそれぞれディステニーランド、ジャパニーズ、あと、マクドナルドはなんだっけ、まぁ、どこかのファストフードにはまっている。そんな家族のうちの誰が留守番をするのか、という口論が延々と続いていく。表現されることがらはどこの家族でもありそうなことばかり。次から次へと出てくる乾いた笑いはちょっとした漫才を見ているよう。

しかし、正直なところ、野田秀樹の女役はもうすっかり見飽きてしまった感もある。やっぱり、粕羽聖子あたりが一番面白かった。って、それはもう20年以上も前?ということは、ずっとこんな感じでやり続けているのか。ある意味で定番ではある。定番ではあるのだけれど、正直ちょっと飽きてきた感じもする。その上で、中村勘三郎。最近は橋爪功と並んで野田秀樹のお気に入りのおじさん。もちろん非常に上手だけれど、やはり同じ舞台でも、ちょっと距離感の違う世界の人だから、こういう小さい舞台でのお客さんとの距離感は掴みづらそうにしている。必要以上にテレがあって、必要以上にテンションが高く、そのあたりの様子が逆にシラけた空気を生んでしまう。言葉にすれば、

野「ねぇ、俺の土俵にあがってみてよ」
中「いいよ、ちょっと照れくさいけどねぇ」
野「大丈夫、俺なんか、女役をやるんだよ」
中「でもさぁ、慣れてないし」
野「平気、平気。みんなそういう、普段見せない歌舞伎役者の別の顔を観たいんだから」
中「そうかぁ、じゃぁ、ちょっとやってみようかぁ」
野「そうだよそうだよ、軽い気持ちで行こうよ」

みたいな雰囲気なのだ。

だから、この二人だけで芝居を仕上げていたら、なんか仲間内による内輪受けの芝居になっちゃっていたと思う。もちろんそれでも許してもらえる雰囲気があるし、許してもらっても全然不思議ではない超一流の二人ではあるけれど、やはりそれでは全てのお客さんを満足させることはできない。

そんな、予想外に難しい状態を上手にまとめ上げた「つなぎ」が黒木華である。彼女は第一声から素晴らしかった。確かに荒削りの部分はある。昔で言えば、第三舞台の山下裕子みたいな感じ。ただ、これは無理に類型化すれば、ということであって、独特の雰囲気を持った女優さんである。何より、声がきちんと通るのが良い。小さめの舞台だったということも彼女にとっては追い風だっただろう。彼女の魅力が十分に生かされるものだった。

ここでちょっと思うのは、野田秀樹の演出家、劇作家としての能力に関することだ。僕が、非常に買っている彼の能力の一つに、「役者の能力を上手に引き出す」というものがある。例えば、円城寺あやのように、非常に個性的で、かつ使い方が難しいと思われる俳優さんを非常に巧妙に使ってきた。その、役者さんそれぞれをきちんと芝居に当てはめていく能力は他に類を見ないと思う。だから、彼女が彼女の能力や魅力を最大限にアピールできる舞台が用意されていることについて、それほど大きな驚きはない。興味深いのは、この芝居がダブルキャストである、ということ。もうひとりの役者さん、太田緑ロランスがこの舞台をやるとどうなるのか、ということだ。僕はもう一回分のチケットを持っているのだけれど、運悪く次も同じく黒木華の舞台になってしまった。彼女は彼女で非常に魅力的だったし、彼女の演技をもう一度観ることに不満はないのだが、もうひとりの舞台もやはり観てみたい。

当日券で観るしかないかな。

ところでこの芝居、後半に前回の本公演「キャラクター」の要素が出てくる。もちろん、そのことは「キャラクター」を観ていなければわからない。だから、「あれ?」という感じで終わってしまうラストのセリフも、もしかしたら何かに関係があるのかも知れない。歌舞伎なのかも知れず、能かも知れず、あるいは落語かも知れないのだけれど、何か、背景で知っておくべき何かがあったのだろうか。もしそれがあったのなら、あのラストも納得ではある。何もないとするなら、「お茶が怖い」ぐらいの落ちが欲しかったのも確かなのだが。

小品としては非常に楽しめた。評価は☆2つ。

2010.9.7
東京芸術劇場 小ホール1 D列9番 7500円

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