昨日の朝生で出てきた意見をベースにちょっと考えてみる。
サービスが儲けに直結しない(勝間)というのは、ある意味でその通りだと思う。ライブログの商品で言えば、「どうぶつしょうぎアプリ」にしても、「ヘアカットJP」にしても、黒字に乗せるまでにはかなりのパワーが必要だ。ただ、それぞれに「なぜ儲からないの?」ということに対して明確な理由もある。まずどうぶつしょうぎアプリ。このコンテンツの魅力については疑うところがない。文句なしに面白い。ただ、残念なのは、弱いCPUと対戦機能がないことである。この二つが搭載されたら、きちんと採算に乗ると確信している。その二つがまだ搭載されないことにはいくつかの理由があるのだが、大人の事情をここで書いても仕方がない。そして、今となってはもうその大人の事情は関係なくなりつつある。つまり言い訳はできない状態でもある。スピードアップしたければ借金するなり、資金調達するなりしてスピードアップすれば良い、という状態になった。ノロノロしているのは僕の責任でもあるので、頑張ってスピードアップさせていきたいと思っている。どうぶつしょうぎアプリについて言えば、正直、最初はデザインもイケテなかったし、機能的には今でもまだ今一歩だと自覚している。ただ、AppleのAppStoreの良いところは、そんなレベルの商品であっても、完成度が今ひとつでも、それをマーケットに出せてしまうことである。考えて、良いものにして、それから売るのではなく、考えながら、良いものにしながら売っていくことが可能だ。こういうスキームはベンチャー企業にとって非常にありがたい。このプラットフォームも外国産だけれど、ボーダーレスの環境下で日本でもAppStoreを使うことができることはとても助かるし、ベンチャーを取り巻く状況は変わりつつあるんだとも思う。また、社会の受け止め方も随分と変わってきたんだと思う。以前なら「こんな酷い製品を出しやがって」で終了だった。今は、「もっと強いCPUにして欲しい」「デザインが悪すぎる」「効果音がないと寂しい」と指摘していただいた上で、そうした対応が実現することを待っていてくれる多くのお客様達がいる。これは会社として本当にありがたいことである。そのおかげで、どうぶつしょうぎアプリは少しずつではあるけれど、確実に良いものになってきている。お客様に育てていただいているのがどうぶつしょうぎアプリだ。一方、ヘアカットJPはどうぶつしょうぎアプリよりもずっとあとに開発を始めたけれど、市場に投入した時期はそれほど変わらない。こちらも製品のクオリティ的にはもう一歩のところがあるけれど、今後は主力商品のひとつに成長させていきたいと思っている。この製品の最大の問題点は営業力である。これは非常にはっきりしている。今はその営業力を補うべく、色々な人と会って、どんな協業体制が構築できるのかを相談している。営業担当になってもらえそうな人、会社にお願いしていることは、ヘアカットJPのお客様達(美容室、サロン)の意見をきちんと吸い上げていただきたいということだ。売ったらそれでおしまい、ではない。そのアフターフォローを通じて、ヘアカットJPをより魅力的なものに成長させていきたいと思っている。このマインドはどうぶつしょうぎアプリと全く同じだ。まとめると、二つのサービスは、資金力と営業力という、それぞれ違った要因で「なかなか儲けに直結しない」という状態になっている。ただ、逆風ばかりでもない。だから、「これが原因でベンチャーが育たない」というのは、当たってはいるものの、それは主たる要因ではないというのが僕の考えだ。
意思決定者がリスクを取らない(石黒)というのは、主としてB to Bの場面で、大企業側のスタンスを指摘したものだ。例えば昨日、某百貨店の上層部の人たちと飲み会をやった。彼らにもライブログの商品をいくつか紹介したけれど、「じゃぁ、それをうちで売りましょう」ということにはなかなかならない。これがすなわち、「意思決定者がリスクを取らない」という場面である。僕たちは日本でのビジネスがそれなりに長いので、こういうことにはすっかり慣れてしまった。10の新サービスのうち、あたりは2しかない、という状況で、日本の大企業が考えることは「じゃぁ、全部いらない」ということである。だから、「意思決定者がリスクを取らない」という指摘は概ね正しいと思う。しかし、この状況をベンチャーの側から修正するのは非常に難しい。また、保守的な大企業がそのスタンスを変えるのもなかなか難しい。指摘は正しいが、それを改善するのは、日本の労働市場を流動化させるのと同じくらい難しい話だと思う。
役所がベンチャーの製品を買わない(松田)というのも、上に挙げた事例と一緒だ。役人の人事評価の基本は減点法なので、貢献することよりも非難されないことを重視する。これでは、新しいものを試すなんていうことにはならない。ただ、役所の姿勢は政治主導で変えていくことができるので、企業の風土を変えるよりはずっと簡単だろう。しかし、民主党には無理だ。これをやるためにはみんなの党あたりがもうちょっと力をつけてくれないとダメだと思う。
「村上ファンドとホリエモンが潰されて、ベンチャーを育てていこうという雰囲気が失われた」(田原)という意見も概ね正しいと思う。しかし、彼らが潰されて雰囲気が悪くなったというよりは、もともとの日本の「出る杭は打たれる」という風土が彼らをターゲットとしつつ、「ベンチャーが育たない」土壌を維持したという方がより正確だと思う。公務員も、大企業の社員も、ベンチャーが育つことを心の底から期待してなどいないのである。そして、その他の日本人にとっては、ベンチャーの育成などは、公務員や大企業社員にとってのそれよりも、もっとどうでも良いことなんだと思う。ベンチャーを育成することの大切さを、ほとんどの日本人が理解していない、ということだ。
日本の社会がゼロリスク社会だから、ベンチャーのようなリスクをとる企業形態が難しい(飯田)という意見も概ね正しいとは思うが、これはあまりにも抽象的であり、言及するに値しない意見だと思うので、ここではスルー。
ベンチャーにお金を貸してくれない(辻本)というのも正しい。ライブログもいつもお金には困っている会社だが、信用金庫などはなかなか融資してくれない。僕個人にはお金を貸してくれるのに、会社には貸してくれない。「これでは投資なのか融資なのかわかりませんからねぇ」とは融資担当者のつぶやきだけれど、お金を貸す側がこういう姿勢では確かにベンチャーは育たない。これに関連して「日本は融資が中心だから」(石黒)という意見があったけれど、これには僕は同意しない。もちろん、バイオのように直接金融が重要なベンチャーも存在するのだが、ITなどは直接金融よりも間接金融(融資)の方がずっと助かる。なぜなら、直接金融というのは会社にとってもっともハイコストな資金調達方法だからである。借金で済むなら借金の方がずっとありがたい。それは、そのお金を調達するコストを考えれば明白だ。今は金利が非常に低いから、お金を借りても利子は大したことがない。年利10%としても、1000万借りても1100万円返せば良いだけである。ところが、直接金融ではそうはいかない。1000万円借りて1億円の利益が出たときに、何千万もの利益を持って行かれてしまう可能性がある。くわえて、株を持たれてしまったら、それは基本的にずっと相手のものだ。一方で、直接金融のメリットは「失敗したら返さなくても良い」ということである。ITの会社の場合、普通にやっていれば「物凄い大金をリスクマネーとして投入して倒産」というケースはあまりない。比較的マーケットに近いところでやっているので、大儲けにはならなくても、そこそこに売り上げが立つからだ。ただ、バイオなどは話が別で、こちらはハイリスクの世界。投入したお金は帰ってこない可能性が高い。だから、直接金融の方が助かる。時々、「バイオはハイリスクだから投資の対象にしにくい」と言うベンチャーキャピタリストがいるのだが、これは話があべこべである。ハイリスクだからこそ、キャピタリストには能力が要求され、そして成功したときのリターンが大きいのである。まとめると、ベンチャーとしてはもうちょっとお金が借りやすくなると良い、ということだ。ただ、石原さんの銀行みたいな例もあって、色々難しいんだとは思う。世の中、ちゃんとした会社ばかりではないから。
ひとつの失敗に懲りてもうやろうとしない(松田)という意見は全くそのとおり。失敗してなんぼのものだし、その失敗こそが財産なのに、日本はもうチャレンジしようとしない。ただ、これも、正しい指摘をしても何も変わらない。小さな成功をどんどん積み重ねていくしかない。「なんで日本のベンチャーはだめなんだ」というそもそもの問題提起には、「本当に、全部ダメなの?」という疑問もある。社会のそこここに、小さな成功が蓄積されているんじゃないかと思う。そして、その数が増えていけば、日本の雰囲気も変わるはずだ。だから、僕たちは諦めちゃいけないんだと思う。外部から退場を宣告されるまで、しがみついてでもやっていかなくちゃいけないんだと思う。
ちなみに「起業するなら全部自分で稼いで、家を担保に入れて資金調達しろ」(森永)という意見「だけ」は部分的に正しい。上でも述べたように、ベンチャーにとっては間接金融の方がコストが格段に低い。成功する自信があればあるほど、直接金融に頼るべきではない。ただ、モリタク氏の論調はこういった論理的思考の帰結とは思えないところが残念なところだ。経路がぜんぜん違うのになぜかゴールは一緒だった、ということは良くある話である。
さて、まとめ。僕の「日本でベンチャーが育たない理由は?」という問いかけに対する答えは、「日本人のほとんどが、日本の社会におけるベンチャー企業の必要性を認識していないから」である。
以前、池田信夫さんがブログで「ここまで来ても官民ともに危機感がなく、格差是正とか「強い社会保障」とか内向きの話ばかりしている国にいるメリットは、企業にも個人にもない。バカ高い法人税を放置すると、もうかる企業からどんどん出て行くだろう。」(出典「Exit or Voice」)と書いていたけれど、僕はもうちょっとこの国で頑張ってみるつもりだ。できれば、どうぶつしょうぎアプリも、ヘアカットJPも、日本から海外へ拡大していきたい。
#ヘアカットJPで提携できる方、いつでも募集しております。