
僕達の世代は東西冷戦の真っ最中に生きてきた人間なので、この映画で描かれていることはほとんど(マッケンロー対ボルグとかも含め)リアルタイムで見てきている。なので、「あぁ、裏ではこんなことが」と思うとなかなかに感慨深い。
孤立無援の状態で自分の信念にしたがって諜報活動を続けるフェアウェルが凄い。そして、ただひとり信用した男の家族の安否がはっきりするまで、自白剤を注射されても口を割らないのも凄い。「俺は無理でも、俺の子供はみることができる」と信じての行動が実際に世界を変えてしまったわけで、フランス人の手によってきちんと彼の人生の記録を残せたのは良かったと思う。
冒頭のシーン、中盤での狼の詩、そしてラストシーン。家族を守る一匹狼の映像が説明的すぎずに良い。
しかし、二人のスパイ、信念に突き動かされた人間と、仕事としてスパイをやっていた人間の末路の対照はなんともやるせない感じ。このあたりが、実話の重みなんだと思う。
ちょっと不思議なのは、ブレジネフ、ゴルバチョフが出てきたのに、KGB議長からブレジネフの後任として書記長になったアンドロポフが全然登場しなかったこと。チェンルネンコが全然出てこないのはわかるとしても(彼はこれといって何もやっていないし、すぐに死んじゃったし)、KGBの高官を扱った政治色の濃い映画でアンドロポフが出てこないのはちょっと違和感がある。
残念なのは邦題の副題。なんだ、このタイトル。せめて「フェアウェル ~ソ連最後のスパイ~」ぐらいにしてくれよ、と思う。
史実を描くには派手な演出は不要。淡々と進んでいく本作はそのあたりに正統を感じる。評価は☆2つ半。「カティンの森」ほどの衝撃や感動はなかったものの、普通に面白かった。